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英国、初の大学の教育評価制度(TEF)結果公表

本日、大学の教育を評価するという新たな試み(Teaching Excellence Framework, TEF)の結果が英国にて公表されました。

これはこれまで十分に評価されてこなかった大学教育を、教育の質、学習環境、学生のアウトカムにまたがる10の評価基準に基づき、アカデミア、学生、企業関係者からなるTEFパネルが評価するもので、大学をゴールド/シルバー/ブロンズに分けます。

現在TEFは試行段階にあり、TEFに参加するか否かは大学の判断に委ねられています。ただし、TEFに参加すると、現在の授業料設定額の上限9000ポンド/年を超えて、授業料を物価上昇分、値上げしても良いという自由度を大学は与えられるため、TEFに参加するインセンティブが大学にはあります。

295の大学が参加し、64大学がデータ不十分で暫定の評価書を得て、残りについては59大学(26%)がゴールド、116大学(50%)がシルバー、56大学(24%)がブロンズでした。
オックスフォード大学やケンブリッジ大学などの伝統的な高等教育機関がゴールドを獲得した一方で、あまり知られていない教育中心の大学もゴールドを獲得しています。これまで研究中心であった大学評価を変えるという意図で考案されたTEFなので、こうした点はもくろみ通りと言えます。
一方、LSEやラッセルグループのメンバーであるリバプール大学やサウザムプトン大学はブロンズと評価され、残念な結果となりました。

なおTEFの実施主体はイングランド高等教育財政協議会(HEFCE)ですが、イングランド以外に在する大学も参加することができ、今回はイングランド281大学のほか、ウェールズから7大学、スコットランドから5大学、北アイルランドから2大学が参加しました。

[HEFCE] The Teaching Excellence Framework

[Universities UK] Teaching Excellence Framework: what can we learn from the results? (2017.6.22)

[BBC] Leading universities rated 'bronze' under new ranking system (2017.6.22)

[Inside HigherEd] Britain Tries to Evaluate Teaching Quality (2017.6.22)

TEFの結果は公表されたばかりで、それに対する評価はまだ固まっていない模様です。BBCや米・Inside HigherEdなどはブロンズになった大学を指摘するなどしていますが、Universities UK(英国大学協会)はやや淡々と、しかしこれを民間ガーディアンのランキングなどとの相関分析するなどしながら、報じています(分析グラフが興味深いです)。
本制度が試行運用であること、今回の評価についても現在異議申立期間に入り、8月までは評価が固まらないことなども、TEFに対する評価がまだ固まらない理由と思われます。

TEFは、高等教育のマス化に伴い、研究中心であった大学評価を、教育中心の評価にシフトし、学生に大学の教育の質に関する情報提供をすることを目的として、導入されたものです。
英国大学協会が参加大学に対して行った調査によると、50%の大学が、TEFが大学の意志決定に影響を及ぼすと回答しており、また72%の大学が、TEFにより大学の教育・学習のプロファイルが向上すると回答しています。他方、7割以上の大学が、TEFが大学の教育や学習の質を正確に評価出来ているとは思えない、と回答しています。
実際、TEFは教育の質を評価すると言いつつも、授業見学等の教育評価は一切行わず、学生数や多様性、就職率等の外形的指標と、大学が提出する自己点検評価書のみで評価を行っており、実は教育そのものの質は評価していないとの批判もあります。

なお英国では2016年5月に大がかりな高等教育と研究システムに関する改革が提案され、2017年4月27日に、メイ首相の宣言した議会解散直前の滑り込みで、可決されました。高等教育において25年ぶりの大改革と言われ、これまで大学に対して運営費交付金を(研究評価であるResearch Excellence Framework, REFをもとに)配分していたHEFCEが、学生局(Office for Students, OfS)となり、この学生局が、今回紹介したようなTEFをもとに大学を監督し、運営費を配分する機関となります。HEFCEはもともとビジネス・イノベーション・技能省(BIS)にあったものが、2016年から教育省に移管されており、高等教育を研究中心から教育中心に捉えていく流れはそのころからあります。

一方で、研究面では、HEFCEの研究評価REFに基づき運営費を配分していた機能、競争的研究資金を配分していた7つの分野別の研究会議(Research Councils)、イノベーションUKが一つのUKリサーチ・イノベーション(UKRI)へと統合され、ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)のもとに置かれます(BISに、学術や研究を意味する言葉が入っていないことに注意ください!)。
2016年にUKRIが提案された際は、助成する研究のテーマの権限がアカデミアの手を離れ、政府機関が介入できるような制度となっており、英国学術界に大きな波紋を呼びかけていましたが、今回の議会解散直前の滑り込みの可決で政府側に多くの妥協がなされ、異例ではありますが、英国において長らく用いられている科学助成の基本であるHaldane Principle、つまり科学助成が政治的介入から保護されなければいけないとの条項が、高等教育研究法に明記されました。

英国の高等教育は、Brexitもありますし、今回の25年ぶりの大改革もあり、大きな転換期を迎えているようです。

[Nature] Controversial UK research reform crosses finish line (2017.4.28)

[Universities UK] (2017.6.9)
Briefing: Implementation of the Higher Education and Research Act 2017

[JSPS] 英国学術事情(2017.5.22) (5) 高等教育研究法 (2017)制定

[JST Science Portal-山田直氏レポート] (2016.8.1)
2016年8月号「2016年高等教育白書」<「Success as a Knowledge Economy: Teaching Excellence, Social Mobility and Student Choice」Department for Business, Innovation and Skills(ビジネス・イノベーション・技能省)>

船守美穂