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オランダの大学と商業出版社との契約額等詳細情報

各大学とエルゼビア社等商業出版社との購読料等に関する契約額は一般に公開されていません。契約書にもこれは秘匿情報として扱うことが一般に求められており、各大学もこれを大学間で共有することはしていませんでした。
これに対してオランダでは、2016年に2回にわたり情報公開請求が大学に対してなされ、これまで開示されていなかった商業出版社との契約の詳細が明らかとなってきています。

【大学別商業出版社との契約額】

1回目の情報公開請求は2016年4月末に、オランダの大学の心理学・哲学専攻の学生から、過去5年の学術ジャーナルの購読費および学術書の購買費についてなされました。

以下オランダ大学協会のウェブサイトに、商業出版社との契約額の詳細が大学別に出ています。棒グラフの赤がScienceDirect(エルゼビア)です。契約額が大学ごとに大きく異なり、5倍以上の開きがあることが示されています。
棒グラフの上にマウスを載せると、具体的な契約額が表示されます。なお、このサイトの下方に、フィンランドとイギリスについて、同様の詳細データがあります。

[オランダ大学協会(VSNU)] (2017.1)
Overview of costs incurred by universities for books and journals by publisher

【出版社別OAライセンス契約】【商業出版社別契約書】

二回目の情報公開請求は2016年9月に、元デルフト大学の図書館員で熱狂的オープンアクセス推進者であるLeo Waaijers氏から、オープンアクセスのライセンス契約の詳細ついてなされました。
以下のサイトには、商業出版社別に、契約期間やオープンアクセス(OA)の範囲、契約額、ライセンスの年ごとの上昇率が表として提示されています。また、下方には契約書の原文もリンクされています。

[オランダ大学協会(VSNU)]
Inspection of open access licenses

ただし、このような情報公開請求に対して、エルゼビア社およびシュプリンガー社は、全契約者の利益に害するとして強烈に反対し、裁判に持ち込んだため、二つ目のリンクの情報には、両社の情報が欠落しています。

[deVolkskrant] (2016.12.21)
Publishers want to block financial disclosure universities through court

【エルゼビア社とオランダの大学とのあいだのOAライセンス契約】

一方オランダではデッカー教育大臣が、2018年までに60%、2024年までに100%(後に2020年に修正)の学術論文に対するオープンアクセスを国家目標として掲げており、2015年12月に、エルゼビア社とオランダの大学とのあいだでは、この目標に沿った、オープンアクセスおよび購読費に関する合意を取り決めていました。
これは2016年から3年間有効の合意で、オランダの大学に購読費に基づくアクセスを学術雑誌に対して与えるとともに、いくつかの厳選された学術雑誌について、オランダの研究者からの論文をオープンアクセスで出版することを可能とするものです。
オランダの大学としてはこの合意を通じて、オランダの研究者による学術論文の30%を2018年までにオープンアクセス(ゴールドOA)にすることを目標としていました。

[オランダ大学協会(VSNU)](2015.12.10)
Dutch Universities and Elsevier reach agreement in principle on Open Access and subscription

この合意に基づき、具体的にどのような契約がなされるかが関心の的で、上述の契約書に関する情報公開請求もこれの開示を意図したものでした。
2016年12月段階ではエルゼビア社が裁判に持ち込んだため、契約書が公開されませんでしたが、2017年3月のエルゼビア社とオランダ大学間の公聴会において、ScienceGuide社がエルゼビア社のOAライセンスの詳細に関する情報を入手しました。

これによると、論文著者にとって魅力的とは到底言えない条件で、エルゼビア社がこのOAへの移行実験を失敗させようとしている魂胆がありありと見て取れます。
まずエルゼビア社は、(大学側はGolden Dealと呼んでいたものを)単なるPilotと位置づけ、以下2つの大きな制約を課しています。

  1. (当該論文がオランダの機関から投稿されているか否かにかかわらず)主著者がオランダの機関に所属していることが求められています。
  2. 著者が無条件でオープンアクセスで出版できる学術雑誌が限定されている上(2016年600誌、2017年1200誌、2018年1800誌)、エルゼビア社の主要雑誌、The Lancet, Journal of Financial Economics and Cellはこれに含まれていません。

2016年の対象600誌のうち、オランダからの論文が含まれるのは382誌のみで、このリストが如何にオランダの大学にとって魅力のないものであるかが分かります。

以下リンクには、そのオープンアクセスの条項に関わる契約書原文へのリンクもあります。

[Science Guide] (2017.3.23)
Leaked Elsevier contract reveals pushback

オランダではデッカー教育大臣を中心に強力にオープンアクセスを推進し、2017年2月に採択された「国家オープンサイエンス計画(Dutch National Open Science Plan)」に掲げられた、4つの大目標のなかの一番目の目標が「2020年までにフル・オープンアクセスの実現」を目標とするものです。
オランダの学術論文のオープンアクセスに向けての軌跡をオランダ大学協会がまとめた報告書を以下に挙げておきます。

Dutch National Open Science Plan(2017.2)

[オランダ大学協会(VSNU)](2016.3)
The Netherlands: paving the way for open access

オランダで2015年末にエルゼビア社とのオープンアクセスに向けての合意がなされたときは、「オランダだけはやるなぁ。やはりエルゼビア社が創立された国だけのことはある」などといった声が聞かれましたが、やはり具体の交渉となってくると、結構厳しい条件を突きつけられていたようです。
しかし外部からの情報公開請求をうまく使って、開示できなかった契約の詳細をオープンにするなど、じりじりと国家目標に向けて歩を進めていくのが見られます。

ドイツにおけるエルゼビア社の交渉についてはまた後日詳細をレポートしたいと思いますが、ドイツのProjekt-DEALの交渉においても、各大学が契約額をオープンにし、契約交渉に挑んだと聞いています。

日本の大学においても、商業出版社との全般的な取り決めはコンソーシアム(JUSTICE)で行っているものの、各大学における契約額や契約の詳細はお互い共有できないと何度か関係者から聞いていますが、一部の国ではこのように(情報公開請求等)手練手管を弄してこの情報をオープンにしていっているので、少しやり方を考えてみても良いのかもしれません。

船守美穂