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eResearch Australasia 2019 参加報告

2019.12.17

2019年10月21日から25日まで、ブリスベン(オーストラリア)で開催された eResearch Australasia 2019 に参加してきました。

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セッションの様子

eResearch Australasiaとは、2007年以降、豪州にて毎年Australian eResearch Organisations (AeRO) が主催しているカンファレンスです。公式ウェブサイトによれば、「参加者が新しい情報中心の研究能力に関するアイデアや実例を共有し、連携し、共有する機会を提供」することで「情報通信技術がいかに研究者同士のコラボレーションおよび研究に関する情報の収集、管理、共有、処理、分析、保存、検索、理解、再利用を助けるかについて」伝えることを目的としています。

前回の視察でもリポートした通り、豪州では研究データ管理システムへの組織的な取り組みが積極的に進められています。また、今年度はデータ集約型の研究環境を豪州内でリードするためのイニシアティブ「Australian Research Data Commons (ARDC)」が設立されました。ARDCは、先進的な研究データ管理への取り組みに関する助成プログラムを実施するなど、豪州内の各学術研究機関が政府機関の主導によって協調していく動きを見せています。前回は個別の大学を訪問していましたが、今回はARDCを含めた豪州全体での研究データインフラへの取り組みを把握するために、調査に行ってまいりました。

eResearch Australasiaの初日には、ARDC Data and Services Summitが共催されており、参加してきました。Data and Services Summitとは、ARDCが2019年4月から実施している助成プログラムに参加している豪州の学術研究機関が取り組みを共有し、今後の豪州内での研究データ支援サービスのあり方について議論を行うサミットです。会場でのディスカッションでは、センシティブデータの取り扱いが今後の課題として取り上げられていました。

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ARDCのCEO、Rosie Hicks さんと

2日目から4日目では、様々な学術研究機関の取り組みがトピックごとに分かれて発表されていました。特に私が注目したのは、永続的識別子に関するセッションとデータマネジメントプラン(DMP)ベースの研究基盤システムに関する取り組みです。

永続的識別子についてのセッション(プロポーザル(PDF)発表資料(PDF))では、ORCIDやDOIの動向などと共に、RAiDについての取り組みが紹介されていました。RAiD (Research Activity Identifier)とは、研究プロジェクトとその活動に対する永続的識別子の規格です。 研究プロジェクトにIDを振ることによって、プロジェクト内の研究者ID(ORCID)、関係する成果物のID(DOI)や助成事業のIDをひとまとまりにしていくことを意図しています。 RAiDは今後ISO化するなど、規格標準化に向けて動いているとのことです。

また、DMPを活用した研究基盤システムの取り組みとしては、オープンソースソフトウェア「ReDBoX」を活用した大学における研究データ管理システムの開発事例についての発表が幾つか見られました。ReDBoXとは、 DMPを中心としたオープンソースの研究データ管理ソフトウェアです。その特徴は、ワークスペースという概念で様々な研究支援システムと連携することによって、DMPや関連する研究データのメタデータを記述し、活用することができる点です。カンファレンスでは、ReDBoXを導入した幾つかの大学の事例が紹介されていました。今後、日本でのデータマネージメントプランの作成・活用支援環境を考えるうえで参考になるかもしれません。

最終日は、オープンソースの研究データ管理システム「MyTardis」のハンズオンセミナー(プロポーザル(PDF))に参加しました。MyTardisとは、 計測装置から生成された計測データの保存・管理を主な目的とした研究データ管理システムです。オープンソースで開発されており、Pythonのフレームワーク「Django」によって開発が進められています。セミナーでは、MyTardisの開発背景や導入事例の紹介から始まり、実際にMyTardisを仮想環境上で構築して研究データを登録するところまでを体験することができました。

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ブース会場の様子

カンファレンスへの参加全体を通して印象に残ったのは、会期中に活発にディスカッションが行われていたことです。BoF (Bird of Fether) やワークショップなど、双方向的なセッションも多く、単なる実践事例の発表ではなく協調していく場が作り出されていました。国内ではJapan Open Science Summitが同種のイベントだと思いますが、このような活発さに負けない盛り上がりを国際的に見せられるようなイベントになるといいなと思いました。

(常川 真央)