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ドイツ、アビトゥアなしで大学に入学する学生が拡大
ドイツにおける高校卒業証明であり、高等教育プログラムへの入学資格でもある、アビトゥア(Abitur)もしくは専門アビトゥア(Fachabitur)なしで、大学に入学する大学生が拡大していることが、ドイツのシンクタンクであるCentre for Higher Education(CHE)の調べにより判明しました。
ドイツにおいて高等教育を受けるには、〔ギムナジウムなど、ドイツの中等教育卒業試験で得られる〕アビトゥアを得て大学等高等教育機関に進学するか、もしくは専門上位学校Fachoberschule)において得られる専門アビトゥアを得て、専門大学(Fachhochschule, Universities of Applied Science)に進学します。専門上位学校や専門大学は1960年代に導入され、工学や経済学などの特定の分野に特化しています。
※専門上位学校(Fachoberschule)は、ギムナジウム以外の中等教育機関(主に実科学校(Realschule))修了者が入学し、修了時に専門大学(Fachhochschule)への入学資格を得る。学年では11-12年生の二年制課程。(訳者注)
アビトゥアもしくは専門アビトゥアなしで、ドイツの高等教育機関に入学する方法は二通りあります。
特定の分野において職業訓練(vocational training)を修了した者は誰でも、①面接相談(counselling interview)か、②適性検査(aptitude test)を受けるか、③自身の職に関連のある分野で学習してみるかが、できます。これら3つの方法は、組み合わせることもできます。その上で、適性ありと判断された応募者は、対応する分野に入学ができます。たとえば、電子機械工(mechatronic engineer)は、大学において、電子機械工学や工学、コンピュータ科学のプログラムに入学する可能性があります。
もう一つの方法は、一定の職業経験を有し、名職人(master craftsman)、企業管理者(business administrator)、技術士(technician)などの職業上の認定資格(advanced vocational qualification)を有する者に対して、大学への門戸を開きます。これら職業人(professional)は、アビトゥアを有する者と同等の資格を有するとみなされ、大学のいずれの学問分野にも入学できます。たとえば専門の肉屋(master butcher)は、哲学を学ぶことができます。
1950年代初頭、ハンブルグは、現在ハンブルグ大学の一部となっている経済政治大学(Hochschule für Wirtschaft und Politik)において、アビトゥアなしで学べる制度を導入しました。当時、〔同大学の〕在学生の6割がアビトゥアを有していませんでした。ブレーメンとニーダーザクセン州は1970年代にこれに続き、現在求められる要件〔①〜③〕に類似する条件を満たす職業人に大学への門戸を開きました。ヘッセン州とラインラントプファルツ州も、この後に続きました。
2010年、独・教育文化省の常任会議は、この枠組みを全16州に適用可能な標準コンセプトとして承認しました。
※ ハンブルグとブレーメンは、ベルリンと並び、ドイツ16州のうちの都市州(Stadtstaat, city state)と呼ばれる、都市規模の州。(訳者注)
2007〜2017年を対象とするCHE統計によると、アビトゥアもしくは専門アビトゥアなしで大学プログラムへの入学を申請した者は、この期間に4倍へと拡大し、2017年には約6万人に達しました。同年、約1.46万人もの職業的バックグラウンドを有する者が、大学に入学しました。これは初年次学生の2.9%を占めます。
重要なステップ
「アビトゥアを持たないが、大学で学びたいという意欲のある者に対して、大学の門戸を開いたことは、正しいことでしたし、重要な一歩でした」とCHEのマネジングディレクターのFrank Ziegele氏は指摘します。「現在、生涯学習で学びたいという人々が増えつつあり、このような柔軟なアプローチが必要とされています」。
アビトゥアなしで大学に入学し、学位を取得して卒業した者の数も、増えつつあるようです。2007年段階では、大学もしくは専門上位学校で学位を得た者は1900人程度でしたが、2017年には4倍の8100名となりました。(訳者注:ここの「専門上位学校」はおそらく「専門大学」の誤り)
「〔アビトゥアなしであるが〕学位を取得して卒業する者が継続的に拡大しているということは、大学において学習できる能力(ability to study)が、アビトゥアの認定のみには依らないということです」とCHEの高等教育研究長のSigrun Nickel氏は指摘します。
〔アビトゥアなしで〕大学に入学する職業人にとって、専門大学が第一候補であり続けるようです。2017年、アビトゥアなしの初年次学生の2/3が、専門大学に在籍していました。また、アビトゥアなしの初年次学生は、公立大学においては全体の2%のみでしたが、私立大学の提供する学位コースでは11%を占めました。
2017年にアビトゥアなしで入学した学生の56%が、法学、経済学、社会科学を選択しており、工学は20.8%、医学・健康科学は11.5%でした。さらに、これら学生の9割が学士取得につながる科目(bachelor degree course)を選択していました。結局のところ、アビトゥアなしの学生は、ドイツ国内の8000以上のプログラムの中から、進学先を選択することができます。
[University World News] (2019.4.10)
Rising number of students enrolling without 'Abitur'
驚きでした。規則運営については日本と同様、極めて厳格なドイツですが、このような抜け道というか、高卒等で働いている職業人に、アビトゥアなしで学位を取得する道を提供しているのですね。
ドイツは、大学への進学を決定するのが基本的には、日本で言う小学校4年生から5年生に上がる段階で、その段階で日本の中高一貫のようなギムナジウムに進学した子達のみが基本的には大学に進学します。進路決定にはさすがに早すぎるということで、ギムナジウムに進学しなかった子達にも、いくつかの節目において、大学進学に進路変更ができる制度枠組みが用意されていますが、それでも既定路線からの変更は、どこの国においても容易ではありません。そのような訳で、たとえば両親が職人であったなど、大学進学をあまり想定しない家庭に生まれ育った場合、気が付いたら職業人になっていた、というケースが日本以上にあり得ます。
高卒で働き始めてしまった人達について、このような学位取得の道が用意されているのは、良いことですね。アビトゥアなしで、面接等程度で大学に進学できてしまうというのは、だいぶルーズなようにも感じますが、一方で、アビトゥアなしで入学しても、学位取得に至る学生が相当多いようなので(6〜7割?)、この記事にあるように、アビトゥアを持っている持っていないは、大学の授業に付いていくための必要条件ではないのでしょう。むしろ、寿命が伸び、生涯学習というか、仕事に必要な知識とスキルを、時代に合わせて個人が時々ブラッシュアップしていくことが必要な時代において、このような機会が用意されているのは大事と思いました。このようにして大学に進学した人材が、主に学術目的の大学ではなく、専門分野が明確で応用的な「専門大学(Fachhochschule)」に進学しているというのも、頷けます。
この事例は、大学進学率が上昇した結果として、高等教育機関が、アカデミックな学術探究と学位授与の場としてだけでなく、職業に就く直前の教育段階として、職業に役に立つ教育機能の役割を持つようになった現れと思います。
ドイツにはもう一つ、「二重大学(Duale Hochschule)」という、職業につながる位置づけの高等教育の制度枠組みがあります。具体的には、大学と企業等団体が連携をし、学生は教育課程の一部はその提携先の企業で実習を、残りの時間は大学で高等教育を受け、最終的に学士号(bachelor)を得ます。実習では給与を得て、学士号取得後に当該企業等に就職することもあります。ちなみに、連携する団体としては企業だけでなく、博物館などもあるようです。
高等教育と実習の比率は、連携先の企業等によって異なるようですが、ほぼ半々の割合で、全体で3〜5年間かかるようです。学期ごとに、大学と企業交互に通ったり、曜日ごとに通い分けたり(例えば月火木は企業で、水金は大学など)するようです(ラインラントプファルツ州の例)。この学士取得後、修士課程には進学できるものの、博士号は得ることができないようです。しかし研究者になるという要望がない限り、一般にはこの学士号でも十分なので、この仕組みは、大学教育を受ける過程で給与も得て、また就職機会も高まることから、若者に人気を呼んでいるようです。私がドイツでギムナジウムに通っていた頃の大親友と話したところ、娘さんが、この方法を希望しているとのことでした。
ドイツはその他、この記事にある「専門大学(Fachhochschule)」のように、職業に密接する高等教育機関があります。これは日本における「専門職大学、専門職短期大学」制度の創設につながり、これは今年度から開設されつつありますが、現状では専門職大学が2校、専門職短期大学が1校のみのようです。これから伸びていくのでしょうか。。。
日本は、大学の入学者年齢を見ても23才以上の入学者が1%程度(2018年学校基本調査)で、大学は社会人/職業人の教育機関とはみなされていないようです。職業において役に立つような、社会からみて魅力ある教育が提供されていないことが問題なようにも感じますが、何かしら手が打てるといいように思いました。
船守美穂