UCバークレー新学長の所信表明

2017.08.16
言論の自由

昨日、UC バークレーのCarol Christ新学長(73才)の、就任して初めての記者会見が開催されました。

クライスト学長からは、まず皆からの祝福への感謝を手短に述べた上で、新学期開始に向けて新学部生、新大学院生、新任の教職員を迎え入れ、キャンパスが活気だっていて素晴らしい時期であると、これら学生等への暖かい歓迎のメッセージを述べられました。
その上で、就任にあたっての優先事項を5点挙げられました。

○ コミュニティの形成(Building community)
キャンパスにいるどの個人も、どのグループも、歓迎され、評価される(valued)ようなコミュニティを築きたい。近年、財政危機、リーダーシップにおける危機、セクハラ、言論の自由にまつわる暴力と矛盾などがあり、キャンパスが試練にさらされたことに鑑み、もう一度コミュニティとしての一体感を再構築したい。

○ 学部生の体験を高める(ensuring that students thrive)
バークレーは多くの学部生にとって生き抜くところ(survive)となっているが、そうではなく、どの学生も力強く伸びる(thrive)する場所としたい。リーディングな研究大学に入学したことで、もっとも研究のエッセンスである「発見」という体験に、どの学生も裨益できるようにしたい。特に、学生の宿舎は喫緊の課題である。バークレーは他のカリフォルニア大学のキャンパスに比べ、大学の宿泊施設を利用できている学部生の比率が最も少ない。他は22%なのに対して、バークレーは9%のみである。バークレーは地価が高いため、学生は貧弱/過密/遠くの下宿に住む必要があり、また家賃が生活を圧迫するため、バークレーに入学したメリットを十分に享受できないでいる。これは変える必要がある。

○ 多様性と一体感の向上(enhancing diversity and inclusion)
学部生、大学院生、教職員すべての構成員において多様性を高めたい。しかし単に多様性の比率(数値)を高めるだけでは、キャンパスの文化にインパクトを与えられない。バークレーでは、多様性が卓越性と結びついているという基本的理念がもたれている。多様性が卓越性に結びつくためには、多様性に関する理解醸成と一体感ある雰囲気作りが、根源的に必要である。

○ 公共の利益のためのトランスフォーマティブ・リサーチの支援(Supporting transformative research for the public good)
教員が公共のために重要な研究をし続けられるように支援したい。世界が直面する喫緊の課題に積極的に取り組むことは、公立大学の根幹的な使命である。バークレーの教員は、人類や宇宙に関わるあらゆる根源的な問題に取り組んでいる。これら研究は、カリフォルニア大学が公共に対して提供している最も大規模で、最も重要な便益である。

○ サステイナブルな財務モデルの構築(Building a sustainable financial model)
バークレーをサステイナブルに運営するための、新しい財務モデルを開発したい。これは負債の削減以上に重要なことである。

負債の削減という意味においてもバークレーは、2016年度末に1.5億ドルあった負債を、2018年度には0.56億ドルまで削減することを目標としている。これは収入源の拡大と多様化を通じて実現する予定で、実際2017年度末に負債はすでに1.1億ドルまで縮小しており、目標の半分は達成している。

バークレーはたくさんの課題に直面しているが、おそらく最も重要なのは「言論の自由(free speech)」に関わるものである。言論の自由を許すことは、われわれ大学人の基本的な価値観に反する言論も含まれることを意味し、これらは相互に矛盾する側面を有する。しかし我々は大学という場として、それぞれの主張を述べ、議論することを通じて、リベラルな民主主義の社会を、コミュニティとして、見いだしていかなければならない。

今年は「言論の自由年(free speech year)」として、「言論の自由とは何か」という問いを議論を通して深める機会を複数設ける予定である。なお、「言論の自由」はバークレーにおける基本理念であるが、これと同時に大学の安全は守られなければいけないと考えている。

[Berkeley News] (2017.8.15)
Chancellor Christ celebrates beginnings - and takes media questions


以前ご紹介しましたが、クライスト学長はバークレー初の女性の学長、かつ最長老の学長でもあります。しかしぜひ上記リンクのクライスト学長の所信表明の映像をご覧ください。4分程度の短いスピーチに上記5点の優先事項が簡潔明瞭に述べられ、その確固とした信念や方向の明瞭性、それと穏やかな表情とともに目がキラキラと輝き、大学を明るい未来に導いていくオーラが発せられていて、カリスマ性に満ちています。

クライスト学長は、前Dirks学長が多額の負債を生み出し、後半ほぼ役割を果たさなくなっていた間、プロボスト兼副学長代理として大学運営に財務、教員の採用等を行っており、大学運営の要をよく理解されています。

なおこのスピーチでは「言論の自由」が最も重要課題として強調されました。週末にバージニア大学シャーロットヴィルの在する大学町で、白人至上主義者らと反対派が衝突して死傷者まで出た直後だけに、この事件に誘発されたと思うかもしれませんが、このスピーチの内容はこの衝突が起こる前の金曜日にすでに電話インタビューで語られており(以下記事参照)、そういうわけではありません。バークレーでも今年に入ってから何度か、白人至上主義者によるスピーチに関わる事件が起こっており、それを踏まえての所信表明となっています。

[Inside Higher Ed] (2017.8.15)
Leading Berkeley Through Free Speech Tests

バージニア大学における週末の衝突は米国アカデミアにとって衝撃が大きかった模様で(正確に言うと金曜日にキャンパスで白人至上主義者によるたいまつ行進があり、その翌日に反対派のデモにトラックがつっこみ死傷者が出るという事件がありました)、米国の高等教育メルマガ二誌は昨日、今日とこの話題を扱っています。特にChronicle of Higher Education紙は昨日も本日も特集号を組み、それぞれ5本程度ずつ記事を掲載しています。

トランプ大統領の発言が、こうした白人至上主義者らの行動を誘発していると見られていることもあり、米国高等教育のここ数年の重要事項は、これまでの授業料高騰と学生の中退率の高さと並び、「言論の自由」のあり方となりそうです。

船守美穂