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査読する論文を全て採択とする、学術雑誌の試行

2018.07.03
オープンアクセス 学術情報流通 査読

バイオサイエンス分野のOA学術雑誌であるeLifeが、査読に回す論文は全て採択するという、ラディカルな試みをすると発表しました。論文著者に、出版プロセスに対するより大きなコントロールを与えるという目的で、300論文ほどを対象に試行するとのことです。

eLifeは現在、投稿論文のうち約30%を査読に回し、そのうちの約半数が最終的に採択となります。他方、今回の新しい方式では、投稿された論文はまず一人か複数のシニア・エディターにより吟味され、エディターの判断で査読に回すと決定したら、eLifeは当該論文が必ず出版されることにコミットしたこととなります。出版にあたっては、論文だけでなく、判断のレター、査読レポート、著者のレスポンス、それからプロセスについてのエディターからのステートメントが添えられます。

論文が出版されるか否かの最終判断は、論文著者にあります。著者は、査読プロセスなどにより重大な欠陥が見つかった場合、出版を見送ることができます。この試行は、ゲートキーパーとしての査読者(≒ライバルの研究者)の役割を取り除こうというものです。

他方、このような試行をすることにより、eLifeの論文棄却率が更に高くなるのでは、との懸念の声も上がっています。つまり、査読に回すと決定した論文はほぼ全て出版されることとなるため、エディタが査読に回す際の判断をより厳しくする可能性があります。

eLifeは、このような方式が一般化すると、学術雑誌が「学術論文の質を示す代替指標」のように扱われることを止められる可能性があると述べています。その代わりに学術雑誌は、「その分野における重要な発見と判断された成果を、クリティカルかつ透明性をもって評価できる場となる」可能性があるとしています。つまり、コメント等が公開されることで、査読者は高品質なコメントをするようになり、また著者はしっかりした対応を求められ、アカデミアにおいて、より「建設的な議論」が醸成されることが期待されています。

eLifeのエキュゼクティブ・ダイレクターのMark Pattersonは、6/26の発表からすでに一定数の論文著者が登録をしたと述べています。
「この試行は、新しいアプローチや変化を人々に試してもらい、その効果やなじみやすいかを見るために行っています。この方法は、論文著者により多くのコントロールを与えます。査読者等からの助言やコメントにどのように対応するかは、論文著者に任されています。しかし、それにより、より大きなアカウンタビリティーが生まれます。

この試行を通じて我々は、初期のエディトリアルによる判断がどのように変わるかを見たいと思っています。周りからの懸念のように、エディターがより厳しくなる可能性はあります。しかし時を経るにつれ、著者判断で論文が出版されても問題ないことが分かるなど、エディターが経験を積めば、判断はより緩やかになる可能性があります。

大事なのは、このような方式を試行できる環境を用意し、結果をみて、そこから学ぶことです」。

[Times Higher Education] (2018.6.29)
Journal trials accepting all articles it sends for peer review

eLifeは、英・ウェルカムトラスト、独・マックスプランク研究所、米ハワード・ヒューズ医学研究所(Howard Hughes Medical Institute)により、バイオサイエンス分野の一流の学術雑誌を目指して、2012年に創設されたOA学術雑誌です。閲覧がOAなだけでなく、論文投稿料(APC)も無償の雑誌として開設されました。エディターが初めのスクリーニングをしてから査読に回したり、論文記事へのコメントや返信機能をもたせたり、データなど論文の補足情報も併せて利用可能とするるなど、新しい学術発信や学術コミュニケーションのあり方を追求してきました。他方、論文投稿が伸び、年間8000投稿以上を得るようになり、2016年には2500ドルの論文投稿料が、学術雑誌維持のために導入されています。

新しい学術コミュニケーションの方法を次々と試してきたeLifeですが、投稿された論文をエディタがまずスクリーニングして品質維持してしまうことと、APCが当初無償であったことから、助成機関の学術雑誌などとも揶揄されていました。今回の、論文著者に出版の判断を委ねるというのは画期的ですが、査読者というゲートキーパーをなくしたというものの、エディタが初めのスクリーニングを行うのでは、結局同じことなのではという懸念の声には頷けます。でもこのエディタのスクリーニングも緩くなってしまったら、野放図な論文投稿・掲載になりそうですし、この試行の成り行きが興味深いです。

[Times Higher Education] (2018.9.29)
Open access journal eLife introduces author fee

[第4回SPARC Japanセミナー2012] (2012.8.23)
eLife--研究者主導の生命科学・生物医科学分野のオープンアクセスジャーナル
(マーク・パターソン)

船守美穂