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トランプ批判をした教員をビデオ撮影した学生、停学処分とされる

トランプ氏が選出された選挙について「テロ行為である(an act of terrorism)」と昨年末、授業中に述べた教員をビデオ録画し、これをオンライン上で流した学生が、停学処分を命じられました。

同学生O'Neil氏は、全米組織である"College Republicans"という学生グループのメンバーで、カリフォルニア州Orange Coast Collegeの学生です。
同学生は、人の性的嗜好についての講義をしていた、勤務歴40年以上のMs. Coxの授業において、彼女がトランプ氏が大統領選にて選出されたことについて述べたコメントをビデオ撮影し、これをオンライン上で "College Republicans" のグループと共有しました。
この動画は多数のコメントがつき、オンライン上で炎上。Ms. Coxへの嫌がらせや脅迫などもおこり、Ms. Coxは家に帰れなくなり、州外に逃亡を余儀なくされました。

Ms. Coxが授業中に述べたコメントの趣旨は現在調査中ですが、彼女は、大統領選の結果に対する学生の気持ちを和らげるつもりであったと述べています。
O'Neil氏と協力をした学生2名は、自分たちの政治的信条により、悪い成績を付けられると恐れたと、ビデオ撮影の理由について述べています。(実際には成績はAでした)

大学側は学生を、学生行動規範の「許可無しのビデオ撮影の禁止(第43条)」、「許可無しの電子機器の使用の禁止(第46条)」に違反したことを理由に、春および夏学期の停学処分としました。
停学処分とともに大学当局はO'Neil氏に、Ms. Coxへの謝罪文と、3頁のエッセイ(ビデオ撮影した理由、公開したことによるインパクト、再発防止策)を求め、また復学時1セメスターの観察処分とするとしています。

同大学の学生グループであるOrange Coast College Republicansは、自らを最高の被害者と述べ、大学当局が教員組合に完全に丸め込まれており、学生の表現の自由を侵害していると反発。裁判に持ち込んで戦う構えを示しています。

教員組合は、自分たちに学生の規律(discipline)を統制する役割はないが、共和党の学生グループが行う有害行為による影響が出ており、教員と学生のあいだの信頼関係が脅かされているとした上で、教室における教員と学生の安全を守る役割を担いたい、とウェブ上で声明を発しています。

[Chronicle of Higher Education] (2017.2.15)
Student Is Suspended for Filming Instructor Who Made Anti-Trump Remarks

[Inside Higher Ed] (2017.2.15)
The Right Not to Be Recorded

[Orange Coast College Republicans]
学生側のコメント:プレスリリース

うーむ・・・。なんとも大変ですね。
教員の発言を勝手にビデオ撮影してオンライン公開したというのはいけないにしても、大学キャンパスが政治闘争の場となってしまっているわけですから。
しかも撮影されたビデオによると、Ms. Coxの発言は以下のようなものであり、それほど過激なトランプ批判となっている訳でもないようなのです。

She can be heard saying, "So we are in for a difficult time, but again, I do believe that we can get past that. Our nation is divided, we have been assaulted, it's an act of terrorism. One of the most frightening things for me and most people in my life is that the people creating the assault are among us."

この程度のコメントで炎上してしまうとなると、「表現の自由」というほどの大げさなものではなくても、教室におけるふだんの話し方すらにも慎重にならざるを得ません。。。

ちなみにCampus Republicansというのは1892年に設置された歴史ある組織で、共和党の選挙活動において重要な役割を果たしているようです。なんでも学生を通じて、選挙区における勧誘活動を行い、票を獲得するのだそうです。共和党から資金も流れ込んでいるようです。高等教育メルマガにも、(トランプ氏が選ばれて以来)何度かCampus Republicansという用語が登場しています(たとえば先日のバークレーの暴動事件のとき)。
これに対してCampus Democratsは1932年開始で歴史が浅く、活動もそれほどは活発でないようです。少なくとも私はこれについて報じられているのを見たことがありません。

米国は一人一人が表現の自由を行使するだけでなく、(政府の力が弱いだけに)意見を共にする人々で群れる国民性であるように感じています。
米国ほど非営利セクターが発達している国はないわけですが、これは多様な価値観の人々が多く、万人が益することのできる公共政策を政府が提供できない国だからこそ、価値観ごとのグループの利益を代弁し、ステークホルダーに働きかける仕組みとして発達したと考えられています。それだけに、米国の人々はフォーマル、インフォーマルと関わらず、共通の価値観を有する者同士で集まり、組織的に活動することに馴れています。
これは社会の一部の人のニーズをうまく組織化できるというメリットがある一方で(たとえばFDやIRなどの大学中間人材の専門のAssociationは日本から羨望の目で見られますが、これはこのような歴史的背景から形成されています)、今回のようなキャンパス構成員間の見解の相違が、単なる個人間の見解の相違にとどまらず、組織的なものへと容易にエスカレートしてしまうことにもつながるようです。
トランプ政権が白日の下にさらした分裂(divide)、これから大学キャンパスがどうなっていくのか、不安です・・・。

船守美穂