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大学入学判定において、SAT/ACTエッセイの要求を取りやめるエリート大学、続々。

2018年3月にハーバード大学がSATエッセイを入学判定の対象外とするニュースを紹介したところでしたが、6~7月にかけ、米国有数のエリート校が続々と、大学進学適性試験であるSATあるいはACTのエッセイを要求しないと発表しました。4月にダーツマス大学がハーバード大学に続いて離脱を表明し、6月にはイエール大学とサンディエゴ大学、7月9日から13日までに、プリンストン大学、スタンフォード大学、カリフォルニア工科大学(Caltech)、ブラウン大学、デューク大学、ミシガン大学が後に続 いています。

コロンビア大学、コーネル大学、MIT、ペンシルバニア大学は、これら大学より前からエッセイの要求をしておらず、今回の一連の離脱で、米国アイビーリーグ大学が大学入学判定においてエッセイを要求しないという流れがほぼ確定的になりました。プリンストン・レビュー・ブログによると、現在、大学入学判定においてエッセイを要求する大学は22校で、そのうち所謂名門校はウェルズリー大学(但しACTのみで、SAT はは要求しない)と、カリフォルニア大学の9分校です。

大学入学判定におけるSAT/ACTのエッセイの要求を取りやめる理由には、1)これらエッセイが、大学入学志望者の学力と相関がない、もしくは、事実に基づく記述でなくとも高得点が取得可能であるといった、SATのエッセイそのものへの批判も背景にありますが、2)エッセイの受験料により、もしくはエッセイの作文技術について指導を受ける機会が少ないことにより、(エッセイを要求する)大学への応募を見送ることのないようにという、経済的に恵まれない家庭の学生への配慮もあります。

なおこれら大学は、エッセイの重要性を否定しているのでは決してなく、多くの大学は、SAT/ACTのエッセイの点数を入学願書に参考情報として含めることは、拒まないとしています。Caltechは、入学願書に含まれる文章記述などを評価すると言っており、プリンストン大学はこれを機に、別の「ライティング」(高校の英語や歴史の授業で作文した、採点済みの作文)の提出を導入しました。

なおSAT/ACTのエッセイを大学入学判定に要求する大学は、全米で2%程度しかないにもかかわらず、この数少ない大学を受験する可能性を考慮して、ACTを受ける生徒の50%、SATを受ける生徒の70%が、エッセイも受験をしており、受験生のストレスとなっていると批判されていました。

[Inside HigherEd (2018.6.4)]
Dropping the SAT Essay(イエール大学)

[Washington Post] (2018.6.6)
Another big-name university drops SAT/ACT essay requirement(ダーツマス大学)

[Inside HigherEd] (2018.7.9)
Princeton and Stanford Drop SAT/ACT Writing Test

[Inside HigherEd] (2018.7.11)
Caltech Drops SAT/ACT Writing Test

[Inside HigherEd] (2018.7.12)
Brown Drops SAT/ACT Essay Requirement

[The Washington Post] (2018.7.12)
Brown University becomes latest college to drop SAT, ACT essay for applicants

[Inside HigherEd] (2018.7.16)
For Fate of SAT Writing Test, Watch California

[The Princeton Review] (2018.3.18)
It Is Time To Eliminate the SAT and ACT Optional Essays

これまでSAT/ACTのエッセイは主に上位校において要求されていたわけですが、これらエリート大学が要求をとりやめるとなると、大学適性試験であるSATやACTにおいてエッセイを受験する生徒の数が減る可能性があります。ただし、エッセイを取りやめた大学の多くは「アイビーリーグ大学」と呼ばれる私立大学が中心で、学生規模が州立大学より大幅に小さいので、残るカリフォルニア大学の9分校がエッセイをとりやめない限り、影響は限定的に留まるのかもしれません。カリフォルニア大学はSATにエッセイが導入された2005年から、エッセイを強く支持する大学であったため、今後どのような判断を示すか、注目されます。カリフォルニア大学は、一年かけて、本件を検討するとしています。まずは、エッセイと学生の学力の相関の有無が分析されるそうです。

なお米国では、少人数の学生しか受け入れない所謂「アイビーリーグ大学」に対して批判が高まっており、その税制面の優遇措置を取り消すことが、以前から検討されています。高等教育がユニバーサル段階に達し、国民の大多数が高等教育を受けるのに対して、これら大学は授業料が300~500万円と高く、ごく一握りの富裕層の学生に対して教育を提供しないため差別的であり、国の高等教育に寄与しているという観点から税制上の優遇措置を得るのは不適切という考え方です。米国では、大学数の上では州立大学と私立大学の比が3:7ですが、学生数では7:3で、州立大学が高等教育の大部分を担っています。

アイビーリーグ大学はこれに対して、Need-blind admission(出願者の経済状況(授業料の負担可能性)は考慮せずに入学の可否を判定し、入学確定後、必要に応じて奨学金や授業料免除を行う)を進めたり、大規模公開オンライン講座(MOOC)を積極的に進め、恵まれない学生にも教育の門戸を開くというポーズを取ってみたりとしていました。今回のSAT/ACTのエッセイ見送りも、これら大学が引き続き「ライティング」スキルは重視するとしていることから、エッセイの受験料等のために出願を見送る経済的に恵まれない生徒への配慮をしているというポーズを取ることが、大きな理由であると想定されます。

なおブラウン大学がSAT/ACTのエッセイ取りやめを発表した7月12日の同日、SATを批判する別のニュースも流れ、SATを運営するカレッジボードは苦しい状況に立たされています。
SATは複数回受験可能で、ただし試験ごとの難易度のバラツキを標準化するために、点数調整が行われるのですが、6月に行われた試験は極度に易しく、そのような点数調整の結果、特に点数上位の生徒達において1問のミスが大きく響く結果となったようです。「3月の試験で、数学で5問間違って760点だったのに、双子のもう一人が6月の試験で6問不正解で670点?! 一問が90点もの違いを生むのか?」「初めてSATを受けたときは26問不正解で1400点だったのに、6月に二度目に受けたときは16問不正解で1350点?!」など、生徒やその親の憤りの声がツイッターなどのSNSを駆け巡りました。カレッジボードは、点数の算出に誤りはなかったこと、試験ごとの難易度のバラツキを是正するために、こうした点数調整が必要であることなどをメッセージとして流していますが、生徒や親の怒りは納まらないようです。

こうした標準試験は、運営が難しいですね。学力の低い生徒から高い生徒まで、一つのモノサシで学力を測らなければいけないので、色々な不都合が生じます。試験は平均的な生徒に合わせるしかないので、特に上位の生徒などに影響が強く出ます。一方で、標準試験を設けることで、国民全体が共通の基礎を得るという効用も、見逃すべきではないと思います。これまでSAT/ACTのエッセイは受験生の半数以上が受けていたわけですが、今回のアイビーリーグ大学の離脱により、これらの受験生がエッセイを受験しなくなったら、おそらく高校でもエッセイの書き方指導にかける時間が大幅に減少し、長い文章をきちんと書ける人材が国内で大幅に縮小します。そうした長期的な影響も加味したアイビーリーグ大学側の判断だったのか、疑問です。

[Inside HigherEd] (2018.7.12)
An 'Easy' SAT and Terrible Scores

船守美穂