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InvenioRDM WorkshopとFAIR Digital Object Summit 2024の参加報告

2024.04.19

InvenioRDM Workshop

■ はじめに

2024年3月18〜22日にドイツ・ミュンスターで InvenioRDM Workshop が開催されました。欧州、北米などを中心とした15 機関、全46 名が参加しました。日本からはNIIから二名(林、谷藤)の現地参加でした。


■ InvenioRDM とは

InvenioRDMは欧州原子核研究機構(CERN)が中心となり開発を進めているオープンソースのリポジトリソフトウェアで、同じくCERNが開発しているInvenio Framework と Zenodo をベースにしています。現在のInvneioコミュニティの中心はInvenioRDMにあります。 RCOSが開発を進めるWEKO3もInvenio Frameworkを利用して開発されているので、InvenioRDMとWEKO3は兄弟、ライバルのような関係となります。


■ InvenioRDM Workshop の様子

Workshop の初日は Invenio に関する各機関の現状がプレゼンテーション形式で共有されました。プレゼンテーションは2部構成で 「InvenioRDM usage and ideas for features 」 をテーマに 5 本の発表、 「Implementations of InvenioRDM 」 をテーマに 6 本の発表がありました。私は、後半の部で Invenio を利用したリポジトリソフトウェア WEKO3 、サービスとしての JAIRO Cloud の移行と現状を発表しました。特に移行については、規模を考えると信じられない速さだと、驚きを持って聞いてもらえたことが印象的でした。  2日目は、事前に登録があったテーマに対して投票を行い、議論するテーマを決定、2~3のグループに分かれて議論しました。私が参加したテーマで特に興味深かったのは 「Community engagement and handling pull requests」 です。このテーマでは、 InvenioRDM へのプルリクを如何に効率的に処理していくか、そのために開発コミュニティができることは何かを議論しました。少人数での議論だったので、発言するにもかなり緊張しましたが、WEKO3の開発で悩んでいることと同じようなテーマであったこともあり、実感をもって参加することができました。

InvenioRDM Workshop は、小規模だが熱力のある会議でした。久々にCERNメンバーとも会うことができ、有意義な時間が過ごせました。InvenioRDMについては、NIIとしてのかかわり方も含めて、今後も継続して関わって行きたいと思います。

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(林 正治)

FAIR Digital Object Summit 2024

■ はじめに

2024年3月20〜21日にドイツ・ベルリンでInternational FAIR Digital Objects Implementation Summit 2024が開催されました。FDOと略した冠で、今年3回目の開催となります。前回は2022年10月。日本からはNIIから2名(林、谷藤)の現地参加でした。25のパートナー機関が協力し、現地参加は100名限定、以外はオンライン参加という運営で開催されました。


■ FAIR Digital Objects(FDO)とは

異なる専門分野の研究者や社会のステークホルダーが協力し、それぞれの知識や経験を融合させて、新しい知識を創出し、実行可能で効果的な解決策を考案するプロセスを意味するFDO。オープンサイエンスの歴史では、比較的近年に始まった取り組みです[1, 2]。FDOの定義は、データが発見可能であること(F)、アクセス可能であること(A)、相互運用可能であること(I)、再利用可能であること(R)という今日のオープンサイエンスのFAIR理念を活動の基本としています。研究者、政策立案者、技術者がFDOについて協力するための中立的な空間を確立することを目指して組織されており、その点は学会よりも政策の色合いが濃く、しかし開発者目線の実現性や課題提案もあり、コンパクトな規模で、今日のFAIR状況が分かる場としてユニークな会議と言えます。またアカデミアと産業が同じ度合いで関与する組織という点で、Research Data Alliance (RDA)やCoDATAと参加者は共通する部分があるが主旨が異なり、また研究基盤系、オープンリポジトリ関連の会議と同じテーマが多いが、切り口が異なるニッチなところに位置し、研究データ流通の国際アドボカシーに意欲的な印象を受けました。

多彩な発表が2日間あり、自分たちの発表と近いこともあって、特に興味深かったのは、ドイツTIBのmachine-actionable scientific knowledge as FAIR Digital Objects(公開論文をソースとする科学知識の抽出自動化)です。オープンアクセス化が進み、公開される論文量が増えていますが、多くがカタログ情報に留まり、そこから新たな知的な情報として取り出して公共サービスとして仕上げるまでには多くの難関があります。その一部を自動化した、という試験的な取り組みです。このほか、Gitと連結するリポジトリシステム設計や、RO-Crateの応用、Ontologyフレームワークの事例紹介もありました。欧州EOSCの研究成果、開発の進捗状況を理解する場として、またオンラインでは欧州の他地域からのケーススタディの発表があり、大変に勉強になりました[3]。世界のあちこちでオープンサイエンスに関する国際会議が開催されますが、それらから得られる進歩状況や、進展するからこそ明らかになる課題、技術的挑戦や産学官協調の歩みを、定点観測できる場があるといいなぁと思っていた参加の動機には、このFDO会議は合っていました。日本からの発表、聴講の参加が続くと良いと思います。次回は北米で来年開催の予定とのことです。

最後に、FDOの定義を生成系AIに与え、私たちの道標となるソネットを披露する余興がありました。英語、ドイツ語、イタリア語、フランス語、日本語等、母国語が異なる参加者が楽しんだ仕上がりだったため(会場では大きな歓声と拍手がありました)、この後に発刊される会議プロシーディングスに収録されるとのことです。参加者の一人として後日、同じ教師データを使って和訳を生成してもらい静かに楽しんでいます(非公開)。ご関心ある方はご連絡ください。

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ベルリン自然史博物館での開催

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同博物館ですすむデジタル化プロジェクト。
所蔵試料がベルトコンベアーで運ばれ、複数のスキャン装置で3Dデジタル化される

参考文献:

  1. 1. デジタルオブジェクトの事例報告について:Wittenburg, P. et al. (2022). FAIR Digital Object Demonstrators 2021
  2. 2. 実験ワークフローにおけるデジタルオブジェクトからの考察:Dirk Betz, et al: Canonical workflow for Experimental Research, 2022, Data Intelligence
  3. 3. 会議発表資料


(谷藤幹子)