日本語

ジュネーヴ・パリ出張報告

2024.02.02

2023年12月にスイスとフランスへ数週間滞在させていただきました。本記事では、この滞在について報告させていただきます。

■ SCOAP3 Governing Council Meetingに参加

まずは2023年12月6〜7日にスイス・ジュネーヴ近郊にある欧州原子核研究機構(CERN)で開催されたSCOAP3 Governing Council Meetingに参加しました。SCOAP3は、高エネルギー物理学分野の学術雑誌論文のオープンアクセス化を実現することを目的とした国際連携プロジェクトです。大学等の図書館が従来「購読料」として支払っていたものを対象雑誌の「出版料」に振り替えることでオープンアクセスを実現しようとしており、CERNがイニシアティブをとっています。多くの国内の研究機関のご協力のもと日本はSCOAP3に参画しており、国立情報学研究所は日本の窓口となっています。SCOAP3 Governing Council Meetingは毎年開催されているのですが、コロナ禍以降では初めてのハイブリッド形式での開催となり、参加者のほとんどは現地参加されていました。オンラインの会議は議事次第や会議資料に沿って淡々と進行することが多いですが、今回は現地での参加者が多かったこともあり学術雑誌論文のクオリティなど質的な議論も闊達に行われました。

■ INRIA Parisに滞在

SCOAP3 Governing Council Meetingの後、パリに移動し、帰国までINRIA Parisに滞在させていただきました。この滞在に際してはLaurent Romary先生に大変お世話になり、French Open Science Monitorに携わる方々とお話する機会をいただきました。French Open Science Monitorは、フランスの研究成果やオープンサイエンスの状況を観測・可視化するプラットフォームで、フランス高等教育・研究省(MESR)が中心となってINRIAやロレーヌ大学と共同で開発が進められています。RCOSでもオープンサイエンスモニタリングに関する研究開発を開始している(参考・令和5年度第2回CiNii Research作業部会配布資料の 1_CiNii Research機関向けダッシュボード試⽤版.pdf)ことから、French Open Science Monitorには関心をもっています。French Open Science Monitorの特長として、オープンデータやオープンソースに依拠して構築されており、加工されたデータやソースコードが再利用可能な形式で公開されている点が挙げられます。データ処理の過程で機械学習など様々な情報技術を活用しており、情報学に関する研究と事業を両輪としているNIIにとって示唆に富むものでした。
その他INRIA滞在中はSoftware Heritageのグループにホストしていただき、大変お世話になりました。Software Heritageはソフトウェアを体系的に収集・保存するアーカイブプロジェクトです。Software Heritageの関係者向けのEnd-of-the-Year Meetingに参加させていただき、一年間の統括や今後の持続可能性の確保に向けての共通認識の形成の過程を窺うことができました。フランスでは随所でソフトウェアが大切に扱われていることを観察できました。例えば、French Open Science Monitorでは、ソフトウェアは研究データを生み出すファシリティとして研究データとは明確に区別されています。また、文献からソフトウェアのメンションを抽出する取り組みも活発に行われており、多様な研究貢献を可視化できる環境が着実に醸成されていると感じました。

■ "Building an Open Science Monitoring Framework with Open Technologies" に参加

帰国直前の2023年12月19日には国連教育科学文化機関(UNESCO)本部にて開催されたワークショップ "Building an Open Science Monitoring Framework with Open Technologies" に参加しました。このワークショップはオープンサイエンスモニタリングの指標等を国際レベルで協調させていくことを目的として、UNESCO、MESR等によって組織され、世界各国から50名以上の参加がありました。
午前は参加者よりオープンサイエンスモニタリングの多様な事例について発表がありました。午後にはグループディスカッションが行われ、私が参加したグループには「ソフトウェアに関するオープンサイエンスモニターを構築するにはどのような技術仕様が必要となるか」というテーマが割り当てられました。
ワークショップの成果として、オープンサイエンスモニタリングの原則とガイドラインが公開される予定です。国際コミュニティと協調して、オープンサイエンスモニタリングの実現に貢献していきたいと思います。

20240202-1.png

出典:https://www.ouvrirlascience.fr/building-an-open-science-monitoring-framework-with-open-technologies-unesco-workshop-19-12-23/

(西岡 千文)