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欧州各国高等教育システムの動向(2008〜2016)

欧州大学協会(EUA)から、"EUA Public Funding Observatory 2016" レポートが公表されたので、以下に要旨の簡易訳を付します。
なおこのレポートは基本的に毎年公表されており、2008年から最新までの全体トレンドと、喫緊1年のトレンドとを分析し、報じています。


[KEY FINDINGS AND MESSAGES]

高等教育への公的投資の評価は年々複雑になっており、インフレ率、入学者数、経済発展、インフラの整備状況などを考慮に入れなければいけない状況となっている。金融危機から10年が経過しているが、欧州の高等教育は未だその影響を受けている。

(全体トレンド)

  • ○ 2008〜2015年の間に欧州11カ国の高等教育システムへの公的投資は拡大した。しかし、内6カ国については、学生数が公的投資以上に急速に拡大した。
    • ◎ ノルウェーとスウェーデンは、学生数の拡大以上に公的投資が拡大した。(frontrunners)
    • ◎ オーストリア、ベルギー(フラマン語地方)、デンマーク、フランス、ドイツ、オランダ、トルコは、学生数拡大に対して公的投資が追いついていない。(growing systems under pressure)
    • ◎ ポルトガル、ポーランドは例外国である。(公的投資は拡大傾向にあるが、ポルトガルは2008年以前から、公的投資が他国より低い)
  • ○ 欧州13カ国については、高等教育システムへの公的投資が縮小した。そのうち7カ国については、学生数が拡大した。また6カ国については、学生数の縮小以上に公的投資が縮小した。
    • ◎ クロアチア、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、スペイン、トルコ、イギリスは、学生数は拡大しているにもかかわらず、公的投資が縮小した。(systems in danger)
    • ◎ チェコ、ハンガリー、イタリア、ラトビア、リトアニア、スロバキアは、学生数縮小以上に公的投資が縮小した。(declining systems under pressure)
  • ○ 公的投資の状況は国ごとに大きく異なり、また長期的にも短期的にも変動が大きい。
  • ○ 国ごとの格差は拡大し続けている。

(近年のインパクト)

  • ○ 公的投資で最も影響を受けているのは、教育面と、資本/インフラ投資である。
  • ○ 公的投資縮小の影響は、スタッフの雇用条件(レイオフ、交代人員雇用の制限、給与削減)において、多くの国に現れた。研究面の投資への影響は少ないが、GDP3%というEUの目標は達成されていない。
  • ○ 2016年、6カ国が、授業料においてEU学生と非EU学生とを区別する意図を表明した。
  • ○ 拡大しつつあるパフォーマンス・ベースの公的投資枠組みにより、各国高等教育において競争的資金獲得への圧力が高まっている。
  • ○ 多くの国において、得ている資源に対して、より高い効率性が求められるようになっている。
  • ○ 公的投資を縮小した国は、EU資金を獲得することを大学に求めているが、このEU資金自体が危ぶまれている。
  • ○ EU資金は採択率が年々縮小しており(Horizon2020の初めの100の公募において採択率は14%)、これへの応募自体が、各国においてコスト増につながっている。

※なお原著では、"system" という言葉が多く使われていますが、本訳では「国」と訳しました。 (原著で "system" としているのは、ベルギーがフラマン語地方とフランス語地方とで分かれている等の事情があるためです)

EUA Public Funding Observatory 2016


イギリス高等教育における公的投資が大幅に削減されているという話は折に触れて耳にするのですが、その他の欧州諸国においては高等教育が社会資本と見なされて、授業料もほぼ無償で、比較的安定していると思っていたので、このレポートは少し意外でした。イギリス以外の国でも、レイオフや、パフォーマンス・ベースの公的投資、非EU学生への授業料の差別化がなされつつあるのですね。

パフォーマンス・ベースの公的投資については、効率化指標だけでなくアウトプット指標がより用いられるようになり、たとえばデンマークやスロベニアにおいては、卒業生の就職率やエンプロイヤビリティー等が指標となっているようです。
非EU学生への授業料については、フィンランドが他の北欧諸国に倣い、博士課程学生以外の、英語による学士課程および修士課程について最低1500ユーロを課金するようです。ベルギー・フランス語地方では、非EU学生の授業料を現在の最高4175ユーロから最高12525ユーロにする予定で、これはこれは835ユーロであるEU学生授業料の15倍です。スイスにおいても、非EU学生の授業料差別化の議論が進んでいるようです。
公的投資を学生数増減と比較しているのも、なるほどと思いました。

船守美穂