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JOSS2023 報告:研究基盤プラットフォーム再考−FAIRの「I」

今年で5回目の開催となるオープンサイエンスをテーマとした日本最大のカンファレンス「ジャパン・オープンサイエンス・サミット2023(JOSS2023)」が2023年6月19日(月)〜 23日(金)の5日間にわたりオンライン開催されました。

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今年は、協賛セミナー、市民科学、図書館/博物館/大学でのデータ管理、FAIR原則、メタデータ、政策・ポリシー、プラットフォーム・エコシステム、コミュニティセッションが設けられ、RCOSメンバーからは、FAIR原則、プラットフォーム・エコシステム、コミュニティセッションにおいて、メタデータやインフラなどについての発表がありました。これらのセッションでは、RCOSメンバーからの発表に加え、様々な分野の先生方からの発表やオーディエンスからの質問もあり、オープンサイエンスの機運の高まりが感じられました。

今回より5回にわたり、RCOSメンバーが参加した各セッションの詳細について報告します。

(河合 将志、宮坂 啓子)

報告1:研究基盤プラットフォーム再考−FAIRのI

JOSS2023で、久しぶりにセッションを2つ企画しました。1つ目は、JOSS初日の最初のセッション「研究基盤プラットフォーム再考−FAIRのI」です。
幅広い職制から104名の参加がありました。オープンサイエンスの推進に関わって10年。そろそろFAIRの中でも難度の高い「I」(interoperablity, 相互運用性)をテーマに、日々の研究で進む「I」の現状と将来観を、研究者に語っていただく企画です。

第一講演者、DBCLSの小野浩雅さんが "生命科学研究はデータベース作り" と口火を切り、論文投稿で公共データベースに登録しようという時、困難なこと、手間がかかることの8割がデータの前処理であるとの現実から、その解決としてID変換サービスを助ける統合IDの開発や、統合後のアプリケーションの紹介がありました。
データ前処理や活用の専門家集団の存在が大きい! とは、まさにガッテンなお話です。高度に統合したデータベースを探索・俯瞰することによって、新たな知識を抽出できる(データ駆動型生命科学研究の)取り組みは、象徴的な「I」の例と言えます。

第二講演者、NIMSの石井真史さんは、材料科学分野を超えた「I」の取り組みとして、NIMS材料オントロジーの作成を紹介されました。分野同士が接点を持つ部分の概念化「Universe of discourse」(UoD) という考え方を提唱し、データベース統合に必要な統合語彙のための辞典作りという従来の人力戦から、語彙ではなく機械のために概念でつなぐことで解消できないか、との一歩先に、そして深化した考察と実践の紹介がありました。
UoDが異なっても、材料科学に共通な部分を機械可読化することは、例えば高分子でも超伝導でもオントロジーは同じ、とのドメインを超えた材料科学の「I」論です。接点を持つ部分の概念化、それは科学そのもの――とは深い研究者ならではの結びでした。

第三講演者、JAMSTECの五十嵐弘道さんは、⽔産海洋分野での地球環境データ解析におけるBlueCloud基盤との連携を紹介されました。
漁場の将来予測研究など、地球規模でデータ蓄積・共有が進み、データサイズも巨大になる中、⽇本を含む諸外国のデータ解析空間との連携を図っていくことで、ビッグデータを効率的に解析する仕組みが必要との、解析空間の「I」のお話です。

最後の登壇は、NII/RCOSの南山泰之さんです。FAIRの「I」を実現する NII RDC アプリケーションプロファイルの開発について、紹介されました。
研究データの保存、共有、検索等をサポートするプラットフォーム開発が進む中、様々なデータ・プラットフォームと研究データ基盤システムを繋ぐメタデータ付与という課題の乗り越えた先に、データを使うアプリケーションの互換性を担保するためのアプリケーションプロファイルを作り、どこの基盤でも同様のデータ解析の仕事ができるようにするコンセプトです。「I」をアプリケーションレベルからみた紹介は、JOSSでも新規性の高い話題と言えます。

全体として、FAIRに研究データが流通し、共有され、それがデータ駆動型研究に活きてくるストーリーを、生命科学・材料科学・海洋科学・基盤科学の各視点で学ぶことが叶い、企画者としては満足、感謝のセッションでした。

資料:https://doi.org/10.5281/zenodo.8058608

(谷藤 幹子)