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コロナ下の米国大学(1):米国の2020年度大学進学者数、2割減か?

高等教育分野のマーケティング企業であるSimpsonScarborough社の推定によると、米国の4年制大学への秋の大学進学者数は、2割減となる可能性があるそうです。
同社は、約2000名の高校最終学年の高校生と大学生を対象として、米国に新型コロナウィルスが拡大し始めた3月と、失業率が3週連続で上昇した後の4月にアンケート調査を行い、この推定値をはじき出しました。

  • ○ 調査によると、新型コロナの大流行前に4年制大学への進学を予定していた高校生の1割が、アンケート時点ですでに、別の進路に決めていました。
  • ○ 大学生のうち14%は、「秋に大学に戻らない」もしくは、「まだわからない」と、3月時点では考えていました。この数字は4月には、26%となっていました。
  • ○ (大学への進学を1年遅らせ、多様な体験をする)ギャップイヤーを検討する学生が増えているようです。正確な数字は把握できていないものの、これまで新入生の約3%がギャップイヤーをとっていると言われました。パンデミックが始まってから、インターネットにおける「ギャップイヤー」の検索件数は急上昇しました。
  • ○ オンライン教育は、大学生に不人気のようです。学生の85%が、学位を取得するためにキャンパスに戻りたいと回答しました。これに対してオンラインで修了したいとする学生は15%に留まりました。

これらの数字は、マイノリティの学生において、見通しが更に暗くなります。

「秋に大学には進学しない」もしくは、「まだわからない」とした高校生は、マイノリティにおいては41%もいました。これに対して、白人系の高校生におけるこの数字は24%でした。
大学決定の期日が迫っているにもかかわらず(米国の大学は一般に、進学希望者からの回答期限を5月1日にしています。ただし、今年は期日を遅らせた大学も多数あります)、マイノリティの高校生の24%は、「どの大学に進学するかを決めていない」と回答しました。白人系の高校生におけるこの数字は14%でした。「新型コロナウィルスのために、進学先の第1希望を変えた」高校生は、マイノリティでは1/3に上りましたが、白人系では15%に留まりました。

大学生についても、マイノリティの学生は、白人系の学生以上に、新型コロナウィルスの影響を受けています。
「秋に大学に戻らない」もしくは、「まだわからない」と回答した大学生は、マイノリティでは32%に上りましたが、白人系学生においてこの数字は22%です。
「自分の将来計画が新型コロナウィルスの影響を受けた」とする学生が、マイノリティでは64%もいました。これに対して、白人系学生においてこの数字は44%に留まりました。

SimpsonScarborough社の調査によると、大学の威信やロケーション、リーダシップにより、影響が緩やかな大学も一部があります。しかし全般に、「大学進学への影響は、壊滅的になる」そうです。

SimpsonScarborough社のElizabeth Johnson社長は、「調査を3月にした段階では、安易な予測はすべきではないと思っていました」と語ります。この時点では、新型コロナウィルスが流行しはじめたばかりで、学生も大学も、未経験の事態の下、判断が揺らいでいる可能性がありました。しかし、新型コロナウィルスが流行しだして1ヶ月たった後の調査結果は、ほぼ同じか、(大学から見た場合)悪化していました。

いくつかの要素を組み合わせ、秋の大学進学者2割減という数字が割り出されました。無論、そこには大きな不確定要素があります。しかし、多くの大学が望んでいる、「秋までにワクチンが開発されている」という状況は起きないと、Johnson社長は断言します。

彼女は大学に、これからの多様なシナリオについて、学生と話し合いをすることを勧めています。Inside Higher Ed誌に最近掲載された「15の秋のシナリオ」というブログ(ダーツマス大学のJoshua Kim氏と、ジョージタウン大学のEdward J. Maloney氏による)を紹介し、大学が学生と話すときに、どのシナリオを想定しているのかを示すと良いと言っています。

このような調査をしているのは、SimpsonScarborough社だけではありません。他にも調査が複数あります。しかし、調査方法が異なっても、どの調査もほぼ同様の傾向を示しています。

Tyton Partners社は最近、大学生の親を調査し、「オンライン教育に対して、授業料を満額支払う」ことにについて、多くの人が疑問を有しているという結果を得ました。

Lipman Hearne社は、高校生の親を対象として、3月および4月に行った調査の結果を発表しました。
これによると、「自宅に近い大学に子を進学させたい」とする親は、45%から52%に上昇しました。回答者の56%は、「大学進学時期を1月に遅らせることに関心」があり、回答者の46%は、「〈当初予定していたより〉費用がかからない大学にまず入学し、それから転学させたい」としました(米国は、授業料の安い2年制のコミュニティカレッジにまず進学し、そこから4年制の州立大学に転入学するパスが以前から存在します)。また回答者の61%が、「オンライン教育では、高等教育の質が落ちる」と考えています。

Art & Science Groupは、4/21〜24にかけて、高校最終学年の生徒1171名をアンケート調査し、4年制大学に進学予定であった高校生の6人に1人が、「大学進学を見送る予定」であることが分かりました。
グループのリーダーであるRichard Hesel氏は、調査によると、学生の6割は「オンライン教育に興味がない」と言っています。また、「オンライン教育が次の進学年度まで続く場合、授業料は大きく減額されるべき」と考える学生は2/3に上ります。

米国大学入学カウンセリング協会(National Association for College AdmissionCounseling)の教育コンテンツとポリシー部門のDavid Hawkins長は、これら調査が多様な事項を検討するのに極めて有用であると述べています。

「情報が貴重な今の時期において、このような調査は、大学が不確かな未来に向けて検討を進めるのに、極めて有用です」と彼は語ります。
「無論、こうした調査には限界があります。ある時点のスナップショットを捉えているだけのため、新しい情報や事態が発生すれば、一夜のうちに回答は大きく変わる可能性があります。また、大学によって、置かれた状況と新型コロナウィルスの影響は大きく異なるため、(自大学の状況を把握するために)各大学は、自身の学生の母集団にそれぞれにアウトリーチする必要があります。しかし困難な時期における目安として、これら調査は、多くの学生にとって大学が手の届かないものになりつつあるという危機的状況を、大学や政策担当者に対して示唆します」。

「新型コロナウィルスの主要な影響は、学生にとっても、大学にとっても、経済的なものであると考えています。新型コロナウィルスの大流行は、州および連邦政府からの相当の公的支援がないかぎり、2008年のリーマンショック以上の大不況につながるでしょう。そのような状況になると、学生は大学に進学ができなくなり、大学は大学のサービスを維持できなくなります」。

[Inside Higher Ed] (2020.4.29)
Colleges Could Lose 20% of Students

[Inside Higher Ed] (2020.4.28)
More Cause for Concern About Fall Enrollment

【所感】
―― 日本の高校生の大学進学断念の可能性はケアされているのか?

なかなかダイレクトなアンケート調査ですね。日本でも、大学生を対象としたアンケートでは、アルバイト収入の減少、生活困窮、負担不能な授業料といった実態などが浮き彫りとなり、「2割強の学生が退学を検討」といったアンケート結果も発表されるなか、これら調査結果が、国レベルの「学生支援緊急給付金」の創設や、一部大学による在学生を対象とした、通信環境の整備費といった名目の、一律1〜10万円の支給につながりました。

しかし高校生を対象としたアンケートは、生活面や学習面への影響、部活動や交友関係、生活の乱れなどが中心的テーマとなっています。大学進学との関係では、大学入試への影響や、オンライン授業等への高校の対応状況による教育格差への懸念、また、大学のオープンキャンパスや高校の進学相談を受けづらいことから志望校を決めにくいといった声までは拾っていても、なかなかずばりと、大学進学断念の可能性を問うアンケート項目は立てられていないようです。

それでも、高校生を対象としたアンケートの自由記述には、「私大はやめてと親が求める」、「地元大学に(志望を)変える人も」といった声があります。また、コロナ禍における現在の大学生の困窮ぶりを見たら、日本の高校生についても、大学進学を断念する層が一定数出ることは想像に難くありません。

[高校生新聞ONLINE] (2020.5.13)
「私大はやめて」親が求める、地元大学に変える人も

―― 低所得層や第一世代学生は、大学進学断念の可能性が高い

紹介した記事のアンケートでもう1つ着目したいのが、マイノリティと白人系学生の比較です。マイノリティの学生の方がより大きな打撃を受け、大学進学を諦める可能性が高いという結果が出ています。

マイノリティへの着目は、移民国家として成立した米国特有のイシューであることは事実です。しかしマイノリティがこうしたパンデミックに脆弱であるという事実は、格差が拡大しつつある日本においても、中〜低所得者層において、同様の問題が発生している可能性を示唆します。

日本は、単一民族かつ一億層中流階級という幻想が広く浸透しているだけに、パンデミックに脆弱な層を特別に抽出する方法がなく(←それだから、当初の、経済的に困窮する世帯のみへの30万円の支給も頓挫したと言えます)、人知れず打撃を受けている層がある危険性があります。

日本の大学・短大進学率は現在、5割強で、この数字は過去数十年、基本的には上昇し続けています。つまり、これまでであれば大学進学を考えていなかった世帯の子が、毎年、一定数ずつ、大学進学組に取り込まれて来ていました。こうした世帯は一般に、親も大学進学の経験がないことから、米国では、「第一世代学生(first generation students)」と呼びます。世帯あるいは家系から、初めて大学に進学する学生のことを指します。

こうした第一世代学生は、家庭内あるいは同級生において大学経験者が少なく、大学に対するイメージが十分にないため、大学に馴染みにくいといった問題を一般にかかえています。また、困ったときにどこに相談すれば良いのかも分からず、中退する危険性が、一般の学生に比べて、高いことが知られています。こうした層がパンデミック下において、より脆弱なのは明らかです。

日本で毎年、大学進学組に取り込まれていた層も、(大学進学に投資すべきかという)世帯や家系における一世一代の大決断をして、大学に入学してきています。そこには、大学進学に投資することは、人生トータルでみた場合、本当にお得なのか? 高卒で、手に職をつけて仕事した方が、着実に安定した人生を送れるのではないか? といった、人生の大決断が伴っています。大学に進学するのが当たり前の家庭に生まれ、親が授業料を負担するのだし、なんとなくの流れで大学に進学する子とは全く状況が異なります。
こうした層の一大決心は、それが無から有を生み出す決断なだけに、パンデミック下においては、その臨界点を超えるだけのエネルギーが出ず、大学進学を諦める結果となっても、おかしくありません。

現在、コロナ禍に対する支援は、既に被害に遭っている人々や事業者に向けられていますが、こうした、将来的な判断において打撃を受ける可能性のある層に対しても、手をさしのべていった方が良いのではないでしょうか。高校の進学指導担当はおそらく、こうした層の生徒達を概ね把握しています。こうした層を対象とした奨学金等の支援策を用意すれば、高校の進学指導担当も安心して、こうした生徒達に大学進学を勧め、勇気づけることが出来るのではないでしょうか?

レポート(2)へ続く)

船守美穂