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NIH、査読の秘匿性を破った研究者への制裁を検討

2018.04.10

国立衛生研究所(NIH)では昨年、査読において守られるべき秘匿性が破られたとの疑惑から、昨年末に60の研究助成申請書を再査読していましたが、そのプロセスが終了したため、今度はこれに関わった研究者への制裁措置を検討していると、Center for Scientific Review(CSR;NIHの査読プロセスを所管する部署)のRichard Nakamuraセンター長が述べました。

対象となる研究者や問題となる行為はこれから特定されていく予定ですが、「査読者に影響を与えようとした、もしくは査読者から配慮を得ようとした、研究助成申請者」も対象となる可能性があるとのことです。また制裁としては、研究助成を申請する権利を剥奪することも想定されています。

NIHでは、以下のような秘匿性保持違反が発覚していました。NIHではこれを「相互的便益(reciprocal favors)」と呼んでいます。

  • ・ 助成申請者が査読者に、自身の申請書が採択となるような働きかけをしていた
  • ・ 査読前に、第一段階の点数と、査読予定者の名前が、助成申請者に漏れていた
  • ・ 査読プロセスを支援するNIH職員が、査読の点数を書き換えていた

[Science] (2018.3.29)
NIH moves to punish researchers who violate confidentiality in proposal reviews

昨年末に査読における不正が発覚した際にNIHブログに掲載された「査読の公正を担保する」という記事には、研究者からと思われるコメントがたくさん付いているのですが、「おやおや。ようやくNIHもアクションする気になったか。私は過去25年間の査読において、助成申請者から複数回接触を受け、この点をNIHに指摘したのに、何もしてくれなかった」というコメントが一番にあり、それについて「そうだそうだ」と同様の体験を指摘するコメントが続いているので、大変残念なことですが、申請者が査読者に働きかけを行うということは以前からあったのでしょう。

他方、ブログには、「自分は数十年査読をやっていて、そのようなことを経験したことはない。どこか一部の分野が局所的に『クラブ』のようになっているのでは?」というコメントも寄せられているので、必ずしもそのような不正ばかりが横行しているというわけでもないと思います。

なおNIHは昨年末の不正発覚時に助成申請者と査読者が守るべき責務等を強化した規則を発表しています。
助成申請者については、査読者にコンタクトをとってはいけない、助成申請内容に関わる情報やデータを査読者に送ってはいけない、査読者からコンタクトを受けた場合はNIHに即時に連絡しなくてはいけないといった事項が挙げられ、査読者については、NIHの秘密保持等に関わるルールを査読開始前に読み、また秘密保持に関わる同意をしなくてはいけないとあります。さらにこの秘密保持規則に同意するということは、これに違反した場合に、5年以内の懲役等に同意したこととなるとあります。

この規則の最後には、考え得る制裁措置(possible consequences)として以下が挙げられています。

  • - 関係した個人と機関への連絡
  • - 査読または査読委員会メンバーとしての資格停止
  • - 政府横断的な締め出しの照会
  • - NIH管理評価室と保健社会福祉省観察質への連絡(刑事処罰につながる可能性有り)

[NIH] Maintaining Integrity in NIH Peer Review: Responsibilities and Consequences(2017.12.22)
https://grants.nih.gov/grants/guide/notice-files/NOT-OD-18-115.html

船守美穂