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デューク大学助教、留学生の中国語による会話を注意し、大学院教育担当ディレクターを外される
デューク大学メディカルスクール大学院教育担当ディレクターのMegan Neely助教が流した「教室外において、学生は中国語による会話は慎むべき」という趣旨のメールがSNS上で炎上し、同助教は大学院教育担当ディレクターの担当から外れること、余儀なくされました。同メールには、キャンパス内や大学施設内では「100%英語を話すことを勧めます」とありました。
メディカルスクールのMary E. Klotman研究科長は、このようなメールが生物統計学修士プログラムのディレクターであるMegan Neely助教から送られたことについて、学生に深くお詫びしました。また、本人からのディレクターを辞任したいとの要望を受け、即座に辞任させたとあります。
Neely助教のメールによると、初年次の中国人学生が学習場所とラウンジで中国語で話していることが気になったとの指摘が、デューク大学の教員2名からあったそうです。「この教員達は、これらの学生が英語を改善しようとしないことに失望するとともに、他の人たちが理解できない言語で話していて失礼極まりないと言っていました」。
このメールはSNS上で激しく非難を浴びました。NBC NewsはNeely氏に取材を試みましたが、返事はありませんでした。
Klotman研究科長は、学生に向けたお詫びの手紙に、デューク大学機関平等オフィス(Office of Institutional Equity)がこの件を調査すると記しています。「ここでハッキリさせておきまずが、〔デューク大学内において〕何語でお互いに会話するかについては、なんら制限はありません。また学生の皆さんのキャリアの機会や教員からの推薦は、教室外で使用する言語の影響は一切受けることありません」。
[NBC News] (2019.1.27)
Duke official steps down after telling students to speak English
[Inside Higher Ed] (2019.1.28)
Telling Students Not to Speak Chinese
[BBC] (2019.1.28)
Duke University professor removed over 'Speak English' email
教室外も含めて英語で話すことを強要するなんて、なんて見識のない酷い大学院教育担当教員なんだ!異文化理解を学んでから、留学生が多いプログラムを担当すべき!と言わんばかりの記事なのですが、この事情を子細に吟味すると違うのです!!
以下はInside Higher Edの記事にあった、Neely助教からのメールです。
「皆さん!今日私のオフィスのところに2名の教員が別々にやってきて、生物統計学修士課程の学生の写真がないかと聞きました。私は1~2年生の顔写真を見せました。どちらの教員も1年生のなかの数名の学生を指し、それらの学生が学生ラウンジや学習エリアで(彼らの言葉に依れば、「とても大声で」)中国語で話していたと指摘しました」。
「これら教員がその中国語で話していたとされる学生の名前を知りたがるので、どうして知りたいのか聞きました。いずれの教員も、これら学生がインターンシップの面接を受けるときや修士の研究プロジェクトで自分の研究室を選ぼうとした時のことを考えて、〔これら学生を拒否できるように〕名前を記憶しておきたいのだと答えました。この教員達は、これらの学生が英語を改善しようとしないことに失望するとともに、他の人たちが理解できない言語で話していて失礼極まりないと言っていました」。
「留学生の皆さん、建物のなかで中国語を話すと、このような予期しない結末がありうることにご留意下さい。本当に本当に本当にお願いです(PLEASE PLEASE PLEASE)!米国に来て、母国語以外の言語で学ぶということは、私に想像できないほど大変な決意であること、そして今でも大変なことなのだと思います。なので、私は皆さんのことを大変尊敬しています。しかし〔そうは言っても、このような予期せぬ結果を招くことがあるので〕(That being said)、教室あるいはその他の学内施設にいるときは、100%英語を話すことを勧めます」。
「このメールを、今就職活動中の二年次の学生にもお送りします」と彼女はメールに加えました。
この文面をみると、Neely助教が異国の地で生物統計学を学ぼうとする留学生達に敬意を十分に払っていること、そして、これら留学生が不利にならないように、裏でこそっと、これら学生に注意をしておこうとしたことが、読み取れます。学生の顔写真を見せて、これら学生の名前を教えてしまったことについては、問題あったとは思いますが、このメールはどちらかと言えば、留学生の将来をおもんばかってのメールです。
実際、BBCの記事の末尾には、Neely氏を擁護する学生3名の発言が掲載されています。
「この助教の行動は善意に基づくもので、本当の差別主義者は(名前と写真を知りたがった)2名の教員であった可能性があります」。
「Neely助教は、素晴らしい講師で、差別主義者では全くありません。かすりもしないです」。
「Neely助教は、国籍にかかわらず全ての学生に対して "常に、力になりたい(always willing to help)" と思っている人でした。大学は、二名の教員の方を調査すべきです」。
「Meganは私が出会った講師やメンターのなかで、最も優れた方です。彼女は〔メールで〕失敗をしたかもしれませんが、でも私達は彼女の本来の意図と、彼女が如何に我々のことを思っているかを知っています」。
「中国の友人の一部は、Meganにサポートを示すと、米国内の他の中国人学生に売国奴呼ばわりされる 'people who betrayed their country' 可能性を心配しています」。
しかしここまで話が大事になってしまったのはおそらく、あまり授業には熱心ではなく、Neely助教の人となりをあまり知らない中国人留学生が、Neely助教のメールの細部は読まずに、騒ぎを大きくしてしまったのでしょう。SNS上では、英語を強制しているということ、自分達の顔と名前を不用意に他の教員に教えたこと、そして英語を話さなかった場合のことについて脅しをかけているように感じられることなどについて、炎上しています。また、Neely助教の差別的メールに対する調査の要望書が2000名以上の署名を集めてしまったのも、状況を十分に確認しないまま、「ヒドイ!」という声を鵜呑みした人達に依るのでしょう。
かわいそうなのはNeely助教に思います。このようにメディアにも書き立てられてしまい、高等教育界に続けていられるのでしょうか?
本来は、大学当局が対応を図る際に、事情を勘案した対応をすべきだったように思います。こうした学生からの騒ぎを受け、学生からの要望にそのまま応えるような火消し的な対応をするのではなく、事情をより詳しく調べ、Neely助教だけでなく、事の発端となった2名の教員にもなんらかの忠告をし、それを学生にも知らせるというのが、見識ある対応だったのではないでしょうか。
船守美穂