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NII Open Science Summer Camp 2023 with Prof. Laurent Romary

2023.10.20

概要

平木@データガバナンス機能担当です。RCOS では集中した議論や情報交換、職員間のコミュニケーションの向上を目的として定期的に軽井沢セミナーハウスにて合宿を実施しています。 2023年9月4日および5日に、フランスの INRIA (Institut National de Recherche en Informatique et en Automatique) から Laurent Romary 教授をお招きして、日本とフランスのデータリポジトリおよびデータガバナンスのあり方について議論しました。今回のセミナーはハイブリッド形式で開催され、オンラインでも所内のメンバーや大学図書館等の方々が参加されました。

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軽井沢合宿の様子

セミナー報告

今回のセミナーは以下のセッションで構成されました。本日誌では「3. フリーセッション X」以外について報告します。

  1. 1. リポジトリセッション 1: Repository Landscape
  2. 2. ガバナンスセッション 1: System Architecture Context
  3. 3. フリーセッション X: All about the Open Science
  4. 4. ガバナンスセッション 2: Governance
  5. 5. リポジトリセッション 2: Madness talk "Future Dreams in Data Repository World"
  6. 6. フリーセッション X: Volunteers

リポジトリセッション 1: Repository Landscape

このセッションではフランスと日本におけるデータリポジトリを取り巻く状況について紹介・議論がなされました。最初に Romary 教授より、フランスで運用されているオープンアーカイブリポジトリである HAL について、特徴、歴史、利用状況等の紹介がありました。続いて東京大学附属図書館の安達修介氏よりオンラインにて、日本の機関リポジトリの状況、JPCOAR、NII の公開基盤である JAIRO Cloud by WEKO3 について紹介がありました。次に河合将志特任研究員より、NII で現在開発が進められているオープンアクセス(OA)アシスト機能について紹介がありました。セッションの最後に、リポジトリに文献を登録する上で文献に関する情報をどう付与するかについて議論が行われました。

ガバナンスセッション 1: System Architecture Context

このセッションでは機関としてのデータガバナンスとキュレーションをテーマにして、フランスと各々の取り組みについてシステムアーキテクチャの観点で紹介・議論がなされました。最初に船守美穂准教授より、機関としてのデータガバナンスに関して日本国内の大学を取り巻く状況、NII 研究データ管理・公開ポリシーの特徴、および機関としてのデータガバナンスを実現するシステムアーキテクチャに関するアイデアについて紹介がありました。続いて平木俊幸特任研究員より、現在開発中の研究者のためのデータガバナンス機能のコンセプトを一部利用した、研究データ管理・公開ポリシーのシステムへの実装案について紹介しました。次に南山泰之特任助教より、NII RDC におけるデータキュレーションの考え方と現状、および Japan Data Curation Network というコンセプトについて紹介がありました。セッションの最後に Romary 教授より、これまで NII 側から紹介した内容に関連するフランスにおけるインフラ、ポリシーおよび INRIA や図書館員を取り巻く状況を紹介していただきつつ、研究データ管理・ガバナンスに必要なシステムとその機能について議論がなされました。

ガバナンスセッション 2: Governance

ガバナンスセッション1に続き、このセッションでは研究データ管理・公開ポリシーに焦点を当てて、機関としての研究データガバナンスに関して議論がなされました。最初に船守美穂准教授より、日本における機関としての研究データガバナンスの必要性および NII 研究データ管理・公開ポリシーにおける研究者と機関の関係の考え方が紹介され、その後研究データガバナンスをどう定義するか、という点に関して問題提起がされました。その後 Romary 教授より研究データガバナンスに関するご自身の考えを説明していただきつつ、それら提起された問題に関して全体で議論が行われました。

リポジトリセッション 2: Madness talk "Future Dreams in Data Repository World"

このセッションでは madness talk ということで、データリポジトリに携わる方々より各々の夢を語っていただきました。最初に林正治特任助教が、将来的に機関リポジトリで公開されるデータ中の研究データセットおよびソフトウェアの数の割合を現在の 4% から 50% 以上まで引き上げたいという夢を語りつつ、それに向けて解決すべき課題について説明が行われました。続いて Romary 教授が、研究者-大学間、大学-大学間、さらには国家間でトレーサビリティを保証しつつ研究データをハンドルするという夢を語られました。次に学術コンテンツ課の佐藤知生氏が、ユーザーとしての自身の経験に基づいて現在の学術リポジトリの課題を説明しつつ、「ワールドリポジトリ」という誰でもどこからでもアクセスできるグローバルな研究データリポジトリという夢を語りました。セッションの最後に、各々が語った夢をどう実現できるか、現行のリポジトリは何が問題であるか、などについて議論が行われました。

フリーセッション X: Volunteers

セミナー最後のセッションでは、即時 OA をどう実現するかについて議論がなされました。そもそも「即時」とはどのタイミングを指すのか、OA の要件は何なのか(たとえばプレプリントを公開すれば十分なのか)、それは誰が決めるのか、機関のポリシーで即時 OA の要件を定めるのか、など即時 OA の実現に向けて解決すべき課題が挙げられました。

セミナーのまとめ

今回 Romary 教授と議論して明確になったことは、フランスと日本における研究データ管理の促進のためのアプローチが大きく異なるということです。フランスでは、研究成果発信のためのリポジトリの開発・運用が中心で、GakuNin RDM のような研究活動中の研究データ管理を支援する基盤は特にないとのことです。研究データ管理は研究者任せであるものの、研究者がメインユーザーであると想定して HAL 等のリポジトリを開発・運用し、研究者が進んでプラットフォームを利用することで自然に研究データ管理が研究者・機関レベルで実現されているようです。 一方、日本では即時 OA の義務化や研究データポリシーにより、ある意味要請する形で研究者による適切な研究データ管理・公開の促進を試みています。適切な研究データ管理・公開をサポート・実現するためのプラットフォームとして、NII RCOS では NII RDC を開発・運用しています。フランスでは bottom-up 的アプローチ、日本では top-down 的アプローチが取られていると考えることができるでしょう。

終わりに―初めて軽井沢合宿に参加して

個人的に今回の合宿の大きな収穫の一つは、所内のメンバー(谷藤先生、林正治先生、朝岡先生、河合さん、南山先生、船守先生、佐藤さん)と対面で深く交流できたことです。コロナウイルスが5類に分類されてから所内でもメンバーと会う機会が増えてきたものの、なかなかお互いに忙しく対面で長く話す機会がそれほどありませんでした。軽井沢合宿の大きなメリットの一つがメンバー同士の交流を深めることであると強く実感できた合宿でした。

(平木 俊幸)