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スイス連邦工科大学訪問記

オープンサイエンスの一側面として、実験の再現可能性を保証し、研究の公正性を確保することが挙げられます。
近年、コンピュータシミュレーションにもとづく計算科学の手法が多くの分野に適用され、スーパーコンピュータを用いて毎日何万回もの試行錯誤を行うのが科学者の日常となっています。
こうした膨大な試行錯誤の中からキラリと光る成果を見つけたとき、「あれ? この結果が得られたのはどの実験条件だったっけ?」なんて言っていたら笑い話にもなりません。
計算科学には、自動化されたシミュレーション環境と系統的なデータ管理が不可欠なのです。

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スイス連邦工科大学ローザンヌ校 (EPFL) キャンパス風景

2019年6月18日、オープンサイエンスと計算科学を融合する欧州の先進事例をより深く知るため、我々はスイス連邦工科大学ローザンヌ校 (EPFL) を訪問し、同校 Laboratory of Theory and Simulation of Materials に所属するエンジニアたちと情報交換してきました。
彼らが開発した AiiDA は、自動化されたシミュレーション・ワークフローに科学者の知識を埋め込み、データの来歴を自動的に追跡するとともに、FAIR原則にもとづき再現性が保証された形で実験経過を保存するための統合フレームワークです。
材料科学分野の研究者たちによって2012年から開発が進められ、現在、同分野の研究・教育に広く使われています。
素材(入力データ)の来歴とともに保存された実験経過は同チームが運営する Mateials Cloud に公開され、世界中の研究者が検索・追試することが可能となるなど、材料科学のオープン化に貢献しています。
また、AiiDA と各種シミュレーションコードを含む VM イメージである Quantum Mobile の配布、それをクラウド上の Jupyter 環境で使えるサービスである AiiDA Lab の運営、包括的なチュートリアル(講習会)の開催などを通じて普及に尽力している姿勢も印象的でした。
AiiDA 自体は汎用的なフレームワークとして設計されており、分野に適した プラグイン の開発によって他の計算科学分野にも適用できるはずです。

今回の訪問を経て、データ解析基盤の設計と運営について具体的なイメージを持つことができました。
オープンサイエンスと計算科学の融合を見据え、NIIとしてどのような貢献ができるかを考えていきます。

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EPFL 図書館のホールからパノラマ撮影
建物全体はチーズを模した形をしており、空気穴に見立てて窓があちこち曲線で配置されている。

(藤原 一毅)