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ゲイツ財団OAポリシー正式発効
米ゲイツ財団が、2年間の猶予付きで2015年1月から適用を始めていたオープンアクセス・ポリシーが、2017年1月をもって完全に発効しました。
これにより、同財団から助成を得て執筆された論文およびその裏付けデータは、論文出版と"同時に"、オープンに提供されなければいけないこととなりました。また、これらはクリエイティブコモンズ・ライセンスcc by 4.0で提供されるため、自由に複製・再配布できるだけでなく、リミックス・改変もでき、営利目的にも利用できます。
- 出版物はオンラインで発見かつアクセス可能なように、決められたリポジトリにメタデータとともに掲載される
- 出版物はCC BY 4.0もしくは同等のOAライセンスを付与される必要がある
- 財団が(OAにするために)必要な経費は負担する
- 出版物は即座にオープンでアクセス可能となる必要がある
- 出版物の根拠データは即座に即座にオープンでアクセス可能となる必要がある
2年間の猶予期間中は、論文の出版から1年間のエンバーゴが認められていましたが、本OAポリシーの発効により、論文および根拠データについて、出版と"同時に"オープンにしなければならないという、極めて強いOAポリシーが発効になったこととなります。
ゲイツ財団の基金規模は396億ドル、2015年の助成金額は42億ドル、2015年から現在にいたるプロジェクト数は3000以上で、広範に影響が及びそうです。
このポリシーがどのような効果をもたらすかは未知数ですが、財団のスポークスマンは、「この2年間の猶予期間において、被助成者や出版社とOAについて密な議論の機会が生まれ、特に、OAをこれまであまり行ってこなかった複数の出版社がオープン化の道を歩んだ」「本OAポリシーは、OAが単なるオプションではなく、デフォルトである、という認識を形成する」と語っています。
OAポリシーは近年、助成した研究成果の学術的・経済的効果を最大限にすることを目的として、複数の助成機関および財団(Hewlett、Ford、Arnold、英Wellcome Trust等の財団)において、採択されています。技術の進展が、研究成果をより迅速に、より広く共有することへのニーズの後押しをしています。
NIHは2008年にOAポリシーを採択し、PubMed Centralを構築したおかげで、PubMed Central内にある410万本の論文が一日に140万人のユーザ、280万の論文の利用を得ており、昨年12月だけでも150万のユニークIPアドレスからのアクセスがあったことを把握しています。
[Inside Higher Ed] (2017.1.16)
Openness by Default
[Inside Higher Ed] (2014.11.24)
Gates Goes Open
[Creative Commons] (2016.10.25)
Open Access Policy In Practice: A Perspective from the Wellcome Trust
先週神門先生のところにノースカロライナ大チャペルヒルSchool of Information and Library Scienceの学部長であるGary Marchionini教授がいらしていましたが、私の興味関心である米国巨大財団が高等教育政策に与えるインパクトについて聞いたところ、この事例を挙げられました。
「このようなポリシーが採択されても、被助成者がOAオプションを有する雑誌に投稿するという流れを生むだけなのではないか?」と問うたところ、「そのようなことはない。Nature誌やScience誌などの、現段階ではエンバーゴを有する雑誌が、ゲイツ財団の助成を得た研究成果も取り上げたいと考え、エンバーゴを外す可能性がある」と言っていました。
実際、ゲイツ財団が2014年末にOAポリシーを発表した直後に、エルセビア社は、ゲイツ財団の助成を受けた研究成果について、同財団のOAポリシーの適用を可能とするようにするよう、ゲイツ財団と合意を取り交わしています。
一方では、トランプ政権が全米人文科学基金(NEH)と全米芸術基金(NEA)が完全に廃止する意向を有することが、大統領就任一日前の2017/1/19に政治専門誌であるヒル紙において報じられ、昨日北本先生のところで講演されたHathiTrust研究センターのJ. Stephen Downieセンター長(イリノイ大学アーバナシャンペイン、教授)は、この事件について、米国の人文系および芸術系の関係者が強い衝撃を受けていることと、これから議会等に積極的に働きかけることを示唆するとともに、それでも米国は他国に例をみないほど民間財団が発達しているので、当面はこちらの助成にシフトする可能性を示唆していました。
ここでも財団の(OAポリシー等の)影響力が大きくなりそうです。
またヒル紙によると、トランプ政権は連邦政府予算の大幅な縮小(10年間で10.5兆ドル規模)を検討しており、科学技術系の予算もこれに含まれます。たとえばエネルギー省では原子核物理学とコンピュータ科学に関わる先進科学が2008年レベルにまで縮小され、電気室、エネルギー効率と再生可能エネルギー室を無くなり、化石エネルギー室はスクラップされる予定の模様です。
[The Hill] (2017.1.19)
Trump team prepares dramatic cuts
さらに、トランプ大統領の就任演説とともに科学技術政策局(OSTP)のホームページも消え去ってしまいました。現在はアクセスしても、トランプ政権のホワイトハウスのページにリダイレクトされるだけです。
一応 https://obamawhitehouse.archives.gov/ に多少のものは残されていますが、たとえば米国における公的助成機関のOAの流れを作った、かの有名な2013年のOSTP指令も容易には見つからない状態となっています。以下はようやく発見したので、リンクを記録までに記しておきますが、
これら政策はもう過去のものとして、反古とされそうです。
ちなみに科学技術政策局(OSTP)だけでなく、行政管理予算局(OMB)、環境諮問委員会(CEQ)、麻薬管理政策局(ONDCP)のサイトもなくなっています。
トランプ政権に移行する前の駆け込みで、政府関係機関はたくさんの報告書や戦略ペーパーをとりまとめたのですが、これらは一瞬にして亡き者とされてしまったようです。
たとえばオバマ政権下で大きく伸びたフィンテック(20万件の政府系データセットを対象とするオープンデータ・イニシアティブを含む)の芽を絶やさないように、これを引き続き促進すべきとした報告書が、大統領就任演説一日前にぎりぎりで発表されましたが、このリンクもすでに切れています。
Of course, with just days until the President Elect makes himself comfortable in the Oval Office, the report's potential impact is questionable. Nonetheless, you can read the full report here.(リンク切れ)
http://www.altfi.com/article/2583_obama_administration_publishes_fintech_report_ahead_of_trump_inauguration
3月に科研でワシントンDCに調査に行こうと思っていたのですが、情報も取れないし、あまりにも混沌としているようなので、訪問時期を見直すべきか・・・と思いつつあります。
船守美穂