日本語
  • TOP
  • RCOS日誌
  • タイ出張報告(APAN57・Chulalongkorn大学)

タイ出張報告(APAN57・Chulalongkorn大学)

2024.02.22

■ はじめに

今冬もAPANの季節になりました。第57回目となる今回はタイ・バンコクでの開催となり、RCOSから山地・金子・相沢が現地参加しました。また、本出張ではChulalongkorn大学に訪問する機会も得られましたので、併せて報告させていただきます。


■ APAN57に参加

APANは年に2回開催されるアジア太平洋地域のNREN(National Research and Education Network)の会合で、過去のRCOS日誌でも取り上げております。

APAN54 参加報告
APAN55 参加報告
APAN56 in Colombo

RCOSはOpen & Sharing Data Working Group(OSDWG)のオーガナイザーとして、同WGのメンバーと共にセッションの準備をしてきました。今回のセッションでは、タイのNREN(ThaiREN)関係者や大学図書館関係者(Chulalongkorn大学図書館・Mahidon大学図書館)、図書館の電子情報システム整備を支援する団体のメンバーを招待し、同国のオープンサイエンス推進に向けた議論を行いました。

20240222-1.jpg
20240222-2.jpg

APAN会場、Open & Sharing Data Working Groupの様子

当日は40人以上の方がセッションに来ていただき、活発な意見交換が行われました。そのなかでも着目すべき発言がありました。NREN側出席者からの、図書館を支援したいが何を支援すれば良いかが情報として入ってこないという意見です。これは、まさしく前回のAPAN参加報告で山地センター長が述べていた、コミュニケーションが原因で組織間連携が生まれず新しいことができない状況です。NIIがオーブンサイエンス推進の観点からAPANにコミットすることの意義を、改めて実感した次第です。
OSDWGでは、APAN57終了後もオンライン会議を行い、今回のセッションの招待者と引き続き議論を重ねていくことになりました。今回培った関係を一時的で終わらせず、タイ国内のオープンサイエンス推進にNIIが貢献していければと思っております。


■ Chulalongkorn大学に訪問

出張の後半は、APANにも招待したChulalongkorn大学を訪問し、理学部数理コンピュータ学科(Department of Mathematics and Computer Science, Faculty of Science)の学科長やMOOC管理部長との懇談の他、山地センター長が"How to Support Science Transformation to Open Science"と題して学生向けに講演を行いました。

Chulalongkorn大学は各種の大学ランキングでタイ国内トップの評価を受ける同国の最高学府であり、世界各国の大学・教育機関との国際共同研究や交流協定を積極的に進めるなど、ASEAN・アジア地域の教育拠点としての存在感を高めている大学です。近年は教育格差の是正等を目的とした一般向けのリスキリング支援にも力を入れており、2017年にサービスを開始した無料のオンライン学修講座「Chula MOOC」は現在、登録者数100万人以上、アクティブユーザ30万人以上を擁する大規模教育プラットフォームになっています。更に、このChula MOOCで得られる膨大なユーザの学修履歴データを分析するラーニングアナリティクス研究にも積極的に取り組んでいます。

このようなChulalongkorn大学の取り組みは、ラーニングアナリティクス共通環境(LAaaS:Learning Analytics as a Service)「学認LMS」を提供しているNIIにとっても非常に参考になることから、今回の訪問でChula MOOCの運営に関する話を聞かせていただくことになりました。懇談の中でも、Facebookアカウントと連携したソーシャルログイン機能やFBグループ機能による講座のフォローアップ(タイはFBの利用が盛ん)などのSNS活用や、ラーニングアナリティクスに欠かせない個人情報の取り扱いなど、大規模教育プラットフォームの運営やデータ活用に関する実践的な情報を得ることができました。


20240222-3.jpg
数理コンピュータ学科長(Chair)のAthipat助教授との懇談


20240222-4.jpg
MOOC管理部長、本訪問をコーディネートしてくださった先生方やその学生との懇談

山地センター長の講演では、世界的なデータ利活用の潮流から研究データ管理を巡る国際的なトレンド、それらを受けた日本の取り組み(NII Research Data Cloud)まで、近年のオープンサイエンスに関わるトピックを概観できる内容が話されました。写真の通り沢山の学生に出席いただき、講演後も積極的に質問に来るなど、将来的なオープンサイエンス人財候補の育成に貢献できたのではないでしょうか。

20240222-5.jpg
20240222-6.jpg

山地センター長による講演、参加者との記念写真


■ 終わりに

最後に、今回の出張を通じて痛感したのは、やはり言葉の重要性です。APANでは、英語力の高低に関わらず、参加者が積極的に自分の意見を英語で発信し、コミュニケーションを図ろうとしていました。Chulalongkorn大学では、今回の訪問をコーディネートしてくださった先生は東京大学で修士号・博士号を取得し、母国語(タイ語)・日本語・英語のトリリンガルだったおかげで、同席していただいた懇談や講演では3ヶ国語を駆使して非常に円滑な議論や進行をしてくださいました。国際的なコミュニケーションの場においては、語学力が高ければ高いほど相手との関係を強固に構築できる一方で、たとえ正確な文法や気の利いた言い回しができなくても、自分なりに相手の言うことを傾聴して言葉を紡げば、相手もきちんと耳を傾けてくれる。そんな当たり前のようで中々腹落ちしない現実を直視できた出張でした。

(相沢 啓文)