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ロシア科学アカデミー院長選挙、最後の最後に転覆される

ロシア科学アカデミーでは、2013年の科学アカデミー大改革以来初の選挙を3/22に予定していましたが、その選挙の二日前の3/20に候補者3名(現院長のVladimir Fortov氏含む)が離脱し、その三日後には、現副院長であるValery Kozlovが院長として任命されました。Kozlov氏は院長選の候補ではありませんでした。
選挙二日前に離脱した二名の候補は、離脱の理由を挙げませんでした。現院長Fortov氏は、対抗相手がいないなか選挙を続けるわけにはいかないと、この二人に続いてその直後に離脱しました。
ロシア科学アカデミーは、プーチン大統領により大なたが振り下ろされており混乱しており、今回の院長選および、その過程の不透明性もその一環と理解されます。

[Nature] (2017.3.27)
Election chaos at Russian Academy of Sciences

・・・なんというか、ロシアは学術においても未だに専制支配が続いているのですね・・・。

ロシア科学アカデミーと言えば、世界でも権威ある学術機関として知られていましたが、ソ連崩壊の1990年代以降、予算が大幅に縮小し、また共産党と密接に結びつきも薄れたことが学術活動に打撃を与えていました。過去の栄光は失墜し、研究者は少ない予算を私利私欲に使うといった、腐敗した状況にありました。
2000年代に改革が試みられた時期もありましたが、傘下の400の研究機関が全てワールドクラスであるという、外部評価委員を入れないお手盛りの報告となるなど、自らの改革は難しい状況でした。政府においても、科学アカデミーにメスを入れる必要性が認識され、2012年あたりから大学改革と並行して科学アカデミー改革が計画されました。
ロシアはそれまで大学には研究機能は期待せず、研究機能は全て科学アカデミー、他方大学は職業教育機能のみが期待されていました。それもあり、世界大学ランキングでロシアの大学は300番台以降にしかなく、研究型大学の創設が必要と認識されていました。

2013年6月にプーチン大統領は、「科学アカデミーを非営利の民間団体とし、一方、アカデミーの事務機構は国立機関として残し、またアカデミー傘下の研究機関については評価・選別の上、新設される学術施設庁の管轄下に置き、研究機関長の任命権もこの学術施設庁に移す」といった大改革を、関係者への相談もなく電撃的に提案。アカデミーからの猛反発もあって内容が多少は緩められたものの、同年9月には修正案が承認されました。
修正案において、科学アカデミーは非営利機関になることは真逃れたものの、傘下にある改革後833の研究機関は新設の学術機関庁に移され、研究機関長の任命権も学術機関庁にあることとなりました。改革前にあった予算900億ルーブルが、改革後はアカデミー側は60億ルーブル、これに対して学術機関庁は1200億ルーブルで、科学アカデミーがどれだけ骨抜きになったかが実感できます。
なお近代的な大学の建設については、これまで学問分野別に8000人規模の単科大学が主流であったものを数万人規模の総合大学へと統廃合し、また研究機能については科学アカデミーの力を借りるとしています。

ロシア科学アカデミーの院長は、1724年の創設以来、5万人規模のアカデミーで会員による選挙で選ばれていましたが、2013年の改革でこれが一時期なくなり、今回の2017年の選挙は改革以来初めての選挙となるはずでしたが、内情は誰にも分からない政治劇により、今回も院長が選挙で選ばれることはありませんでした。
ロシア科学アカデミーの混乱はまだ続く模様です。

・・・ロシアについては日本ではあまり情報が入らないので十分に認識していませんでしたが、気がついたら大変なことになっていたのですね・・・。
しかしアカデミーの機能不全については、アカデミーの研究員も自らよく認識するところで、改革の必要性は内部的にも実感されているようです。しかしトップダウンでメスが入ると、つい反発というかたちでしか反応することができず、自らの改革もできない一方で、トップダウン改革もうまくいかないという、にっちもさっちもいかない状態の模様です。

それにしても、トップダウンで大改革が進められてしまうのは、米国のトランプ大統領による今回の予算案も同様でしょうか。
その意味では、ロシアの方は、成功するか否かは別として、国際競争力を研究大学の創設とアカデミー改革により実現しようとしており、前向きであるのに対して、米国の方は確実に学術否定を意識した予算案ですから、その意味ではロシアの方がたちが良いのかもしれません・・・?

[Nature] (2013.7.3)
Russian roulette - Reforms without consultation will destroy the Russian Academy of Sciences

『留学交流』2016年6月号Vol.63
遠藤忠「ロシア連邦における学術体制改革―研究体制改革から高等教育改革へ」

船守美穂