eResearch Australasia 2023 Conference 参加報告
はじめに
平木@データガバナンス機能担当です。2023/10/16〜10/20 にオーストラリア(豪州)のブリスベンにて eResearch Australasia Conference が開催されました。本会議は豪州における eResearch(※)の推進を行う団体である Australian eResearch Organisations (AeRO) が主催しています。毎年研究機関、業界団体、関連企業などから多くの関係者が参加し、eResearch に関する実践・枠組みに関する議論や情報共有が活発に行われております。特に Australasia(オーストラリア・ニュージーランド・ニューギニア等を含む地域の名称)における eResearch に関する実践や枠組みが主なテーマとなっています。今年は 400 名近くが参加していたようです。会議の様子が収められた写真はこちらのページからご覧いただけます。
※「eResaerch」という単語は「情報通信技術を活用して研究活動をより良い活動へ変革する」という意味合いを持ちます。日本における「研究 DX」に近いものと考えられます。
会場の様子
参加の目的
今年は NII から私と学術コンテンツ課の松野の二名が現地参加しました。今回私が eResearch2023 に参加した目的は次の三つです。
- ・ 豪州における研究データ管理の動向について情報収集する。
- ・ 豪州の関係者とのネットワーク構築の手がかりを得る。
- ・ NII RDC におけるデータガバナンス機能に関する取り組みを発表する。
平木による発表の様子
会議全体に関する所感
現場で講演を聴講していて、豪州全体で大学職員が研究者に寄り添う姿勢がしっかりできているという印象を受けました。大学側が研究者・コミュニティと密にコミュニケーションを取ってきたというのが重要なのだと感じました。研究支援職が職種として明確化されており、研究者をサポートする体制が整えられていることも感じました。
また、大学だけでなく団体・企業が RDM のステークホルダーとして存在感を持っているという印象も受けました。RDM に関することであれば ARDC、学術用の高速ネットワークなら AARNet、トレーニングなら Intersect Australia Ltd. といった具合です。
Understanding our Research Data as an Asset
今年も研究データ管理(RDM)システム、高性能計算環境(HPC)、トレーニングなど様々なトピックが講演・議論されました。講演資料のほとんどはプログラムのページで公開されております。それらの中から、私にとって特に印象が強かったトピックである「Understanding our Research Data as an Asset」について報告します。
豪州では 2022 年末の時点で 300 ペタバイト以上の研究データが保管されています。今後もますます増大することは容易に想像できますが、データの管理コストも際限なく増大する懸念があります。保管されるデータの中には、本当に残す必要があるデータ(data of value)だけでなく残す必要のないデータ(digital debris)も存在すると考えられます。しかしながらそれらを区別するための方針や基準が不明瞭であり、大学としては研究データを区別なく保存せざるを得ないという状況にあります。
それらの方針・基準を立てることを目指して、ARDC が資金を出している Institutional Underpinnings Extension project のサブプロジェクトとして、以下の二つの観点で「研究データを資産として理解する」ことが議論されてきました。
- ・ RDM Business Intelligence and Reporting
- - プロパティの値に基づきデータの扱いを決定したい。
- - キープロパティはどれか?
- ・ Retention and Disposal of Research Data
- - データの扱い(保持・削除)を判断するためにプロパティの値を知りたい。
- - どう判断するか?また、そのタイミングは?
今年の eResearch Australasia Conference では最後のワークショップが開催され、私はそれに参加しました。このワークショップでは次のテーマで議論が行われました。
- 1. これまでに特定されたキープロパティやデータ保存・廃棄のタイミングに基づき、データ管理、保存、廃棄に BI を適用するときの課題は何か。
- 2. 1 で挙げられた課題の解決策は何か。
- 3. 研究者、IT 部門、図書館、研究部門の人がデータの管理、保存、廃棄に関する BI の意思決定に参加するために、我々は何を提案できるか。
- インセンティブ、リソース、方法、仮定、目標の観点で。
このワークショップで次のような共通理解が得られました。
- ・ 役割と責任をより明確に定義する必要がある。
- 誰が、どの範囲で。 - ・ 研究者のモチベーションを明確にする必要がある。
- 何が「人参」となるか。 - ・ システムはポリシーと手順を有効にする(簡素化する)必要がある。
- スケーラビリティには自動化が不可欠。 - ・ 専門分野ごとに考慮する必要がある。
- 「一次データ」の定義とその取扱いは専門分野で異なる。 - ・ 遵守すべきこととその優先順位をつけることが必要である。
豪州に限らず、日本でもこの先ますます研究データが生成されるでしょう。すでに「データ爆発」が起こっている分野もあると推測されます。data of value かどうかをどう判断するか、という点だけでなく、そもそも「なぜそのデータを残さないといけないのか?」ということも考えていくことが、研究データ管理および自分の研究等の戦略にとって利があるものであると考えられます。
なお、各プロジェクトの成果物が 11/30 に公開されました。以下のリンクよりご覧ください。
- ・ Business Intelligence and Reporting of Research Data
- ・ Retention and Disposal of Research Data: from current to best practices
- ・ The unravelled data lifecycle diagram
終わりに
本会議への参加だけでなく豪州に滞在すること自体も私にとって初めての経験でした。3 年半ぶりの海外出張だったこともあり、色々な面で緊張することが多かったですが、松野のサポートのおかげで無事に目的を達成でき、ブリスベン市街地も楽しめました。今後も RCOS から参加して豪州の RDM に関する最新動向をウォッチしつつ、日本の RDM 動向も見せていきたいところです。
(平木 俊幸)
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