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フランスへの英国大学誘致計画 ― オックスフォード大学は乗らず

2017.02.22

パリ・セーヌ川沿いの大学連合(ComUE)であるUniversity Paris Seineが、建物が2016年におかれたばかりのセルジー=ポントワーズにあるParis Seine International Campusについて、英国の大学に参加を呼びかけました。
関心表明は7月14日〆切で、採択大学は来年発表となる予定です。
Call for Proposals: Paris Seine International Campus - Build beyond borders!(公募)

International Campusは2013年に構想が着想されつつありましたが、Brexitを受けて、まず英国の大学に誘致を呼びかけるのが良いという判断となりました。
地理的な近接性、EUの資金や人材交流プログラム等への共同参画の可能性などから、win-winの関係になるとフランス関係者は主張しています。同時に、フランスについては、かねてから課題となっている大学の国際化について、国際的な人材を多く惹きつける英国大学の力を、これを機に借りたいという思惑があります。

フランスは、英国の主要大学を訪問し、呼びかけをしており、ウォーウィック大学は関心を示し、話し合いが開始されている模様です。
一方、CNBCが取材したケンブリッジ大学およびマンチェスター大学は、現段階ではフランスに展開する計画はないと答えています。
フランスからの使節団がオックスフォード大学を訪問した直後に、「セーヌ川沿いのオックスオード? 'Oxford-sur-Seine'」という報道が流れましたが、オックスフォード大学はこれを公式に否定しました。

[Times Higher Education] (2017.2.16)
Brexit: UK universities invited to set up in France

[BFM TV] (2017.2.20)
Un campus d'Oxford à Paris? L'université dement

[CNBC] (2017.2.20)
Non, merci! Oxford University shuns plans for a French campus


Brexitは色々な新たな大学の取り組みを生み出しているようですね。しかし英仏の歴史的な競争関係を考えると、本当にこんなので英国の大学が乗ってくるのか・・・?という気もします。Brexitが英国の大学にどの程度打撃を与えるかで、この誘致計画や他の試みの行く末が決まると思われます。

ちなみにComUE (communautés d'universités et établissements)というのは、2013年に高等教育研究法の法改正により開始した、フランスにおける大学連合の仕組みです。その前にPôle de Recherche et d'Enseignement Supérieur (PRES) というのが試行されています。
歴史的経緯としては、フランスの大学は総合大学であったのが1968年のフォール法により、大学が学問分野別に解体されました。パリであれば、パリ第1から第13大学までありますが、これらはもともと一つの大学であったものが学部別に分かれたようなかたちとなっています。 一方、世界大学ランキングが2004年から発表されるようになりましたが、これでみるとフランスの大学は全くふるわない・・・!これは一つにはエリートを対象とした専門職の人材養成機関であるグランゼコールが高等教育機関としてカウントしないこと、そしてフランスの大学が学問分野別に細分化され、小規模すぎることが問題であると認識され、PRES、そして後のComUEの制度創設に至りました。
今回の誘致計画を呼びかけているUniversity Paris Seineというのも、大学やグランゼコール、研究機関などの15高等教育機関の連合体です。 しかし、私もPRESはインタビューしたことがあるのですが、この大学連合は基本的にゆるやかなネットワーク程度のものなので、どの程度効力があるのかは微妙です。(と、フランス関係者も以下リンクによると認識しているようです)。

"These are highly unstable structures," he said. "The membership changes regularly. Some in the French government thought that by declaring that these structures were universities, they would be universities. I don't think it's helping the system if you accept them as universities.
"When you've got a single legal entity, this is what you consider a university. If you've got a lot of legal entities, which themselves are subsumed within a larger legal entity, this does not have any legal authority over the constituent legal entities; [the result is] a university system."
https://www.timeshighereducation.com/news/higher-education-in-france-is-the-comue-a-blueprint-for-success

またフランスの大学は言語の面で壁があり、基本的に留学生もフランス語圏(つまりアフリカ)からがメインです。英語嫌いの国民性がよく知られている一方で、大学執行部にインタビューすると、講義を英語にしなくては!と言うだけは言っていますが、なかなか進まないようです。
大学執行部としてはBrexitに便乗して大学の国際化を進めたいのでしょうけど、うまくいくでしょうか?

またオックスフォード大学とケンブリッジ大学は以前から、カレッジでの寮生活+チュートリアル(大学における講義とは別に、カレッジでチューターによる個別指導が得られる)による教育にとても重きを置いていて、海外分校等はありえないと言い続けてきており、現段階では、Brexit後もそれを踏襲する意向のようです。
マンチェスター大学はこれに対してもう少し色気があり、そのビジネススクールは世界各国に展開されています。

船守美穂