COAR Annual Meeting 2025参加報告
2025年5月12日から14日まで、東京・一橋講堂で開催された「COAR Annual Meeting 2025」に参加しました。今回の会議は、オープンアクセスリポジトリ連合(COAR:Confederation of Open Access Repositories)、オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR:Japan Consortium for Open Access Repository)、国立情報学研究所(NII:National Institute of Informatics)の共催で行われ、世界23か国から約140名が参加しました。
日本からは、新しいオープンアクセス政策が打ち出され、 2025年度新規公募分の一部公的資金による研究成果は原則として機関リポジトリ等で即時公開されること、700を超える国内リポジトリを支えるNIIやJPCOARによる基盤整備の進展について報告があり、日本が国としてリポジトリ政策を積極的に打ち出している点に関心がもたれていました。
会議では各国からの発表も多彩で、スペイン、カナダ、インド、チェコ、アメリカ、ラテンアメリカ、アフリカ、韓国、オーストラリア、イギリス、フランス、EUといった地域から、オープンサイエンスの現状と課題が共有されました。中でも共通して見られた傾向は、リポジトリの役割がますます重要になっていること、研究評価制度にオープンサイエンスの考え方を組み込む改革が進んでいること、そして地域主導でのオープンインフラへの投資が拡大していることです。
AIとリポジトリの関係についての議論も興味深いものでした。一部のリポジトリでは、生成AIボットによる過剰なアクセスが問題となっており、アクセス制御やホワイトリスト、クローラ検出の技術的対応策が共有されました。一方で、AIの活用による利点、たとえば多言語翻訳や研究成果の自動要約といった可能性にも焦点が当てられ、単なるリスク対応にとどまらない前向きな議論が展開されました。今後のリポジトリにとってAIの活用はリポジトリの価値向上やポテンシャルを生かすための重要なテーマになると思います。
そして、COARが推進する「Notify」プロジェクトや、「Publish, Review, Curate(PRC)」モデルといった構想は、従来の学術出版とリポジトリの関係性を再構築する提案として多くの関心を集めました。リポジトリを学術コミュニケーションの中核に据え、査読・評価・推薦といった機能を結び付ける試みは、日本での浸透はまだまだですが、今後のリポジトリの進化の鍵を握る取り組みとして注目すべきです。
会場では、JPCOARを通じて集められたポスターが掲示され、国内外問わず日本の取り組みに対する関心が高まっている様子が見て取れました。各ポスター前では活発な質疑が交わされており、その熱量が感じられるひとときでした。JPCOARの有志からなる事務局の方々が長期間にわたり準備を重ねてこられた成果が、当日のスムーズな運営に結実していたと強く感じました。
また、セッションの合間や夕方の懇親会などを通して、海外の参加者と直接コミュニケーションを取る機会にも恵まれました。AI活用の具体的な内容など、セッションだけでは得られないリアルな意見交換ができたのは、非常に貴重でした。観光や卓球も交えつつ、終わってみると3日間はあっという間でした。
学術コミュニケーションを取り巻く環境は、世界的に大きく変わりつつあります。その中で、リポジトリが果たすべき役割はますます大きく、また多面的になってきています。今回のCOAR Annual Meeting 2025 で得られた知見と刺激をもとに、今後の活動にどう活かしていくか、自分自身の立場でも考え続けていきたいと思います。
(林 正治)
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