大学において研究データポリシー策定義務化?!さてどうする? AXIES-JPCOAR研究データポリシー策定WS(第一回)開催報告
去る9月28日、AXIES-JPCOAR研究データ連絡会の主催で、大学において研究データポリシーを策定する際に参考となるハンズオンWSを開催しました。定員20名とし、実際の参加は19名、プラス関係者8名の計27名の参加でした。
大学ICT推進協議会(AXIES)は大学における情報基盤センターやCIOのコミュニティ、オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)は大学図書館によるコミュニティであるにもかからず、情報基盤系や図書館系からの参加は全体の3割に留まり、半数以上は研究推進系あるいはURAからの参加でした。国内における研究データポリシー策定に向けた切迫度合いが感じられます。
世界的なオープンサイエンスに向けた潮流の中、研究データ管理を研究者任せにするのではなく、研究者の所属する学術機関において責任ある対応をすることが求められるようになっています。このため国では2018年、内閣府中心に「国立研究開発法人におけるデータポリシー策定のためのガイドライン」を取りまとめ、多くの研究開発法人がこのガイドラインに基づいて研究データポリシーを策定しています。
一方、大学を対象としてはそのようなガイドラインは策定されませんでした。大学の多様性や「学問の自由」が尊重されてのことと思われます。実際、研究開発を組織の使命とする研究開発法人と異なり、教育の提供をその中心的な使命とする大学において、研究活動の多くは大学教員の個人的な活動として営まれており、組織における研究データの位置づけも研究開発法人のそれとは異なります。しかしそれでも、大学における研究活動の多くが公的資金により賄われていることを考えると、大学においても研究データの管理や保存、共有に関して責任ある対応をとることが求められます。
このため、AXIESにおいては研究データマネジメント部会のもとにWGを設置し、2020〜21年にかけて大学における研究データポリシーのあり方について調査及び議論を重ね、2021年7月に「大学における研究データポリシー策定ガイドライン」を取りまとめました。今回のWSは、この大学向けのガイドラインの利用を促進するために企画されました。
なお、AXIES-JPCOAR研究データ連絡会は、研究データに関連してAXIESとJPCOARの両機関の連携する機会が拡大していることを踏まえ、両機関の研究データに関わる一部の幹部の話し合いのもとに2020年に結成されました。
このように、大学における研究データ管理や研究データポリシー策定に向けた取り組みはボトムアップで行われ、研究データ管理に取り組む大学もごく少数の大学に限られていました。しかし急転直下、2021年3月に第6期科学技術・イノベーション基本計画が公開され、「機関リポジトリを有する全ての⼤学・⼤学共同利⽤機関法⼈・国⽴研究開発法⼈において、2025年までに、データポリシーの策定率が100%になる」という目標が立てられていることが判明すると、俄に多くの大学が研究データポリシーの策定に関心をもつようになり、ポリシー策定の中心的な部署となる研究推進系の職員やURAがこの度開催のWSに多数参加するに至りました。なにせ、機関リポジトリを有する大学は国内に800大学以上もあるのです!
研究データ管理や研究データポリシーの策定は大学において新しい事象であり、どのように対応すれば良いか、大学において経験値が蓄積されていません。また、これについて話を聞くにしても、大学横断的なネットワークやコミュニティが形成されていないため、相談できる相手も限られています。
このため今回のWSでは、そのような横のつながりが生まれるように工夫をしました。WSの前半ではオンラインリアルタイムアンケートを行い、お互いの考え方や相場観がわかるようにし、WSの後半では1グループ5名のグループワークを通して、お互いの大学における現状や課題が把握できるようにしました。グループにおける座長や書記、報告者などもある程度機械的に割り振り、一人一役あるように配慮しました。
初めて顔を合わせるグループにおいて、グループワークがどの程度うまく進行されるか多少不安な面もありましたが、事後アンケートの今後のWSへの要望において、「同じグループによるフォローアップWS」や「同じ大学の複数部署参加のWS」に対する要望が多かったところを見ると、グループワークは概ね好評だったと考えられます。
WSが全般に好評であったため、同じスタイルのWSを11月30日にリピート予定です。ご関心ある方は是非ご参加ください。
他方、自大学における研究データポリシー策定に関する議論の進み具合や、自身のポリシー策定への関与の度合いから、このような主体的な参加を必要とするWSへの参加はご遠慮される方も多いと聞いています。そこの一歩を踏み出さないと、大学における研究データ管理は前進しないと思う一方で、距離を保ちつつも大学内において研究データ管理に理解を有する層を形成していくことは重要なため、より多くの人数が参加可能なシンポジウムなども企画していければとは思っています。
このWSの最後では、各グループからの報告に対し、研究データポリシーの策定に関連して先行する大学がコメントをしました。いくつかの論点がありましたが、ポリシーとしての「理念」と、研究データインフラの有する「物理的な制約」をどのようにバランスさせるかが永遠の課題として浮かび上がったように思います。
理念としては、大学が全てのデータを預かり、これを人類に共有することが望まれるものの、個々のデータセットやストレージの容量を考えると全てを受け入れることはできない。つまり、現実を直視しすぎると理念が描けないし、理想を語りすぎると現実がこれについていけない。こうしたジレンマをうまくなだめすかしながら、大学における研究データポリシーは策定していく必要があります。
今回のWSのオンラインアンケートやグループワークの結果、研究データポリシー策定の考え方に関する概要説明については、WSのウェブサイトに公開されています。ご関心ある方は是非ご参照ください。
AXIES-JPCOAR研究データ連絡会
WS主担当:船守美穂
(船守 美穂)
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