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L&Gとオックスフォード大学、40億ポンドの住宅建設枠組みで協力

Legal & General社(L&G)とオックスフォード大学は、サイエンスパークと大学の教職員および学生のための住宅を向こう数十年で建設するための、40億ポンドのパートナーシップを結びました。このパートナーシップにより、大学関係者に負担可能(affordable)な住宅を提供することが可能となります。
このパートナーシップの第一段階として、この保険と年金グループL&G社は、1) 大学教職員のための補助住宅(subsidised home)を1000戸、2) 研究を志す大学院生(research graduate)のために一般販売あるいは賃貸物件を1000戸、大学が提供する土地に建設します。

大学教職員のための住宅は、ワンルームや二部屋のアパート、一軒家も一部にはあり、主に年収4万ポンド(約540万円)以下の若手教員や支援職員に対して、市場価格から20%ディスカウントで賃貸されます。これら〔教職員のための住宅〕は、オックスフォード北側にあるBegbrokeに、広大なサイエンスパークの新しい研究と実験施設と隣接して、建設されます。
第二のサイエンスパークと大学院生向け住宅は、Osney Mead工業団地(industrial estate)に建設予定です。新しい続き部屋(ensuite room)の賃貸料は、他大学の学生向け住宅の賃貸料450〜675ポンド(6〜9万円)を参考に、設定されます。
2万名の教職員を有するオックスフォード大学は、土地の所有権を保持し、L&G社に対して60年のリースをします。同企業のFuture Cities社は、ビルの建設費を提供し、賃貸収入を得ますが、最終的にはこの資産(properties)を大学に渡します。

企画およびリソース担当のDavid Prout副学長(pro vice-chancellor for planning and resources)は、「大学院生および教職員のために、良質だが手頃な価格の住宅を提供することが、優先事項です。うまくいくようであれば、将来、より多くの住宅を提供したいと考えています」と述べました。
向こう10年で提供される40億ポンドは、L&G社の株主と年金基金(annuity fund)や、L&G Investment Management社が管理する資金から、提供されます。

オックスフォードは英国において急成長する都市の一つで、人口約15.5万人、世界をリードするテクノロジークラスターを有します。しかし、大学が継続的に研究大学院生を惹きつけたり、スピンアウトビジネスを支援したりするのに必要な、お手頃価格の住宅や商用スペースが足りなかった、とL&G社は指摘します。オックスフォードの住宅事情は、ロンドンの住宅事情に匹敵します。
土地面積トップ20の英国都市を分析するウェブサイトZooplaによると、この大学都市〔オックスフォード〕において初めて家を購入する者は、6.88万ポンド(930万円)の年収を有し、10.18万ポンド(1376万円)の頭金を負担する必要があります。これ以上の年収を必要とするのは、英国ではロンドンとケンブリッジだけで、それぞれ8.4万ポンド(1135万円)と7.2万ポンド(973万円)が必要です。

オックスフォード大学の学長(vice-chancellor※)であるLouise Richardson教授は、「我々は、大学にとって最も差し迫った課題の一つを、共に解決しようとしています」。
「我々は、必要性の高い大学院生向け住居、大学教職員のための補助住宅、そして新しいサイエンスパークを建設し、大学の部局や大学のスピンアウト、産業パートナーが協働して、新しい企業や質の高い雇用を生み出すようにします」。
※ オックスフォード大学において、chancellorは名誉職のため、vice-chancellorが実質の学長。(訳者注)

L&G社は、他大学に対しても同様のパートナーシップを持ちかけたいと考えています。「これは都市にとっての、ゲームチェンジャーです」。同企業のFuture Cities社はすでに、カーディフ、リーズ、マンチェスター、ニューキャッスル、サルフォードに1000以上の新しい住居のための資金提供をしています。

[The Guardian] (2019.6.27)
L&G and Oxford University team up for £4bn housing scheme

大学教職員や大学院生の住宅問題を解決しつつ、サイエンスパークも併設することで、産学連携やスピンアウトを促進しようということですから、いいことですね。人口が拡大し、産業も発展しているようで、活気が感じられます。
ちなみに、教職員のための住宅が建設される予定のBegbrokeは、オックスフォード北側、車で20分弱、電車では20分強のところにあります。大学院生向け住宅が建設予定のOsney Mead工業団地は、オックスフォード西側、車でも電車でも10分弱のようです。後者の方が大学に近いですが、前者のBegbrokeは広々としていて、サイエンスパークも含め余裕を持って建設できるようです。
この事例、サイエンスパークの併設がミソのように感じますが、東京都心の大学だと、10分や20分外れても都心から抜けられないので、サイエンスパーク併設の住宅用土地の確保は難しいでしょうねえ。都心から離れて利便性がなくなり、サイエンスパークに閑古鳥がないたら元も子もないでしょうしね。。。

オックスフォード大学と言えば、日本でも報道されましたが、米ブラックストーン社のCEOであるスティーブン・シュワルツマン氏から先月、一回の寄付額としてはルネッサンス期以来最大の寄付を得ました。1億5000万ポンド(約200億円)が、人文系の部署(英語、哲学、音楽、歴史など)を学内で一カ所に集め、劇場と図書館も併設した拠点の建設や、人工知能(AI)を巡る倫理問題に特化した研究所の設立に使われます。ちなみに、昨年紹介したMITの新しいコンピューティング・カレッジ(10億ドルの投資)も、シュワルツマン氏から寄付3.5億ドル(約370億円)を得ています。このコンピューティングカレッジも、「コンピューティングとAIに関連する公共政策と倫理的な考慮に関しての教育と研究を変革」とあり、AIに関わる倫理的な側面を研究するのは、最近の流行のようです。
また、AIではないのですが、2016年の米国大統領選においてSNSが大きく影響したことを受けて、デジタル時代の民主主義を研究するために、主にジャーナリズムやメディアにおいて助成をするKnight財団が、11大学に5000万ドル(5.3億円)を支援するということが、先週大きく報道されていました。カーネギーメロン大学、ジョージワシントン大学、ニューヨーク大学、ワシントン大学に学際的な研究センターの新設のため各500万ドル、その他イエール大学やスタンフォード大学を含む7つの既存のユニットに追加的支援がなされます。

[Guardian] (2019.6.19)
Oxford to receive biggest single donation 'since the Renaissance'

[mihoチャネル] (2018.10.23)
MIT、新しいコンピューティング・カレッジに10億ドル投資 ― 未来に向けて自らを変革

[Inside Higher Ed] (2019.7.24)
Researching Democracy in the Digital Age

このオックスフォード大学の寄付に至ったのは、Richardson学長がRadcliffe Infirmaryの跡地に新しいセンターを建設するための寄付をシュワルツマン氏にお願いしに行ったところ、より野心的な「ユニークな人文系のハブ」を構想してみるようにと同氏から逆に提案された、というのが経緯のようですが、Guardian紙の記事を読むと、シュワルツマン氏が15才のときにオックスフォード大学を米国で言うところの 'teen tours' で訪れ、今まで見たこともないような風景に深く感銘を受けたことが効いているとあります。オックスフォード大学は、映画「ハリー・ポッター」の舞台ともなっており、10代の少年に強い印象を焼き付けたのだろうと思います。
シュワルツマン氏は、「Sometimes life works out in odd ways - if I hadn't gone to visit as a 15-year-old maybe I wouldn't have been so interested」と述べていますが、若いうちに色々な経験をさせておくものですね。巡り巡って、何がどのように影響するか分かりません。

いずれにしても、大学が外部企業や財団から多額の寄付や投資を得て成長する時代、社会と色々なかたちで結びつきを作っている必要があるのだろうと思います。

船守美穂