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コロナ下の米国大学(3):オンライン授業続行を宣伝する大学

レポート(2)の続きです)

「9月は授業をキャンパスで実施」を発表する4年制大学が相次ぐ一方で、9月以降もオンライン授業を続行すると宣言する大学もあります。

全米で話題を呼んだのはカリフォルニア州立大学(CSU)です。CSUは、学部生と修士までを教育する23分校を有しており、州立大学としては全米最大級です(なお、CSUは、博士課程までを教育するUCバークレーやUCLAなどの属するカリフォルニア大学(UC)とは別の大学システムです)。その全米最大級のCSUが、9月以降も原則オンラインで授業を提供すると宣言したのです。

Timothy White総長は、「状況が許せばキャンパスでの授業再開も検討するが、それに期待して8月まで無策でいるのは、(学生に対して)無責任というものであろう。今からオンライン教育の準備を開始し、優れた教育コンテンツや教育機会を9月には提供できるようにすべきである」と言っています。

CSUがこのような判断ができるのは、従前から進学希望者が十分におり、大学の定員充足にかかる悩みがないこと。自宅学生が多いため、学生寮を埋めて、学生寮や駐車場収入を確保するといった緊急性が低いことなどがあるようです。

また、学生をキャンパスに再び受け入れ、学生を半数ずつ毎週、感染判定のテストをした場合、毎週2500万ドル(27億円)かかるため、オンキャンパスでの授業再開はありえないと判断したそうです。

[Inside Higher Ed] (2020.4.28)
Cal State Stands Alone

[Los Angeles Times] (2020.5.12)
CSU plans to cancel most in-person classes and go online this fall, chancellor says

―― コミュニティカレッジは、オンラインのまま

米国で、オンラインのままで授業を9月に開始すると宣言する大学の多くは、コミュニティカレッジです。自宅から通う学生が多いということが、判断の容易さの背景にあります。また、感染状況のテストや座席の間を空けるなどの対策を講じて対面授業をするだけのリソースがないというのも一因です。

ダラスのコミュニティカレッジ(Dallas County Community College District)のJoe May学長は、「我々は16.2万人の学生に教育を提供しています。毎週これら学生の感染状況をテストするとなると、1日に4万人のテストをする必要があります。1人あたり10〜15秒と考えても、これは行列と新たな感染の原因を作り出しますし、簡単な計算により、実施不能と判断しました」と語ります。

現実的な判断ですね。キャンパスでの授業再開を宣言する大学は、感染状況テストは可能だと言い切っているのですが、本当に出来るのでしょうか?

[Inside Higher Ed] (2020.4.28)
Community Colleges Likeliest to Stay Virtual

[Inside Higher Ed] (2020.5.22)
Is Testing Students for COVID Feasible?

ちなみに米国教育省は5月15日、大学が遠隔教育をしても良いという特例を12月31日まで延長すると発表しました。大学がオンライン教育等遠隔教育で、単位や学位を授与するためには本来、それぞれの地域の大学認証機関により認証してもらう必要があります。しかしコロナ禍の特例で、認証なしで遠隔教育を提供できます。

この特例により、「質の保証されないオンライン教育が蔓延するのではないか?」「コロナ禍以後も、なし崩し的に残るのではないか?」といった批判もあり、せめて、「教育方法にどのような変化があったかの報告義務を課すべき」との声もあったようですが、今回の特例の延長には盛り込まれませんでした。

連邦政府としてはこの緊急事態において、双方に余計な事務負担をかけることなく、高等教育をなんらかの形で維持したいということなのでしょう。

[Education Dive] (2020.5.18)
Ed Dept extends online education flexibilities to year end

―― オンライン教育は、動画でなくても良い

これら記事には言及されていないのですが、コミュニティカレッジにはもう1点、オンライン教育のままでいられる理由があるように感じています。

米国のコミュニティカレッジは、2年制の大学で、万人に教育を提供する地域の高等教育機関として設置されています。オープンアドミッション、つまり大学入試はなく、授業料も4年制の州立大学に比べて安価です。2015年以降は、オバマ前大統領の呼びかけによる高等教育無償化政策 "America's College Promise" により、無償を追求する州も出てきています。

学生像としては、(1)3年次には4年制大学に編入する予定で、地元で安心かつ安価なコミュニティカレッジに進学するパターン、(2)高卒の社会人等として入学し、高等教育の準学士号の取得を狙うパターン、(3)単発の講義を受講するパターンなどがあります。

[mihoチャネル] (2018.10.1)
高等教育無償化を掲げる民主党員が拡大

このように、学生の年齢層や生活パターンに大きな幅があるため、コミュニティカレッジは、物理的な教室における授業が一般的ではあるものの、以前から、夜間の授業や遠隔教育、e-ラーニングなどを取り入れてきました。

アリゾナ州マリコパカウンティのコミュニティカレッジはe-ラーニングやオンライン教育で有名で、私もその中のRio Salado Collegeを取材したことがあります。

Rio Salado Collegeはほぼ100%オンラインで授業を提供しています。オンラインでは、学生のドロップアウト率が高くなることが知られているので、学生とのコミュニケーションを保つためのアドバイザーの体制を敷き、学生の応答が間断的になったら学部長にメールが自動的に飛んで、学生にアウトリーチできるような体制が組まれていました。

取材当時は、ちょうどMOOCが流行始めたころで、オンライン教育も物珍しく、「どうしてコミュニティカレッジのような、リソースの少ない大学が、オンライン教育などを実施できるのだろう?」と不思議だったのですが、Rio Salado Collegeのオンライン教育の画面を見せてもらい、なぞが解けました。

ここでいうオンライン授業は、動画ではなく、基本的にテキストベース、かつ、非同期的なのです! つまり、教員は毎週、(1)今週学ぶべき内容についての教材と、(2)翌週提出すべき課題を提示し、学生はそれを自分の都合の良い時間にダウンロードして学び、課題を提出する。教員やアドバイザーと直接相談できる時間が、1学期中数時間割り当てられており、それを使って質問をしても良い。また、課題は、教員の采配で、オンラインのグループ学習になることもある。言ってみれば、プリントベースの通信教育と赤ペン先生が、オンラインで実現されているだけのものなのです。

コミュニティカレッジはこのように、オンライン教育を以前から、手軽に実現可能な範囲で実践しているので、コロナ禍においても容易に続けられるのです。

船守美穂
「オンライン教育のメッカ、フェニックス―営利大学と非営利大学の攻防」
主体的学び 4号 p.125-144 (2016.5)

日本でも、オンライン教育で教員が疲弊していたり、初等中等教育ではそもそもインフラが整わないということで、オンライン授業が成立していなかったりしているようですが無理にライブのオンライン教育に固執する必要はないのではないでしょうか? できる範囲で、授業を再開し継続する、ということが大事なように思います。

初等中等教育については、通信教育教材程度で良ければ、既存の教科書やドリル、学習塾の教材、海外子女のための通信教育教材(JOES)などもあります。赤ペン先生は郵送でも、電話でも対応可能でしょう。

緊急事態宣言が解けて、学校は一時的に再開しても、第2波、第3波が来れば、再び休校せざるを得ないのです。学校における「対面の授業は、年を通じて間断的にしかできない」ことを前提に、家庭での教育や遠隔教育を組み合わせた教育体制を組んだ方が良いのではないでしょうか。

レポート(4)へ続く)

船守美穂