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ネイチャー誌とその姉妹誌、120万円のOA出版オプションを設定

シュプリンガー・ネイチャー社は、2020年11月24日、ネイチャー誌とその32の姉妹誌について、2021年から有効なOA出版オプションを発表しました。

ネイチャー誌とその姉妹誌はこれまでオープンアクセス(OA)ではありませんでしたが、このオプションにより、研究者は2021年1月から、OA出版経費(APC)を特別に支払えば、これら雑誌にも、自身の論文をOAで掲載することが出来るようになります。APCは、€9500(約120万円)です。APCを支払わない研究者の論文については、これまで通り、非OAで掲載され、購読料を負担した機関等のみがアクセス可能です。

シュプリンガー・ネイチャー社は同時に、これらネイチャー誌とその姉妹誌のうち6誌を対象とするOAパイロットを発表しました。このパイロットに参加する研究者は、論文査読費€2190(27万円)を事前に支払い、編集部からフィードバックをもらえます。また、当該論文が6誌のうちどの雑誌に掲載可能かの示唆を得ることができ、追加のAPC€2600又は€800(32万円または10万円)を支払うと、該当の雑誌に論文をOA出版できます。対象外とされた論文は、他の雑誌に投稿可能です。

この方法は、1回の査読審査で、論文が適切な雑誌に掲載できるため、出版社側にとっても、論文を投稿する側にとっても、労力の大幅軽減につながります。このパイロットに該当するのは、以下の6誌ですが、シュプリンガー・ネイチャー社にはOA誌であるScientific Reports誌があるため、(論文によほどの問題がない限り)、研究者は同社のいずれかの雑誌にOA出版可能です。同社の市場調査に依ると、若手研究者を中心に、この方法を歓迎する向きがあるとのことです。

<シュプリンガー・ネイチャー社のOAパイロット対象誌>

・ Nature Genetics
・ Nature Methods
・ Nature Physics
・ Nature Communications
・ Communications Biology
・ Communications Physics.

今回発表されたシュプリンガー・ネイチャー社のOA出版オプションは先月、同社が独マックスプランクデジタル図書館(MPDL)と、ネイチャー誌とその姉妹誌に関わる初のOA出版契約(Publish&Read契約)を締結したというニュースが報じられたときに既に示唆されていました。同社とMPDL間の契約により、MPDLの研究者は2021年1月以降、ネイチャー誌とその姉妹誌にアクセスできるようになるほか、OA出版も可能となります。APC€9500は、MPDLとの契約額算出時にも用いられました。

MPDLとのOA出版契約は極めて大がかり、かつ複雑なもので、同様の契約モデルを他機関に展開していくことは容易ではないことから、(契約を有さない機関の)研究者個人がOA出版可能なオプションの必要性が、MPDLとの契約締結時に示唆されていました。

今回の発表は、ネイチャー誌のような、極めて権威の高い雑誌(highly selective journals)がOA出版の対象とされたことに、大きな価値があります。これら、サイエンス誌やセル誌などの、極めて権威ある雑誌はこれまで、大学図書館とのOA出版契約に含まれてきませんでした。ネイチャー誌とその姉妹誌は、これら極めて権威ある雑誌のうち、研究者にOA出版オプションを提供する、初の雑誌となります。

APC€9500(120万円)という価格設定も、ニュース性があります。これまでOA出版経費は高くとも、Nature Communications誌の60〜70万円が最高とされてきました。APCは一般に20〜30万円で、数万円程度という場合もあります。

採択する論文を極度に絞る「極めて権威ある雑誌」は、掲載する論文数より遙かに多くの投稿論文を審査する必要があるため、出版社におけるインハウスコストが高くなります。2019年、ネイチャー誌とその姉妹誌のエディターたちは、5.7万本の投稿論文を審査し、約1万件を査読に回し、最終的に掲載となった論文は約4500本でした。採択率は約8%でした。これらを手続きするために、およそ200名の博士号をもつエディターたちが、アシスタントやデザイン、プロダクション、校閲スタッフとともに働いています。

研究助成された研究成果の完全即時OAを求める、欧州発の「プランS」が2021年1月に発効直前のため、学術出版社はこれに適合するため、購読者負担から論文著者負担のビジネスモデルへの転換を進めています。しかし、ネイチャー誌などの極めて権威ある雑誌はこれまで「プランS」に適合していなかったので、プランS対象国の研究者は2021年以降、これら雑誌への論文投稿の道を閉ざされていました(これら雑誌は、プランSに適合するもう一つの道である、エンバーゴなしの機関リポジトリへの掲載を許容しないため)。 ちなみに、2017年に出版された論文のうち、プランS対象国の論文は全体の6%、しかしNature誌とその姉妹誌においては35%を占めるとの調査結果があります。

シュプリンガー・ネイチャー社による、ネイチャー誌とその姉妹誌の「OA出版オプション」とその価格設定は、極めて権威ある雑誌のプランSへの向き合い方について、先鞭をつけたこととなります。

[Inside Higher Ed] (2020.11.24)
Open Access Comes to Selective Journal

[Nature] (2020.11.24)
Nature journals reveal terms of landmark open-access option

[Science] (2020.11.24)
For €9500, Nature journals will now make your paper free to read

ネイチャー誌とその姉妹誌のOA出版オプション(所感)

ネイチャー誌とその姉妹誌にOA出版するのに120万円ですか! Nature Communications誌の60〜70万円ですら、法外とされてきたのに、その倍近い額です。
一体、誰がそのような負担をするのかと思わないではありませんが、大型の研究費を得ている研究者であれば、負担してしまうのではないでしょうか? 費用負担をせずに、これまで通り非OAで出版ができると言われても、自身の論文がせっかくネイチャー誌に掲載されるのに、当該論文が、購読料を負担できている機関の研究者からしか読まれないというのは残念、と思うのが人情のように思います。ネイチャー誌とその姉妹誌は、購読料も高く、購読契約を諦めている機関も多いのです。

シュプリンガー・ネイチャー社にとって、これはボロ儲けの方法ですね。「極めて権威ある雑誌は、APCが高額になるため、著者に出版費用を負担させるのは難しい」とか言って、プランSの指定する「転換契約」にさんざん難をつけながら、「プランSに適合するため」に、研究者へのOA出版オプションを設けたと最後の最後になって良い子ぶり、挙げ句の果て120万円という法外な価格設定としまうのですから!

これはどう見ても、プランSが当初排除にかかっていた、購読料とAPCの二重取りの温床とされている「ハイブリッド誌」です。今回提案されたOA出版オプションは、ネイチャー誌とその姉妹誌について、高額の購読料に加えて、高額のAPC収入を可能としています。

[mihoチャネル] (2019.3.1)
トップジャーナル、プランSを批判 & カリフォルニア大学、エルゼビア社と交渉決裂

どうしてこれで「プランS適合」となるのだろうと思わないでもないですが、おそらく、MPDLと先月交わした転換契約の事例がたとえ一件だけでもあることと、どのような方法であれ、今回のようなOA出版オプションを設けることにより、ネイチャー誌とその姉妹誌についてもOA比率が拡大していくことから、プランSの言う「転換雑誌」の要件に適合すると言い切るのでしょう。もともと「転換雑誌」は、シュプリンガー・ネイチャー社の出版部長Inchcoombe氏の発明品ですからねえ。。。

[Nature] (2020.10.20)
Nature journals announce first open-access agreement

[mihoチャネル] (2020.4.22)
ネイチャー誌、プランSに含まれる見込み

なお、プランSの「転換契約・転換モデル契約・転換雑誌」の条件やその影響については、以下(特にカレントアウェアネスの拙著)に詳しいので、ぜひご参照下さい。

船守美穂「プランS改訂版発表後の展開 ― 転換契約等と出版社との契約への影響」カレントアウェアネス NO.346(2020.12)
船守美穂「プランS 改訂版発表後の展開 ― 日本はプランSに何を学ぶか?」NIIテクニカルレポート(2020.12)

大手二社の転換契約の状況

今回の記事は、ネイチャー誌とその姉妹誌を対象としていますが、その他のシュプリンガー・ネイチャー社の雑誌については、今年になって着々と、プランSの求める「転換契約」が進んでいます。ドイツ、スイス、MPDL、カリフォルニア大学との転換契約は、大きく報道された事例ですが、シュプリンガー・ネイチャー社の8月25日付のプレスリリースに依ると、8月時点で既に11カ国と転換契約を締結していたようです。基本的にプランS対象国と転換契約を結んでいます。

  • <シュプリンガー・ネイチャー社の転換契約>
  • ○ 対国家
      オランダ、英国、オーストリア、スウェーデン、フィンランド、
      ハンガリー、ポーランド、ノルウェー、カタール、ドイツ、スイス
  • ○ 対機関
      カリフォルニア大学、マックスプランクデジタル図書館

[Springer Nature Group (Press Releases)] (2020.8.25)
Springer Nature's Transformative Agreements enable country level transition to open access

対するエルゼビア社は、というと、ドイツやカリフォルニア大学(UC)、MITとの交渉決裂が大きく報じられており、対国家の契約は8カ国にとどまります。アイルランドは、シュプリンガー・ネイチャー社にはない、ユニークな契約です。対機関の契約も、UCやMPDLなどの所謂大御所の機関ではなく、少し外しています。

なお以下リストは、同社のプレスリリースを私が一つ一つ確認して作成したため、漏れがある可能性があります。

  • <エルゼビア社の転換契約>
  • ○ 対国家
      オランダ、スウェーデン、ハンガリー、ポーランド、ノルウェー、
      カタール、スイス、アイルランド
  • ○ 対機関
      カーネギーメロン大学、フロリダ大学

エルゼビア社のOA出版を含む購読契約

エルゼビア社は、所謂転換契約(Read&Publish契約等)とは異なる、OA出版を含む購読契約を一部の国と結んでいます。

フランスとの契約は、フランス側にとって極めて好条件となっています(購読料が4年間で13.3%減、APCディスカウント25%、仏国家リポジトリHALへのメタデータと著者最終稿の自動挿入等)。

この契約交渉をしたフランスのコンソーシアムCouperinには、本件についてインタビューをしたことがあります。
フランスのエルゼビア社との契約は、同社とドイツおよびUCとの交渉決裂が大きく取り沙汰されている時期だったため、同社側にも焦りがあり、好条件を引き出すことができたそうです。また、Couperinの運営委員会(大学、CNRS、高等教育・研究・イノベーション省などの長からなる)において、OA出版契約を進めたい大学側と、購読契約を進めたいCNRS側で意見が割れ、両サイドから「購読条件も、OA出版条件も、大幅ディスカウントを勝ち取って来い」という指令があり、Couperinは、いわば、この運営委員会の虎の威を借る形で、このような条件を勝ち取ったそうです。
(日本の大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)の運営委員会においても、同様の構造に持ち込めると良いのに、と思ってしまいます)。

この契約には、グリーンOAのコンポーネントも含まれています。2段階方式となっており、(1) 出版後12か月たつと著者最終稿が自動的にエルゼビア社のサイトで公開され、(2) 出版後24か月後には、仏国家リポジトリHAL上で著書最終稿が公開されます。出版後24か月後とはいえ、メタデータ等もついた整理された状態で、著者最終稿がアカデミアの手に最終的に戻る、というのがミソです。

フランスとエルゼビア社との契約は、「購読料削減、APCディスカウント、国家リポジトリHALへのコンテンツ自動挿入」の3点が揃っており、本当にうまい条件を勝ち取っていると思います。
なおCouperinに、今後も同様の交渉方針でエルゼビア社や他の出版社に挑むのかと聞いたところ、そうとは限らないとのことでした。その時々の状況を見定めながら、最も有利な条件を模索していくそうです。

[Sound of Science] (2019.4.16)
Un accord de 4 ans entre Elsevier et la recherche française

[./scidecode](2019.4.20)
Better than the German Wiley DEAL? The Couperin Consortium reaches a price reduction of more than 13% over four years in an agreement with Elsevier

先週11月18日に発表された、エルゼビア社の日本の大学への購読契約提案にも、OA出版条件が含まれています。機関は、「購読契約」と「ゴールド・オープンアクセスを促進する契約」から選択でき、後者では、購読費に一定の金額を上乗せすることで,APC割引を受けることができるそうです。ただし日本の場合はナショナルライセンスではなく、(この条件提示を踏まえて)機関ごとに契約を締結するので、実際にどのような割引率になるかは、機関によって異なることになります。

また提案には、エルゼビア社の表現でいう「グリーン・オープンアクセスに関する国家的な目標を支援するためのオプション」というのがあります。これは、同社のリポジトリ上で、著者最終稿が公開されるというものだそうです。

これについては、先日11月26日に開催されたジャーナル問題検討部会において、「コンテンツが出版社にあるものは、グリーンOAとは言えない」「グリーンOAとゴールドOAの違いは、学術情報流通の理念として、研究者と出版社のいずれが主導権を持つかという違いとして理解すべき」などといった、厳しい意見がたくさん出されました(私の記憶をたどった表現のため、正確には同部会の議事録をご確認ください)。

この提案はどうやら、エルゼビア社が概ね独自に検討し、生み出したものだったようです。また日本側が契約交渉の体制により、フランスのような好条件にはつながらなかった模様です。

[エルゼビア社プレスリリース](2020.11.18)
エルゼビアと大学図書館コンソーシアム連合、オープンアクセスの目標を支援するための購読契約提案に合意

[JUSTICE] (2020.11.19)
プレスリリースのお知らせ: JUSTICEとエルゼビア、OAの目標を支援するための提案に合意

出版社による著者最終稿の公開

エルゼビア社が提示する、著者最終稿を出版社のサイトで公開するという方法は、以前ご紹介した、「投稿論文をプリプリントとして出版社のサイト上に公開するサービス」や、「論文のフェア・シェエアリング」につながる話かと思います。
出版社としては、論文と限らず、著者最終稿や研究データなど、いかなる学術情報コンテンツも捕獲し、自身のサイト上で提供することによって、最終的に収益化に結び付けたいわけですから、こうしたサービスを展開したいわけです。

ちなみに、本年2020年9月に発表された、シュプリンガー・ネイチャー社とResearchGateとのパートナーシップも、同様の発想からのサービス展開です。ResearchGate上のコンテンツにアクセスしたユーザは、購読ライセンスを取得している機関のユーザであるか否かの認証がなされ、 認証をパスすれば、 同社サイト上のコンテンツにアクセスができます。

[mihoチャネル](2020.9.5)
変わりゆくプレプリントの機能

[mihoチャネル](2017.5.13)
論文のフェア・シェアリング

[Inside Higher Ed](2020.9.9)
Springer Nature Deepens Partnership With ResearchGate

プランSの「権利保持戦略」

ジャーナル問題検討部会で指摘されたように、学術情報コンテンツは研究者の最大のアウトプットですから、研究者が自身で管理し、自身で自由に使えるようにしておかなければいけません。現在のように、論文を執筆し、投稿、査読を経て、出版社のサイト上で出版されたら、自分のコンテンツなのに、自分でも購読料を払わない限り、アクセスもできないというのは、どう考えてもおかしいです(OA出版が一般的にならない限り、研究者は退職後、自身の著作物すら、見ることが出来なくなります!)。

プランSは2020年7月に、「権利保持戦略(Rights Retention Strategy)」を発表しました。
ここでは研究助成機関が被助成者に対して、「助成を得た研究成果の論文の著者最終稿(AAM)または印刷版(VoR)には、CC BYのクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを付与しなくてはいけない」と義務づけます。このライセンスが付与されることにより、論文著者を含め、いかなる者も、このコンテンツを複製や再配布ができるようになります。

(ここで強引な理屈が展開されるのですが)、この条件は、論文執筆や論文投稿前に課されているため、出版社が論文掲載時に論文著者から要求する著作権譲渡の契約書より有効であると、プランSの研究助成機関は主張します。
つまり論文著者は、論文出版の際に著作権を出版社に譲渡したとしても、自身のコンテンツを自由に共有、複製する権利を留保するため、論文の著者最終稿をエンバーゴなしでリポジトリ上に公開することが可能となるのです。

日本における権利保持戦略の可能性

プランSにとってこれは、(これまで手薄と言われていた)非OAの購読誌等への論文掲載を可能とするための策ですが、 この「権利保持戦略」は、プランSに参加していない諸国においても有効です。

たとえば、日本の研究助成機関が「権利保持戦略」を立てて、日本の研究者に対して、著者最終稿の機関リポジトリへのエンバーゴなしの公開を義務づけるとします。
すると、研究者は自身の論文コンテンツを共有、複製する権利を保持することができます。これに加えて、日本の論文のOA比率、すなわち、ヴィジビリティも向上します。ヴィジビリティが向上すれば、論文が引用される確率も高くなるので、被引用数にみる日本の研究力が高まることとなります。

また、このようにすれば事実上、いかなるタイプの雑誌においてもOA出版が可能となるため、今回紹介したような馬鹿高いAPCを負担する必要が、特にハイブリッド誌について、なくなります。世界的にみればOAコンテンツが増えるため、学術雑誌の購読料を抑制する効果にもつながります。

日本は、(ゴールドOAではなく)グリーンOAを標榜する国ですから、このような方法で、世界のオープンアクセス運動に貢献するとともに、ジャーナル問題を解決すれば良いのではないでしょうか。

プランSの「権利保持戦略」と日本の取りうるべき戦略の詳細については、以下に詳細を記述しています。

船守美穂「プランS 改訂版発表後の展開 ― 日本はプランSに何を学ぶか?」NIIテクニカルレポート(2020.12)

OA誌における研究者のAPC負担軽減

世の中は急速に、購読モデルから、OA出版モデルへと移行しています。また、それと同時に論文の出版コストの負担が、機関から研究者に移り、研究者には負担の重いものとなってきています。
プランSの「転換契約(Read&Publish契約)」は、一つの契約において、機関が購読料とOA出版費を負担し、研究者の経費負担を軽減する方法ですが、これは所謂ハイブリッド誌を対象とした契約モデルで、(購読料の発生しない)OA誌には適用できません。

そこで、OA出版の元祖であるPLOSは、OA誌における出版コストの負担を、研究者から機関に移す、新しい機関契約の方法を先月2020年10月に発表しました。

「Community Action Publishing(CAP)」と呼ばれるこの方法は、PLOSの7誌のうち最も権威ある2誌のPLOS Medicine誌とPLOS Biology誌を対象に、3年間のパイロットとして実施されます。これら2誌に論文出版する研究者の機関に、OA出版のための機関経費を負担してもらうのです。機関経費は、前年、同機関から出版された論文数を元に算出されます。
なお、この2誌は、年間の出版論文数がそれほど多くないため、論文主著者の機関だけでなく、共著者の機関にも参加を募ります。また、PLOSは自身の利益率上限を10%に定め、余った分については、参加機関に還元するとしています。

PLOS(Public Library of Science、公共科学図書館)は元々、商業出版社への対抗を意図して開始した非営利活動法人のため、この新しい経費負担方式においても、「コミュニティ」という言葉を用い、学術コミュニティの連帯感に働きかけています。

ちなみに、経費負担をしない機関の研究者については、APCが2023年にかけて値上がりします。現在の3000ドルから、PLOS Medicine誌については6300ドル、PLOS Biology誌については5500ドルです。

[Science](2020.10.15)
New PLOS pricing test could signal end of scientists paying to publish free papers

[Scholarly Kitchen](2020.11.23)
A World Elsewhere: PLOS's Community Action Publishing Model

結び ―― 時々の情勢に合わせた臨機応変な対応を!

今回は、ネイチャー誌とその姉妹誌のOA出版オプションにはじまり、大手商業出版社の転換契約の状況、出版社による著者最終稿の囲い込み戦略と、その上手を行こうとするプランSの「権利保持戦略」、日本の取りうるべき戦略、そしてOA誌の機関負担モデルの試行について、ご紹介しました。

学術情報流通がフルOAへと大きく転換するなか、多様な運営方式や経費負担方式が世界的に模索されています。
最終的には、研究者を含む、社会の多くの方々が、「可能な限り多くの学術情報にアクセスし、その恩恵にあずかれる世界」となるよう、その方向性を見失わないようにしながら、そのサステイナブルな維持の方法が模索されていかなければなりません。

ただし、一度に最終形を求めるのではなく、流動性ある状況下において、その時々において都合の良い方策を展開していくといった、臨機応変さも重要に思います。
出版社との購読契約を雑誌単位にばらしたり、Read&Publish契約を試行したり、OA出版経費の機関負担を模索したり、「権利保持戦略」等によりグリーンOAを強化したり、政府負担のダイヤモンドOAモデル(J-Stageや、NIIのJAIRO Cloud等)を推進したり、学術機関のグループや、場合によっては、企業や一般社会も含めた連合体で団結したり。
その時々の世界情勢に応じて、これらオプションを組み直していけると良いのだと思います。

日本としてのグッドプラクティスを形成できることを、切に期待しています。

船守美穂