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米国連邦政府、不法移民取り締まりに偽の大学を設置

米国連邦政府が、米国に不法滞在しようとする移民をおびきよせるために偽の大学を設置して、おとり捜査をしました。偽の大学を本物に見せるために、認証評価機関の協力を得て、同大学が認証評価されているように見せかけてさえいました。
この偽の大学は、デトロイト郊外のオフィスパークの偽の施設に、全くの偽のSNSアカウントとともに、米国国土安全保障省の工作員により設置されました。2015年に開設されましたが、不法移民をトランプ政権が取り締まるようになった2017年初めから、取り組みが強化されました。

外国籍市民600名以上の米国における不法滞在を可能とするように支援したというかどで、26~35歳の8名が、連邦政府により起訴されました。米国移民税関捜査局の安全保障調査デトロイト支部のスティーブ・フランシス特別捜査官は、これら8名の容疑者が、「何百名もの外国籍の人たちを、学生であるかのように見せかけることにより、米国に滞在し続けられるよう支援した」と明かしました。
連邦捜査官たちは、学生が学習やおしゃべりをする陳腐な写真を用いたウェブサイトを開設し、ファーミングトン大学という偽の大学をでっちあげました。また、デトロイト北西のファーミングトン・ヒルズの商用ビルに、施設も設置しました。同大学の「About Us」ページには、同大学が「第二次世界大戦後、帰還兵が仕事につながる質の高い教育を求めた1950年代初頭に淵源をもつ」とあります。「入試案内」には、「随時入学」を可能としており、「大学生活にスムースになじめるように、早い段階で出願」することを学生に勧めています。この偽の大学は、バージニア州アーリントンに実際に存在するキャリア教育のための認証機関(Accrediting Commission of Career Schools and Colleges, ACCSC)に認証されているとしています。
「デトロイトにある大学の存在、および、国土安全保障省のリクエストによりこれを認証評価することで、我々が国土安全保障省を支援したことを、ACCSCは認識しています」と、同認証評価機関の長であるMichale McComis氏はメールで返しました。

この大学の偽のフェイスブックページには、1月28日に開催されたカリフォルニア州フリーモントにおけるアウトリーチのためのイベントや、大学の駐車場の拡張工事をしているとする作業員のビデオが掲載されています。477ものツイートがあるのに21名しかフォロアーがいないツイッターページには、1月23日の講義が夜の雪嵐により休講になったと伝えています。(これらSNSページは、この連邦政府による偽の大学の存在が明るみに出た昨日のうちに、削除されたようです)。
こうしたSNSのページはあったものの、同大学は教員も職員もカリキュラムも教室もなかったそうです。このおとり捜査では、2017年2月からこの捜索が終わるまで、国土安全保障省の工作員が大学役員のふりをしていた、とデトロイト・ニュースは報道しました。申し立てによると容疑者達は、ファーミングトン大学を「お金を払えば滞在できる(pay to stay)」スキーム実施のために利用し、利用者を学位取得目的のフルタイム学生に見せかて、米国滞在を可能としていました。当初、更なる逮捕がなされたのか、それとも利用者の本国送還がなされたのか、不明でした。
ウェイン州立大学の法学部教授で、元連邦検事であるPeter Henning氏はデトロイト・ニュースに対して、「これはクリエイティブであり、おとり捜査ではありません」と言いました。そして、「政府は罠を仕掛けることはできますが、それにかかるかは被告人の自由です」と付け加えました。

連邦政府はこれまでも、同様なおとり捜査をしたことがありました。連邦政府検察官は2016年、北ニュージャージー大学という偽の機関を設置し、ビザ偽造のかどで21名の起訴につなげたと明かしました。被告人の多くは、留学生リクルーターやコンサルタントとして、26カ国1000名以上の学生または就労ビザを不正に取得、または取得を試みていたと連邦政府は述べています。

[Inside Higher Ed] (2019.1.31)
The Feds' Fake University

[The Detroit News] (2019.1.30)
Feds used fake Michigan university in immigration sting

まるでスパイものの映画、というか、元のデトロイト・ニュースの記事にはCIAといった言葉も踊っていることから、スパイ工作そのものです。日本にも不法滞在や不法就労の温床となる大学はあり、きっと米国にもそれがあるから、このようなおとり捜査が考案されたのでしょうけど、それにしても連邦政府が偽の大学を設置し、しかも本物の認証評価機関がこれを認証したように位置づけてしまうというのはスゴイというか、さすがです。インターネットが発達し、大学が実在するかのように見せかけやすくなったことも、このようなおとり捜査に寄与しているのかと思います。

それにしても米国の機関、特に学術機関は、政府からの強制力に強く反発する「自由の気風」が行動の原点にあるのに、こういうことは許容してしまうのでしょうか?トランプ政権の移民抑制政策と符号してこのおとり捜査が強化されたとのことですが、トランプ政権に反発するアカデミアが多い中、こうした連邦政府の動きに対してどのように思っているのか、どのような意見主張がなされているのか、知りたいところです。

高等教育機関は、大学という場が政府やその他の主体によって、大学の本来の目的とは外れた利用をされたときに、どのように反応するのが正しいのでしょうか?(「学問の自由」や「大学の自治」という言葉は安易に使うべきではないのかもしれませんが)こういうのは「学問の自由」や「大学の自治」の侵害とみなされるのでしょうか?こうした工作により、米国中堅以下の大学において外国籍学生の志願者が減少したら、どうするのでしょうか?
個別の大学運営や高等教育のあり方全般とは関わりのないところでの政府の高等教育への関与についての、態度の取り方が問われるように思います。

船守美穂