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MIT、新しいコンピューティング・カレッジに10億ドル投資―未来に向けて自らを変革

MITは、未来をかたどるために、自らを変革します。Stephen A. Schwarzman氏から3.5億ドルの寄付を得て、史上初の10億ドルの投資を、世界を変えるブレークスルーとその倫理的なアプリケーションの開発に対して行います。

MITは本日10/15に、コンピューティングの普及と人工知能(AI)の勃興によるグローバルな機会と課題に対して1億ドルを投資すると発表しました。このイニシアティブは、米国の学術機関がコンピューティングとAIに対して行う唯一無二かつ最大の投資であり、世界がコンピューティングとAIの急速な発展に適応していく上で、米国が指導的な役割を演じることができるようにします。

この取り組みの中核には、新設予定の"MIT Stephen A. Schwarzman College of Computing"があります。これは、Blackstone社の会長、CEO、共創設者であり、グローバルアセットマネジャーとして先導的なSchwarzman氏からの3.5億ドルの寄付により可能となったものです。

MITキャンパスに新設予定の建物に入ることとなるこのコンピューティング・カレッジは、コンピュータ科学、AI、データサイエンス、その他関連分野の学際領域的なハブとなります。

このカレッジは、以下を目標とします。

  • ・ MITのあらゆる分野にコンピューティングとAIの恩恵が及ぶ(bring power)ように、MITの進む方向性を再設定します。同時に、コンピューティングとAIの未来が、他の分野の知見により形取られることを可能とします。
  • ・ このカレッジ内およびMITの他の研究科と共有する、50名分の教員ポストを新たに設けます。これはMITのコンピューティングおよびAIに関わるマンパワーをほぼ倍とするものです。
  • ・ コンピューティングとAIにおける教育、研究、イノベーションにおいて協働できるように、MITの5つのスクールに協働領域(shared structure)を持たせます。
  • ・ あらゆる分野の学生がAIとコンピューティング技術を責任もって利用し開発できるように教育し、よりよい世界を実現できるように支援します。
  • ・ コンピューティングとAIに関連する公共政策と倫理的な考慮に関しての教育と研究を変革します。

コンピューティング・カレッジを創設することにより、MITは、社会を根幹から変えようとしているこれら技術が、倫理的かつ責任をもって発展可能となるようリードし、自らの国際的なキープレイヤーとしてのポジションを強化したいと考えています。技術から絶えず変革の圧力を受け、急激に発達しつつある新たな地政学的な環境のまっただ中において、このカレッジは、米国の競争力とセキュリティにおいて重要なインパクトを与えます。

「コンピューティングが世界を変えているなか、MITはこれが万人にとって確実にプラスになるようにしたいと考えています」とL. Rafael Reif学長は述べています。「このようなことを目標に、MITは自らを変革(reshape)します。MIT Stephen A. Schwarzman College of Computingは、コンピューティングの教育と研究のグローバルなセンターであるとともに、パワフルで新しいAIツールの知的な工場(intellectual foundry)ともなります。あらゆる分野の学生および研究者がコンピューティングとAIを利用できるようになり、自身の分野を進展させ、また逆にコンピューティングとAIの進展に対して影響を及ぼせるようにすること、また彼らの研究が人に対してどのようなインパクトを与えるかについて批判的に考えることが出来るようにすることも、同じぐらい重要です。Schwarzman氏の卓越した見識および寛容により、よりよい世界へと通じる力強いアジェンダが可能となります。我々の共通のヴィジョンに対する彼の尽力に対し、深く感謝をします」。

[MIT News] (2018.10.15)
MIT reshapes itself to shape the future

[Education Dive] (2018.10.16)
MIT plans $1B computing college, AI research effort

[Inside Higher Ed] (2018.10.16)
MIT Announces Plan for $1B Effort on Computing, AI

このニュースは各種メディアで一斉に報じられました。でも、MITがどのような意気込みでいるのかをお伝えしたく、ここでは敢えてMIT Newsの文面をご紹介しました。MITが、単にAIの流行に乗っているのではなく、また単に巨額の寄付を得たからではなく、デジタル時代に適合した高等教育機関になるべく、真剣に自らを変革しようとしているのが伝わったでしょうか?

東京大学の年間予算の約4割ともなる10億ドルという投資額が巨大なのは勿論のことですが、大学に新たなカレッジを設けること、しかも、これを既存の部局と連携体制にあるように、学内の部局の構成や構造を再構成するというのは、高等教育機関にとってとても大変なことです。既存のやり方を変え、従来の組織構造における既得権益を崩しつつ実行する必要があるので、色々な場面で抵抗があると予想されますし、また逆に新設部局に便乗しようという動きも出てくるでしょう。しかも今回新設するカレッジは、大学の中核に据えるものとして構想されているので、尚更、強い力のぶつかり合いが想定されます。

一方、この変革はデジタル時代における大学教育のあり方として、極めて当を得ています。Scienceの記事によると、MITプロボストのMartin Schmidtは、「MIT学部生の約4割がコンピュータ科学またはコンピュータ科学と別の何かを専攻している。それら学生の需要に対して、MITの1000名の教員の約1割でしかない教員で、コンピュータ科学関係の科目を全て提供するのは、業務負荷が高かった」と語っています。

コンピューティングは現状では、MIT工学系研究科内の電気工学およびコンピュータ科学内の一部です。工学研究科はMITの5つの研究科のなかで最も規模が大きく、学部生の7割、大学院生の45%がここに所属しています。
MITでチューリング賞を受賞した7人の教員は連名で、「コンピュータ科学が電気工学のなかにあることに、もはや意味を見いだすことはできません」「コンピューティングは、多くの専攻で行き当たりばったりかつ無計画(haphazard fashion)に教えられています。このような非効率で分断的なアプローチは、教育の質を蝕みます」「コンピューティングのための新しいカレッジの創設を提言します」という趣旨の公開書簡を昨年、MIT大学当局に対して送っていました。
今回発表されたコンピューティングのカレッジは、ここで指摘された問題に対応するものです。

[The Tech] (2017.9.20)
MIT Turing laureates propose creation of School of Computing

コンピューティングの組み入れ方は、米国のトップの研究大学においても異なります。ジョージア工科大学、カーネギーメロン大学、ペンシルバニア大学などはコンピューティングの研究科がすでに独立して存在するのに対して、スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレーでは電気工学やコンピュータ科学の専攻に含まれます。

なおSchwarzman氏の寄付3.5億ドルは、総10億ドルの投資の一部ですが、不足分の6.5億ドルのうち3億ドルは、2016年5月からMITが開始している寄附金キャンペーンにより既に確保されています。ちなみに、このキャンペーンの目標額は50億ドルで、すでに43億ドルが集まっています。
また50名の新設の教員ポストの半数はコンピューティング・カレッジの教員ポスト、残り半分は他の研究科との連携教員ポストとなります。

[Science] (2018.10.15)
MIT to use $350 million gift to bolster computer sciences

MITの構想は単に独立したカレッジを設置するだけでなく、これを大学の教育・研究の中核に据え、他の研究科と連携させようという点で先進的に見えます。現在、データサイエンティスト等、計算機処理に長けた人材の養成が急がれ、どこの大学においても、これに関連する教育プログラムを作ったり、場当たり的なワークショップや研修の機会を学内に設けていますが、デジタル時代において、全教職員および全学生が必要なスキルとしてこれを組織的に教育できている大学はありません。MITは工科大学なので、これへの対応がいち早くなされたと言えますが、一方で総合大学においては対応が尚更必要です。人文・社会科学系の研究科では、場当たり的にすらも、そうした教育・研究プログラムを持つことができない一方で、実際にはこうした分野でも、データをハンドリングしたり、計算をしたりする機会は日増しに拡大しています。

それにしても、このMIT Newsの記事、「米国が指導的な役割を演じることができるようにする」「米国の競争力とセキュリティにおいて重要なインパクトを与える」など、やけに「お国のために」なるのだという色彩が強く、気持ち悪かったです。米国の機関や人々は一般に独立性が強く、連邦政府や州政府に対して無関心、もしくは盾突くぐらいの勢いなのですが、これはなんなのでしょうねえ。。。トランプ政権の影響でしょうか。それとも、米国では近年、政治献金の個人の献金額の上限が2010年に取り払われ、「スーパーPAC」と呼ばれる政治資金の受け皿団体が大きな力を持つようになっていますが、今回の寄付もそうした政治献金とのバランスの上に成り立っていると思われるので、なんらかの政治力学が背後に働いているのでしょうか。

この記事、MITの先見の明のある取り組みとして紹介したかったのですが、なんとなく「金と政治」の臭いも背景に感じられました。

船守美穂