International Data Week 2023 参加報告
■ はじめに
平木@データガバナンス機能担当です。2023/10/23~10/26 にオーストリアのザルツブルクにて International Data Week 2023 (IDW2023) が開催されました。本会議は研究データに関する国際組織である Research Data Alliance (RDA)、CODATA、World Data System (WDS) により共同主催されました。本会議は研究データ会議である The RDA 21st plenary meeting と SciDataCon 2023 がミックスされる形で開催されました。
本会議には、世界中の研究データ基盤と利活用に関係する分野・立場の人が860人以上集結し、AI 利用まで含むデータ駆動型研究利用とイノベーションを目指してデータ社会の発展に向けた議論が盛んに行われました。平木が確認した限りでは、日本からは13名参加し、うち5名(武田英明教授、谷藤幹子 RCOS 副センター長、古川雅子助教、長岡千香子特任助教、平木)が NII から参加しました。会場の様子が収められた写真はこちらのページからご覧いただけます。
会場の様子
参加の目的
今回私が IDW2023 に参加した目的は次の二つです。
- ・ 世界の研究データ管理(RDM)およびデータガバナンス(DG)の動向に関して情報収集しつつ、連携を見据えて交流する。
- ・ NII が提供する学術インフラにおける相互接続性・相互運用性について発表する。
平木による発表の様子
会議全体に関する所感
実際に現地で参加して、世界各国の RDM や技術に関する話が講演され、非常に幅広い情報を得ることができる素晴らしい場であると感じました。本会議の一週間前に現地参加した eResearch2023 と比べて技術的な話も多かった印象です。また、セッションによっては国単位だけでなく大学単位での RDM システムに関する取り組みもいくつか講演されており、RDM やデータガバナンスに関する様々な視点も勉強になりました。
■ 会議報告
本会議ではデータガバナンスに関連するトピックが多数扱われました。本報告では特に私にとって印象深かったトピックを二点紹介いたします。なお、これらのトピックについて研究データ利活用協議会 (RDUF) 2023 年公開シンポジウム ライトニングトーク-7でも報告いたしました。
Topic 1: Interoperability and Interconnectivity in Developing Open Science Infrastructures
このトピックに関連するセッションがいくつかあるのですが、その中で私が発表したセッションについて紹介します。このセッションではオープンサイエンスに向けたインフラ整備において、南アフリカ、オーストラリア、中国、日本が抱える課題と取り組みが報告されました。各講演で言及された特徴的な課題と取り組みをリストアップすると下表のようになります。特に南アフリカおよびオーストラリアではそれぞれの国の特徴がよく反映される課題が紹介されておりました。
セッション内で紹介された特徴的な課題とサービス・取り組み
Topic 2: Active Data Management Plans
このトピックに関連する次の二つに参加しました。これらのセッションでは、RDM システム内でのデータ管理計画(DMP)の利活用に関する事例が報告されました。
これらのセッションから、海外の大学の RDM システムに見られる特徴として次のような点があると考えます。
- ・ RDM システム内のサービス間で DMP を相互運用する仕組みが実装されています。
- - DMP が machine-actionable な形で活用されている、といえます。
- - DMP のベーススキーマは RDA DMP Common Standards for machine-actionable DMPs です。
- ・ 大学の研究データ管理・公開ポリシーや国レベルポリシーも RDM システムから参照できるようにしています。
- ・ 作成ガイダンス、入力補完、等のサポートが実装・改良されている。
- - ChatGPT を利用したレコメンド機能の開発例も出てきており、RDM にも生成系 AI の利活用の波が当然のごとく来ているという印象です。
大学側にとっては DMP が active である一方で、やはり研究者にとってはまだ additional work 扱いであるという印象を受けました。おそらく「DMP は研究活動後に助成機関に提出するためのもの」という認識が固定化されているのかもしれません。「研究活動に DMP を活かす」という仕組みは、私が見た限りでは中国での「研究データ管理状態を評価する」という取り組みくらいです。
対して日本では、DMP 作成を推進している段階であり、DMP はそれほど普及しておりません。今のうちに DMP を研究活動で active にする仕組みを入れることで、「DMP は助成機関に提出するただのドキュメント」ではなく「DMP は研究活動を効率的に行うためのデータ」であるというような文化にしていきたいと考えております。
これらの topics を受けて
それぞれのトピックの内容を私なりに整理すると次のようになります。オープンサイエンスを目指す研究データインフラの課題としては次の二点が挙げられます。
- ・ インフラ間の相互運用性・相互接続性・持続可能性
- - 国によっては政府戦略と密接しており、国・地域全体にわたる取り組みが必要だと考えます。
- - 加えて研究データ管理・公開に関するポリシーの遵守も重要となります。
- ・ 高品質データの生成・利活用のためのエコシステムの構築
- - 産学連携し、研究者を巻き込むオーストラリアの取り組みには目を見張るものがありました。
DMP を どのように "Active" にするか、に関しては次の二点が挙げられます。
- ・ RDM 用システム間の integration
- - 現在の海外の主流であり、確立しつつあります。
- ・ 研究活動に DMP を活かす視点も必要。
- - 海外では次のステージなのかもしれません。
これらの学びを受けて、データガバナンス機能設計・開発者としてはやはり次の二つを目指すべきだろうと考えております。
- ・ 国内の研究データ基盤のシームレスな orchestration
- - その先には国外との連携も見据えます。
- ・ 日本のデータ管理計画(DMP)に関する取り組みと同期して、研究に負荷をかけず、しかし便利な機能の提供。
- - Machine-actionable DMP に対応し、かつ研究者のやり方に沿って RDM を実践できるよう支援します。
今後も RCOS から参加して世界各国の RDM に関する最新動向をウォッチしつつ、日本の RDM 動向も見せていきたいところです。
■ 終わりに
オーストラリア出張のときも同じようなことを言ってましたが、本会議への参加だけでなくオーストリアに滞在すること自体も私にとって初めての経験でした。日本から現地参加された先生方とも交流でき、非常に充実した時間を過ごせました。
(平木 俊幸)
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