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MOOC、有償化の動き

2012年に、世界のエリート大学が無償でオンライン講座を提供するということで大ブレークした大規模公開オンライン講座(MOOC)ですが、徐々に有償化の動きを見せています。

edXのCEOであるAnant Agarwalは最近、無害に見えるブログでさらりと、「全てを無償で提供するという現在のモデルから、離れる」と表明しました。「控えめなサポート料」を導入し、「引き続き、edXと提携大学がグローバルな学習プラットフォームを維持できるように」するそうです。
MOOCは初期の頃から、サステイナブルなビジネスモデルを求めて、有償の修了証を導入し、また近年は、複数の講座をつなぎあわせた専攻(Specialization (Coursera), MicroMasters program (edX))を設け、収入を確保する試みが行っていましたが、受講そのものは基本的に無償でした。世界の万人に優れた高等教育をと喧伝して立ち上がったMOOCですが、これにより、その精神が更に後退することとなります。

他方、サポート料は全てのMOOCに適用される訳ではなく、講座の価値や学習体験に応じて設定され、無償のMOOCも維持されます。また、「サポート料」であるため、講座をサポートすることを好まない受講者は、MOOC受講画面に小さく記載された、「無償で受講したいです(No thanks, I'dlike to audit the course for free)」を選択することで、無償で受講できます。サポート料の導入は、試行段階で色々なバリエーションが試みられる予定です。
(もしよろしければ2つめののリンクで画面イメージをご確認ください。認定証プログラムとサポート料支払いの2つの有料オプションが大きなボタンで選択されるようになっているのに対して、無償受講のオプションは注意書きのように小さく、ほぼ気づかれないようになっています)。

edXは非営利であるため、得られた収益は株主の要求を満たすためではなく、新しいプログラムの開発や、経済支援を必要とする受講者のサポートに利用されます。またサポート料は、edX上のMOOCについてのみ適用され、Open edXを利用して独自にMOOCを開講している大学のMOOCには適用されません。

「MOOC立ち上がり時は、無償のまま規模拡大できると思われていたが、サポート料の導入は、現実に直面したという現れである」。「MOOCに対してサポート料を払う受講者はいくらでもいるだろう。しかし当初、無償のオンライン講座と宣伝しすぎたことが邪魔する可能性がある」といった指摘が外部からなされています。

一方で、ほぼ同時期に出された、EdSurgeからのMOOCに関する動向調査報告書では、MOOCプロバイダであるCourseraとedXのトップ10のMOOCを挙げ、そのうち例えばCourseraのあるMOOCは50万人のアクティブな受講者と4.6万人分の支払いがあり、250万ドル以上の収益があると指摘しています。なおトップ10の講座の多くは、コンピュータサイエンス関連で、コンピュータ言語の学習などが含まれます。その他、異質なものとしては、「幸福の科学」に関連するものがイエール大学とUCバークレーから、それぞれCourseraで2位、edXで7位に挙がっています。

MOOCを通じて得られた収益は、プラットフォームプロバイダと講座提供大学の間で分けられます。学内におけるその収益の分配方法は大学により異なりますが、たとえばミシガン大学では、大学本部、講座を提供した部局、講座を開設した講師の3者で1:1:1で按分するそうです。Pythonの講座を提供し、爆発的な人気を博したSeverance氏は、「研究のスターでもない自分や、同僚の英語の講師が、会議などに出張で行けるようになったのは素晴らしいことだ」と述べています。またある臨床系の准教授は、得られた収益で教育テクノロジー関連の会社を起業し、また、障害のある子供のためのチャリティーに寄付をしました。「ミシガン大学は、教員にイノベーションへのインセンティブが生まれるように、収益の分配方法を考えてくれた」とその教員は述べています。

トップ大学ではない大学から、ヒットが生まれるのも、MOOCです。ミシガン州ロチェスターにあるオークランド大学の工学系教授Barbara Oakleyは、MOOCを同僚と安価に、数千ドル程度で共同開発し、200万人以上の受講者を得ています。MOOCにおける教育方法が優れているためです。「トップ大学でない大学において、素晴らしい教育をできる教員が埋もれている。トップ大学でない大学はMOOCに乗り出すことに消極的だけど、もっと積極的に取り組むべき」と述べています。

[edX] (2018.5.3)
Furthering the edX Mission, Forging a Future Path

[Inside HigherEd] (2018.6.14)
Free MOOCs Face the Music

[EdSurge] (2018.6.19)
How Blockbuster MOOCs Could Shape the Future of Teaching

2012年に世界のエリート大学を席巻したMOOCですが、有効なビジネスモデルが見つからないまま6年がたち、有償化の色彩を更に強めるということのようですね。しかし考えようによっては、この間に、米国内の授業料高騰問題に押されたかたちで、MOOCで初年次教育が無償か安価で提供されるようになったり、修士プログラムの一部がMOOCで提供されるようになるなど、MOOCが単位を伴い高等教育の実質を一部担うようになったのですから、相当前進したとも言えます。MOOCの10年前にブレークしたオープンコースウェア(OCW)は、世界の大学が教材をオープンに提供するところまでで、講師が動画で教育をしたり、受講者が課題を提出したり、講座のなかで教員と受講者、あるいは受講者間でインタラクションしたり、また修了証や単位につながることはありませんでした。オンライン講座は10年ごとに新しい波が来ているようなので、2022年ぐらいにまた何か新しい波があるかもしれません。

研究のスターではなく、教育のスター教員がMOOCを通じて生まれていることも喜ばしいことです。大学の価値が、研究に偏重しているところから、大学の第一の使命である教育にもフォーカスが当たります。特に、大学進学率が上昇し、より教育に重点を置かなくてはいけない高等教育ユニバーサル時代に、フィットしています。MOOCがブレークした頃、その受講者数や修了者数で、大学や講師の定量的教育ランキングが可能になるかもと憶測されましたが、それがまさに現実になってきています。

船守美穂