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「RDMスタートアップワークショップ#1@那覇」参加報告

2025.03.07

AI等の活用を推進する研究データエコシステム構築事業」では、全国的な研究データ基盤の構築と、その活用に係る環境整備を進めるために「研究データ管理スタートアップ支援事業(スタートアップ支援事業)」に取り組んでいます。

その内、2024年度から活動を開始いただいている九州・沖縄地区において、2025年2月13日(木)~14日(金)に、九州・沖縄オープンユニバーシティ(Kyushu-Okinawa Open University, KOOU)による「RDMスタートアップワークショップ#1@那覇」が開催されました。

スタートアップ支援事業に取り組む他地区(東海、北陸、中国・四国)では、それぞれ地域コンソーシアムが新たに立ち上げられたのに対し、九州・沖縄地区では既存の、研究力向上に関する連携協力の共通プラットフォームであるKOOUに設置された「研究データ管理・利活用WG」という活動形態が取られていること、またワークショップ形式という、これまで他では見られない議論の場が展開されるとのことから、強い関心を持って、ゲスト参加させてもらいました。

本報告では、ワークショップの概要と、研究データエコシステム構築事業推進の観点からの注目点を整理してお伝えしたいと思います。


1. ワークショップの概要

(1) 開催概要

  • ・ 日程:2025年2月13日(木)~14日(金)
  • ・ 会場:沖縄県那覇市
  • ・ 参加者:KOOU所属大学の研究者、大学図書館員、URA、研究支援担当者及び、スタートアップ支援事業で先行する名古屋大学・金沢大学からのゲスト講師など計約40名


(2) プログラム構成

ワークショップは、以下の3つのセッションを軸に進められました。

  • セッション1:現状の共有
    前回実施された「情報交換会」の振り返りの後、参加された各大学のその後の状況が共有されました。

  • セッション2:事例紹介
    以下の事例が、2日にわたって紹介されました。(13日:1〜3、14日:4〜5)
    •  1) 豪州シドニー工科大学におけるRDM(研究データ管理)支援事例
    •  2) 「研究データエコシステム東海コンソーシアム」の支援事業振り返り(2023~24年度)
    •  3) 名古屋大学のRDM 2024年度
    •  4) データ公開を実効的に進めるための、金沢大学学術データポリシーの改訂と、その実施細則・ガイドラインの策定
    •  5) 英国エディンバラ大学における研究データ公開・オープンアクセスの事例

  • セッション3:グループ討議
    以下の4つのテーマについて、参加者の関心に沿って事前に分けられたグループにて、2日にわたって議論が交わされました。(13日:A&B、14日:C&D)
    •  A) 大学内での意識醸成・研究者への啓発
    •  B) データストレージ
    •  C) ポリシーの実効化
    •  D) データ公開までのプロセス


2. 注目ポイント

(1) 事例発表

  • ・ 先行して取り組まれている各大学のRDMの状況が共有され、特にシドニー工科大学やエディンバラ大学の事例からは、研究者向け支援の仕組みやデータライフサイクル管理の重要性が示されました。エディンバラ大学ではDMPの作成支援や研究データ公開の実務が整備されており、日本国内の大学にとっても参考になる要素が多いように感じました。
  • ・ 国内では、東海コンソーシアムにおいて約30機関が連携して、セミナーやポリシー策定支援を進め、名古屋大学ではDMPガイドラインの策定や大学院生向けRDM教育の強化に取り組まれています。金沢大学では、研究者の負担を軽減しつつデータ公開を促進するために、DMPの運用システムを整備し、ポリシーの実効性を高める工夫がなされています。
  • ・ これらの事例を通じて、国内外のRDM施策の課題と可能性が共有されていました。


(2) グループ討議

  • ・ グループ討議では、初日に共有された各大学の状況も踏まえつつ、4つのテーマに分かれて、意見交換が進められました。
  • ・ RDMに関する意識醸成については、研究者の理解促進が大きな課題となり、DMPの活用や学内のリーダー層を巻き込むことが効果的と議論されていました。特に、研究者ごとに異なるRDMの捉え方を踏まえたアプローチが重要であり、文系や芸術系の研究者にも対応できる説明の工夫が求められるとの意見がありました。
  • ・ ストレージ運用に関しては、大規模ストレージの整備を進めても十分に活用されていない状況もあるなど、持続可能な資金確保や研究者への周知の仕方が論点となりました。
  • ・ ポリシーの実効化には、部局レベルでの実施細則の整備、DMPの活用、関係部門の連携強化が必要であり、異動・退職時のデータ管理ルールの明確化も重要な課題として議論されていました。
  • ・ 研究データの公開に関する議論では、権利処理やメタデータ管理の課題が指摘され、特に企業との共同研究データや機密情報を含むデータの適切な公開方法について慎重な対応が必要という議論がありました。メタデータの翻訳やAI活用といった新たな手法の導入も提案され、研究データの適切な管理・公開に向けた多様な視点からの議論がありました。

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3. まとめ

本ワークショップを通じ、九州・沖縄地区における研究データ管理の現状と課題がより明確になったように思います。特に、意識醸成、ストレージの持続可能な運用、ポリシーの実効化、データ公開のプロセスといった実務的な課題に関し、各機関が直面している共通の問題点とその解決策が議論され、今後のエコシステム構築においても様々な示唆をいただくことができました。

また、国内外の先行事例の共有を通じ、RDMの実践における具体的なアプローチが浮き彫りとなりました。特に、ポリシーの策定とその実効化に向けた取り組み、研究者の負担を軽減しながらRDMを推進するためのDMP活用、研究データの長期保存と公開のバランスを取るための技術的・制度的な工夫について、考えさせられました。

今後、九州・沖縄地区においては、KOOUのプラットフォームを活用しながら、これらの課題に対応する具体的なアクションを検討し、各県レベルでも公立・私立大学も巻き込んだ展開がされることに期待しています。本事業としても、スタートアップ支援事業を通じて、他の地域との連携も図りつつ、各大学が研究データ管理の仕組みを構築し、持続可能な形で運用できるよう、関係者の皆さんと共に取り組んでいきたいと思います。

(中野 恵一)