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Data Spaces Symposium 2024報告

2024.04.12

■ はじめに

2024年3月12〜14日にドイツ・ダルムシュタットでData Spaces Symposium 2024が開催されました。NIIからは相沢が現地参加しましたので、報告させていただきます。


■ Data Spacesとは

本シンポジウムは、欧州発の新しいデータ共有の考え方である「データスペース(Data Spaces)」に関する国際的なイベントです。データスペースの標準化や普及を推進するData Spaces Business AllianceとData Spaces Support Centreがホストとなり、今回が2回目の開催となります。

データスペースという言葉自体、聞き慣れない方も多いと思います。「データスペース」は元々、カリフォルニア大学バークレー校のMichael Franklin教授らが2005年に発表した論文 "From Databases to Dataspaces: A New Abstraction for Information Management" の中で提唱された、異種システム間における多様なデータの共有方式を指していました。この概念に着目したドイツのFraunhofer研究所は2015年、データスペースを産業競争力強化とイノベーション創出のための新しいデジタルプラットフォームとして社会実装するための研究プロジェクトを開始しました。以来、データスペースは、EU全体の非個人データの流通基盤として、産学官の垣根を越えて盛んに議論が行われています。
日本においても、経済産業省や情報処理推進機構(IPA)、一般社団法人データ社会推進協議会などで、日本版データスペースの構築に向けた取り組みが進められています。

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■ シンポジウムの様子

ダルムシュタット工科大学の道向かいにある会場は、欧州各国から訪れた多くの参加者で賑わっていました。相沢が確認した限り、日本からは企業・大学関係者が10名、日本企業の欧州支社から2名、12名の日本人が参加していました。日本は欧州に次いでデータスペースの社会実装に取り組んでいることから、非欧州系では最も多い参加者数であるように見受けられました

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シンポジウムでは3日間に渡り、データスペースを推進する主要4団体(International Data Space Association, gaia-x, FIWARE Foundation, Big Data Value Association)による40以上のパラレルセッションが催されました。技術的な話題は少なめで、欧州内で行われている各分野、地域、団体のデータスペース構築プロジェクトを総覧的に紹介するような内容のセッションが多かった印象です。

相沢はInternational Data Space Association(IDSA)のセッションを中心に参加しました。特に印象的だったのが、学術界の参画状況でした。データスペースの世界的な普及状況を紹介するセッション「From Europe to the world - flourishing data spaces」において、IDSAと国際的なパートナーシップ協定を結んだ組織や機関の紹介がありました。その中には、昨年IDSAとJapan Hubを共同設立した東京大学なども紹介されておりましたが、特に注目すべき機関として、European Grid Infrastructure Foundation(EGI)とAustralian Research Data Commons(ARDC)がありました。EGIは欧州の研究者がHPCや計算リソースにアクセスするための研究インフラを提供している機関で、本日誌でも以前紹介したEuropean Open Science Cloud(EOSC)をメンバーとして技術支援する役割も担っています。EGIはIDSAとの協定の他に、本シンポジウムでのブース出展やデータスペース構築のためのOSS(EGI DataHub Connector)を開発するなど、積極的な取り組みを行なっていることが今回のイベントで判明しました。ARDCは、RCOSが2018年から毎年参加しているeResearch Australiaを主催するAustralian eResearch Organisation(AeRO)のメンバーであり、豪州の研究データ基盤構築の推進役として注目している機関です。
これらの機関がデータスペースの概念やアーキテクチャをどのように研究データ管理の分野に持ち込もうとしているか、今後とも注視していきたいと思います。

(相沢 啓文)