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JAPAN OPEN SCIENCE SUMMIT 2021開催報告

今年第3回を数えるオープンサイエンスをテーマとした日本最大のカンファレンス「ジャパン・オープンサイエンス・サミット2021(JOSS2021)」* は、本年、はじめてのオンライン形式で開催されました。2021年6月14日(月)〜 18日(金)の5日間にわたる催しには、多くの事前参加登録をいただき、盛況のうちに無事終了することができましたことを、篤く御礼申し上げます。

* 主催:国立情報学研究所、科学技術振興機構、物質・材料研究機構、科学技術・学術政策研究所、情報通信研究機構、学術資源リポジトリ協議会

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さて、このたびはRCOSの5名のメンバーから、それぞれが参加したセッションについて報告いたします。

E1: 研究データ公開その後:データの利活用状況をどう把握するか?

本セッションは開幕トップバッターのセッションということもあり、公開されたデータの利活用の実態を幅広い視点から論ずる場となりました。

はじめに国立環境研究所の白井知子氏から、セッションを主宰する研究データ利活用協議会・Research Data Citation小委員会の説明と活動と趣旨説明がありました。その上で、北本朝展氏(国立情報学研究所 ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター)から「Mahalo project」について説明がありました。このプロジェクトでは、データ利用者がデータ作成者に感謝の意をシステム的に伝えられる「Mahaloボタン」を設置し、SNSにおける「いいね」ボタンのように研究データの利活用実績とインパクトを測るための新たな指標が提案されました。国立研究開発法人海洋研究開発機構の福田和代氏からは、地球科学分野におけるデータ引用状況把握について、Google ScholarのアラートやGoogle Dataset search、CrossRefのEvent Data APIを利用した実践的な調査報告がありました。さらにこの結果にもとづいてDOIメタデータの関連情報を登録し、これがCiNii Research等で文献とデータの関連性が明確化されて、さらなるデータの利用促進につなげる取り組みをされているとのことでした。

最後に私から、担当しているCiNii Researchの内部データの統合化の取り組みについて説明をおこないました。そして、今後もFAIRデータ原則で提案される形での研究データ公開と、内部データの名寄せや識別子を用いた統合が、公開データの価値を最大化するために重要であると強調しました。この後、能勢雅仁氏(名古屋大学)、池内有為氏(文教大学)、八塚茂氏(科学技術振興機構)を交えてパネルディスカッションが開催され、データの利活用情報把握のために重要となる点や、現場の意識のあるべき姿について討論を実施しました。本セッションには約200名が聴講登録し、質疑においても多くの質問が寄せられ、研究データ公開への関心の高さが確認できました。一方、データ公開の現場では利活用の実績をキャッチするために、試行錯誤を繰り返さざるを得ない現状も見え、引き続き議論が必要と感じました。

(大波 純一)

G1: 教育学におけるオープンサイエンス

教育ビッグデータを活用した教育改善や意思決定は、今後ますます重要な役割を果たすと考えられていますが、教育の分野においては、研究成果や資料の公開・共有を含むオープンサイエンスに関連する取り組みは、まだ十分に行われていません。そこで「教育学におけるオープンサイエンス」のセッションでは、教育学におけるオープンサイエンスについての現状と課題について焦点を当てました。

はじめに、中村大輝先生(広島大学大学院)、雲財寛先生(日本体育大学)が、教科教育分野における再現性の危機問題に対する取り組みとして、研究方法・データ・分析コードを公開するオープンサイエンスの取り組みの事例を紹介されました。次に、草薙邦広先生(県立広島大学)が、外国語教育を題材としながら、経験サンプリングにより得られるデータの集積管理、自動分析、そして動的な可視化とレポート作成といった一連の情報処理技術が、いかに市民科学、そしてオープンサイエンスとしての教育学を発展させうるかについて展望を述べられました。最後に、古川よりラーニングアナリティクス(LA)分野におけるオープンサイエンスの動向や、オープンサイエンスの人材育成におけるラーニングアナリティクスの可能性について述べさせていただきました。

なお、講演資料は、本セッション企画・総括の石井雄隆先生(千葉大学)のブログで公開いただいています。どうぞご参照ください。
教育学におけるオープンサイエンスの資料

(古川 雅子)

G2: オープンサイエンスの推進、社会との接点に注目して

本セッションは、昨年企画しながら、セッション担当の開催形式の準備不足などで、年を越しての開催となったものです。オープンデータの先にどのような利活用やアウトカムが期待できるのかという関心から「社会との接点」に注目し、科学技術振興機構研究開発戦略センターの小山田和仁フェロー、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構・学際情報学府の横山広美教授によるご講演と、登壇者によるパネルディスカッションを実施いたしました。

まず近年の発達したICTを背景とするオープンサイエンスの進展以前から、学術における組織と社会をつなぐ活動として行われてきた学術広報を例に、池谷より話題提供と本セッションの概要を説明いたしました。次に「変革型科学技術イノベーション政策へのオープンサイエンスの影響」と題した小山田フェローの講演では、科学技術イノベーション(STI)政策における国内外の事例を具体的にご紹介いただきました。豊富な事例から、 市民とSTIのかかわり、政策担当者と研究者の協働・コミュニケーションなどの具体的な接点が示されました。続いて「科学技術社会論から見たクラウドファンディング」と題した横山教授の講演では、科学技術社会論(STS)、すなわち科学技術と社会の接点を考える側からのオープンサイエンスという視点から、クラウドファンディングという接点に注目した最近の研究成果をご紹介いただきました。

セッション最後のパネルディスカッションでは、オープンサイエンスという大きなテーマの下で、ご講演の中でお示しいただいた諸点がどのようにつながっていくのかを探索する議論となりました。なかでもオープンサイエンスがその進展に伴ってより多様な学術「外」との関係性を構築していくために起こるコミュニケーション、そしてそのような新しい関係性が引き起こす「内」の変革といった課題は、今回取り上げた広報、市民科学、資金調達のみならず、研究評価等のIR、産学官連携などの部門にも共通点があるものと考えられます。100名超の参加登録をいただいた本セッションでは、この議論が幅広い方々にご参考になることを祈念し、盛況のうちに閉会しました。

(池谷 瑠絵)

D1: 研究データインフラ技術者&研究者座談会

私、国立情報学研究所(NII)の込山が座長を担当したセッションは、JOSSでは数少ない研究データ基盤、データプラットフォームの研究・技術開発に焦点を当てたセッションでした。研究機関毎に研究データ基盤やプラットフォームのフェーズが設計・開発・運用とそれぞれ異なっていましたので、フェーズ毎の観点で研究データインフラに関わられている参加者の参考になるのではないかと考えて企画しました。登壇者として理化学研究所(理研)、東京大学mdx(東大mdx)、物質・材料研究機構(NIMS)から講師の先生方をお招きし、NIIからは私が発表させていただきました。

同じ研究データマネージメント(RDM)サービスでも、汎用的な全国の学術機関向けと、研究機関内のデータガバナンスのための研究データ管理では設計・構築の状況が異なります。込山からは『先進的な研究データ管理のためのRDMサービスのシステム設計』としてGakuNin RDMのソフトウェア設計や運用システムの技術紹介、理研の實本英之先生からは『理研におけるGakuNin RDMを用いた研究データ管理』として理研で開発中のGakuNin RDMベースのサービスの紹介をいただきました。

また、研究機関連携でのデータ収集・解析から分野融合での利活用を目指した基盤と、専門分野での特定の目的から構築されたデータ収集・解析のシステムでも成り立ちが異なる点の比較として、東大mdxの中村遼先生から『mdx: 大学・研究機関連携で作るデータ活用のための新しい学術情報基盤』として、SINETを活用したデータ活用社会創成プラットフォームmdxの開発の中での、最先端の仮想ネットワーク技術をご紹介いただきました。NIMSの松波成行先生からは『マテリアル計測・プロセスのためのデータ設計およびデータ構造化』として、IoTセキュリティデバイスを通じ実験装置のデータを収集し、データ解析の基盤と連携する上では、前処理のプロセスも重要になると、マテリアル分野の実例を交えてお話いただきました。

セッションを通じて4機関の登壇者から参加者に向けて、研究データインフラの開発の背景や設計思想を情報共有し、その差や共通点について議論いたしました。事前申込みは115名を超えリアルよりも盛況なオンラインシンポジウムとなり、限られた時間でしたが、チャットでも7件のご質問をいただくなど、活発な議論ができたのではないかと思います。座長としては研究データインフラの技術者・研究者のコミュニティを広げて、次年度も技術セッションを開催できるように活動していきたいと考えています。

(込山 悠介)

E7: FAIRなデータキュレーションの実践

本セッションでは、様々な分野での研究データ共有や公開、再利用を促進するためのデータキュレーションに焦点を当てました。適切なデータキュレーションはオープンサイエンスを推進するための鍵となりますが、一方で、データ再利用に必要な情報の種類は分野によって異なり、さらにキュレーションの実施レベルにも差があることが推察されます。

この問題をより深く理解するため、本セッションではFAIR原則を題材に、データキュレーションの実践に焦点を当てて議論を行いました。まず川村隆浩氏(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)及び三輪哲氏(東京大学社会科学研究所)から、農業分野、社会科学分野におけるデータキュレーションの実際について、自機関での実践をご紹介いただきました。信定知江氏(JST バイオサイエンスデータベースセンター)からは、デジタルリソースのFAIR度を測定する国際的な取り組みとして、FAIR evaluationの動向とその実際をご紹介いただきました。大波純一氏(国立情報学研究所)からは、FAIR原則の実現に向けて検索基盤が果たす機能につき、CiNii Researchでの実践をご紹介いただきました。小賀坂康志氏(国立研究開発法人 科学技術振興機構)からは、関連セッション報告として同日午前中に開催されたフォーラム "E6: CHORUSフォーラム - 研究ワークフローにおけるFAIRデータ(ファンディングから論文出版まで)" での議論をご紹介いただきました。

ディスカッションでは、研究者に対するアプローチとして、データキュレーションの業績化やメリットの可視化、自動化による負担削減といった観点のほか、次世代の教育としてのキュレーションの価値などの視点が示されました。また、データのFAIR化推進の観点から、学協会やジャーナルポリシーの影響、オープンに出来る部分とクローズにすべき部分の切り分け、FAIR度の測定を何らかの評価に結び付けて問題ないのか、といった点にも話題が及び、様々な分野での利活用を想定したデータキュレーションの重要性と課題が改めて浮き彫りになりました。

会期最終日にも関わらず、セッションには120名超の方々にご参加いただきました。すぐに何らかの回答が出るテーマではありませんが、今後も様々な関係者間での対話を続けていくことで、分野を超えたデータの利活用を推進する文化が培われていくことを期待しています。なお、資料は近日中にJOSSウェブサイトから公開される予定です。

(南山 泰之)