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オックスフォード大学、Huawei社からの新たな寄付等の受入れを取りやめ
オックスフォード大学は、中国の巨大通信メーカーHuawei社からの新たな寄付やスポンサーシップ受入れを取りやめると発表しました。同社の製造する機器はスパイ活動に用いられる可能性がある、と米国やその他の諸国は訴えています。Huawei社は、そのようなスパイのリスクはない、と疑惑を否定しています。米国は、同社を米国ビジネスの企業秘密を盗んだことの容疑で調査しており、また同社がイランにおけるビジネスについて虚偽の証言をすることにより、同国への国際的な制裁措置に違反したと訴えています。
オックスフォード大学は、Huawei社と「新たな資金受入機会を現時点では追求しない」と1/8に決定しました。「Huawei社には、この決定を連絡しました。大学としては、本件を引き続き検討します。この決定は、研究契約の資金提供とフィランソロピーの寄付の双方に適用されます」。「この決定は、英国とHuawei社との関係に対する、ここ数ヶ月の社会の懸念を念頭になされました」。大学当局は、この問題が早い段階で解決することに期待していると付け加えました。
将来、なんらかの制限を英国政府がこの巨大通信に対して設ける可能性を懸念しての大学の判断であるとBBCは理解しています。
Huawei社からすでに資金提供を得ている、もしくは研究するとコミットしてある既存の研究契約については継続する、とオックスフォード大学は付け加えました。「現在、そのようなプロジェクトが2つあります。計69.2万ポンド(約1億円)の資金提供をHuawei社から得ています。両プロジェクトは、このような不確実な状況が生まれる前に、大学の通常の手続きのもとで承認されました」。
Huawei社のスポークスマンは、「オックスフォード大学のそのような判断については、まだ聞いていない」と述べました。
BBCテクノロジー担当Mark Ward氏の分析
Huawei社にとって悪いニュースが蓄積されつつあります。カナダとポーランドにおけるHuawei社員の逮捕は、企業秘密を盗んだという嫌疑に基づきます。同社はこれを否定しています。この逮捕に続き、米国5Gモバイルネットワークにおける同社の展開に制約がかかってきています。オーストラリアとニュージーランドは、これに続いています。英国では、同社のキットの一部がBTネットワークから外されました。ドイツでも早晩、同様の禁止令が敷かれそうです。
各国における禁止令を除くと、同社のビジネスはうまくいっています。2018年には2億台ものハンドセットを輸出しました。これはサムスン社に次いで二位です。
Huawei社抜きの5Gは、本来なりえたはずのものの影にしかならない。スター抜きのNBAと同じだ、と同社は警告しています。
それでも、一部の政府にとってその程度は受け入れる価値のある不利益であるようです。
英国に1500名ほどの社員のいるHuawei社は、複数の大学と共同研究を行っています。そのなかには、オックスフォード大学だけでなく、ケンブリッジ大学、カーディフ大学、エジンバラ大学、インペリアルカレッジロンドン、マンチェスター大学、そしてヨーク大学が含まれます。
同社は、Surrey大学5G Innovation Centreに対して750万ポンド(約11億円)の寄付、ケンブリッジ大学Computer Laboratoryに対して100万ポンド(1.4億円)以上の寄付を行いました。
[BBC] (2019.1.17)
Oxford University suspends Huawei donations and sponsorships
販売している通信機器を通じてスパイをする可能性に関するHuawei社への疑惑により、国家安全保障上の圧力が働いて、大学までがHuawei社との関係を断ち切ろうとしているわけですね。このオックスフォード大学の報道の2週間後には、UCバークレー校およびテキサス大学オースティン校も同様の判断をしています。Huawei社は、UCバークレー校には5本の共同研究を通して780万ドルを提供していた模様です。
ちなみにHuawei社は2017年には900億元(約1.5兆円)を研究開発に使っており、そのなかには大学との共同研究も含まれます。以下のNatureの記事にはHuawei関係者を著者に含む論文数の推移グラフがあるのですが、2016年を境に急に伸び、2015年には年間60本程度だったのが2018年には650本にまで拡大しています。
[Nature] (2019.2.1)
UC Berkeley bans new research funding from Huawei
中国に対するスパイ疑惑は、Huawei社やその他の中国関係機関との研究面の連携に留まりません。中国語普及活動をする孔子学院もスパイの嫌疑をかけられ、近年、米国において多数閉鎖されつつあります。
孔子学院は、中国語や中国文化の普及のために中国政府が各国に展開する教育施設です。英・ブリティッシュ・カウンシルや独・ゲーテ・インスティトゥート、仏・アテネ・フランセが展開先の国において独立した機関として運営されるのに対して、孔子学院は現地の大学の協力を得て、同大学の一部局として設置され、運営されているところに特徴があります。教員や教材などは中国本国から送り込まれ、中国政府の検閲を経た教育内容が提供されるため、大学の学問の自由の侵害という見方が、2004年の孔子学院の展開開始時から、米国大学にはありました。米国大学教授協会(American Association of University Professors, AAUP)は2014年6月に米国大学に対して注意勧告をしています。
これら孔子学院に対する批判はもっぱら大学教員等アカデミアにより展開されていましたが、ここ1~2年はワシントンDCを中心とする政治的局面に議論が移っています。連邦捜査局(FBI)は米国上院にて2018年2月、孔子学院に関わる懸念について指摘を行い、上院にてこの問題が取り上げられるようになりました。共和党議員のMarco Rubio氏(フロリダ州)とTed Cruz氏(テキサス州)がこの問題の急先鋒にたっていますが、民主党も孔子学院を問題視しています。国防総省の毎年の予算を規定する国防権限法(National Defense Authorization Act)には2018年8月、孔子学院を擁する大学に対して国防総省が中国語教育プログラムの助成をすることを禁じる条項が盛り込まれました。
このようなワシントンからの圧力により、フロリダ州では北、西、南フロリダ大学の3校、アイオワ大学、ミシガン大学アンアーバ-校、ミネソタ大学ツインシティ校、ノースカロライナ州立大学が孔子学院の閉鎖を発表しています。タフツ大学も今年6月が孔子学院との契約更新時期に当たるため、学内委員会にて本件を検討し始めています。なお2017年以前の孔子学院の閉鎖としては、イリノイ大学アーバナシャンペーン校(2017)、ペンシルバニア州立大学(2014)、シカゴ大学(2014)、オンタリオ州のMcMaster大学(2013)などがあります。
孔子学院の閉鎖については、貴重な中国語リソースを失うことを残念がる声、中国政府の影響を懸念して閉鎖を妥当とする考え、孔子学院を受け入れてすでに5年、10年が経過しており、ちょうど見直し時期でタイミングが良かったとする声など、まちまちのようです。
[Inside Higher Ed] (2019.1.9)
Closing Confucius Institutes
Huawei社との研究契約にしても、孔子学院の受け入れにしても、大学は政府の意向を勘案した教育研究活動の展開をする時代に入っているようです。
船守美穂