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教育アウトカムを反映させたパフォーマスファンディング、認定証授与の拡大につながる
コミュニティカレッジに対する運営費交付金の算定において、学位授与数などの機関のパフォーマンスを比較的大きく組み込む州では、(1年以下で取得可能な)認定証の授与が拡大し、(取得に2年以上かかる)準学位の授与が縮小することが、ウィスコンシン高等教育促進センター(Wisconsin Center for the Advancement of Postsecondary Education, WISCAPE)の調査により判明しました。短期に取得される認定証は準学位に比べると、卒業生の年収の拡大にあまり寄与しないため、機関の教育アウトカムに結びつけたパフォーマンスファンディング(PF)は学生に対してマイナスの影響を与える可能性があることを、この調査結果は示しています。
米国においてPFは、概ね35の州において導入されています。運営費交付金の5~24.9%に対して教育アウトカムの成果を反映させている州では、認定証授与の拡大が見られました。運営費交付金の25%以上に教育アウトカムの成果を2年以上反映させている州では、認定証授与の拡大とともに、準学位授与の縮小が見られました。
「多くの州はPFにおいて、短期の認定証、中期の認定証、準学位を区別していません。PFの制度設計の際、こうしたPFの算定方式が短期の認定証授与の拡大につながると予見されていなかったと思われます。我々の調査は、カレッジが短期的な運営費交付金の獲得のために、学生を短期の認定証を通じて卒業させようとすることを示しています。短期の認定取得率を拡大することが政策の目的だったのか、政策立案者に注意喚起を促します」と、調査報告は述べています。
[Inside Higher Ed] (2018.10.8)
Performance Funding and Certificate and Degree Production
Li, Amy Y., Kennedy, Alec I., & Sebastian, Margaret L. (2018).
Policy Design Matters: The Impact of Performance Funding Policies on Credential Completion at Community Colleges (WISCAPE POLICY BRIEF).
Madison, WI: University of Wisconsin-Madison, Wisconsin Center for the Advancement of Postsecondary Education (WISCAPE)
米国では、大学の授業料が高騰していることと同時に、大学の卒業率が低く、学生から見た場合、高等教育への投資対効果が低くなっていることが問題となっています。四年制大学における6年かけての卒業率が6割、二年制のカレッジにおける3年かけての卒業率が2割程度です。州立の高等教育機関については税金により賄われていることから、こうした高等教育機関の低いパフォーマンスは、説明責任の問題につながります。このような背景から、疑義は多くあったものの、PFの導入が米国の多くの州において進んでいます。高等教育支援に特化するルミナ財団の州政府に対する政策誘導の効果も背景にあります。
記事で紹介している調査報告によると、テネシー州がPFを最も長期間、1990年から実施しています。その他15程度の州が同じく、1990年代にPFを導入するも、2000年前後に中断し、一部の州は2010年に入ってからPFを再開しています。また16の州は2000年に入ってから徐々にPFを導入しています。ちなみにテネシー州は2015~20年の運営費交付金の算定において、授与された学位や認定証の種類を考慮したPFの算定方法をすでに導入しているそうです。
一言でPFと言っても、色々な算定方法があり、この調査報告ではそれらを4つのタイプに分類し、分析を行っています。PFを運営費交付金そのものではなく、ボーナスとして反映させるタイプ1と、PFを運営費交付金の5%未満に対して反映させるタイプ2の州には、この記事に指摘されているようなマイナスの効果は見られませんでした。タイプ3は、運営費交付金の5~24.9%にPFを反映させるほか、マイノリティ学生のアウトカムも算定に含め、二年制だけでなく四年制大学にもPFを適用し、更に機関ごとのミッションを考慮に入れています。タイプ4は運営費交付金の25%以上にPFを反映し、算定が二年間有効です。記事に指摘されているように、タイプ3には短期の認定証授与の拡大がみられ、タイプ4はそれに加えて準学位授与の縮小が見られました。なおタイプ4はオハイオ州のみなので、この調査結果を普遍的なものとして捉えて良いかは微妙です。ちなみにタイプ3は、4州です。
この調査報告が行った文献レビューによると、コミュニティカレッジにおける準学位取得者は、学位や認定証の取得に至らなかった学生に比べて、男性については4640ドル、女性については7160ドル、平均年収が高いそうです。これに対して認定証の場合は、男性が2120ドル、女性が2960ドルで、平均年収への寄与がそれほど大きくありません。州政府が学位取得率の向上を政策目標として掲げるのは、これからの時代、職を得るのには高等教育学位が必要であることと、州民の年収レベルを向上させることが目的ですから、今回の調査結果が正しいとすると、PFが導入目的と逆の効果を与えていると言えます。
この記事は、数値目標が思わぬ影響を与えるという良い例ですが、日本の政策においても同様のことはないか、振り返った方が良いと思われます。3つのポリシー(AP/CP/DP)を求めたり、IR担当もしくはIR室の設置の有無を私学助成等に反映させたり、挙げ句の果てには、今度はIR担当が研修を受けているか否かまでが評価されると聞きましたが、こうした些末な指標ばかりを求める結果、各大学とも体裁を取り繕うことにばかり一生懸命となり、各大学がそれぞれの置かれた環境に応じて行わなければいけない大学改革の内容を検討し、そのためのリソースを動員し、改革を実施することがおろそかになっていることが懸念されます。米国のPFは、高等教育の根幹となる学位授与率を指標としているので、多少の悪影響が出ても、まだ許せると言えます。
それにしても日本の高等教育研究からはなぜ、こうした実質的な政策研究がなされないのでしょうねえ・・・。誰かが第三者的立場で政策評価をしないと、国もやり方を変えにくいと思うのですが。。。
船守美穂