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連邦政府高等教育関連データのアーカイブ化の動き
連邦学生奨学金データセンター(Federal Student Aid data center)で現在提供されている情報を維持するかという質問について、トランプ政権下で新しく教育長官となる予定のDeVos氏が十分なコミットメントを示さなかったことを受け、高等教育に関わる統計や報告書などの各種情報を、ゲリラ的にアーカイブする動きが教育関連団体や研究者の間で広まっています。
同データセンターの学生奨学金に関わるデータだけでなく、大学の授業料や卒業率、初任給などを示すCollege Scorecard、高等教育関連統計(IPEDS, Integrated Postsecondary Education Data System)など、もろもろのデータがダウンロードの対象となっています。
このようなアーカイブには、IRの専門職団体であるAIR(Association for Institutional Research)や、高等教育政策形成に影響力を有するシンクタンクIHEP(Institute for Higher Education Policy)なども関わっています。これは地球温暖化や環境問題等について、NASAやNOAA、環境保護庁(EPA)などのサイトから科学データをダウンロードする動きが研究者の間で昨年末から開始しているのと、同じ流れにあります。
DeVos氏の発言は、「現在提供している情報を確認し、連邦政府奨学金制度(Title IV program)について意味ある情報が提供できるようにしていきたい」というものであり、データ公開を全面的に否定するものではありませんでしたが、環境保護庁などにおける対外的なコミュニケーションを禁止する指令等の前例もあるため、DeVos氏の言葉のニュアンスが人々を神経質にさせた、とオバマ政権において高等教育における次官補を務めたBergeron氏は指摘しています。
Bergeron氏は、高等教育に関わるデータ公開は1980年代からの目標であり、これに逆行することは、政策の効果等を確認できなくするため、米国高等教育の発展の妨げとなるとしています。
[Inside Higher Ed] (2017.2.2)
Data Fears and Downloads
[Motherboard] (2016.12.14)
Researchers Are Preparing for Trump to Delete Government Science From the Web
DeVos氏の発言は、まだ高等教育の政策実務に十分に関わっていないことからしても妥当なもので、日本であれば、どこの大臣の答弁でも同様の紋切り口調だったと想像されるので、日本的常識からしたら、こんなに神経質にならなくても・・・と思ってしまいますが、トランプ大統領就任直後から科学技術政策局(OSTP)、行政管理予算局(OMB)、環境諮問委員会(CEQ)、麻薬管理政策局(ONDCP)などのサイトが閉鎖されてしまったことからすると、思わず納得してしまわないでもありません。
College ScorecardやIPEDSは日本版の「大学ポートレート」のお手本となったサイトなのですが、これなくなってしまうのでしょうかねえ・・・? 統計集であるIPEDSについては、おそらく大丈夫だと思うが予断は許せない、と全米IR協会(AIR)のSoldner氏は記事にて述べています。
なおこの記事は2月頭のものですが、昨日、DeVos氏が米国上院における投票により、教育長官として決定しました。上院にて投票の結果50:50のタイとなり、史上初めて、Mike Pence副大統領が投票し、承認が決まりました。New York Times の記事に掲載された棒グラフが分かりやすいです。
DeVos氏は、チャータースクールを推進したことで知られ、これは米国の公教育を破壊したとも見られていることから、教育関係者や保護者において反対意見が強く、上院での投票前には、各上院議員にものすごい電話の嵐で、Devos氏に投票しないで(あるいは逆)!と懇願する運動がされていたようです(日本ではあまり想像できないですよねえ・・・)。
DeVos氏はこれまで高等教育行政には関与したことがなく、またトランプ大統領が候補として指名してからも、(上記に紹介した記事のように)政策の具体的な方向性についての言及は避けています。しかしチャータースクールを推進していたことから、オバマ政権下で徐々に潰されつつあった営利のオンライン大学が復活するのでは? といった憶測もなされています。営利のオンライン大学は、主に成人学生を対象としており、中退率も極めて高いことから、(十分に教育もしないまま)これら学生が受給した連邦政府奨学金を授業料というかたちで巻き上げるだけのブラック企業、といった見られ方が近年なされていました。
船守美穂