International Funders Workshop 参加記
2022年11月8日~9日、オランダ・アムステルダムで開催された "International Funders Workshop: The Future of Research Software" に参加しました。
これはResearch Software Alliance (ReSA) とNetherlands eScience Centerが各国の資金提供機関を招待して開催したワークショップで、欧州を中心に世界45団体から60名以上が参加しました。
日本からは日本学術振興会 (JSPS) が参加しましたが、ソフトウェア開発の専門家一緒に来てほしいということで、NIIから藤原が同行しました。
ワークショップの目的は、「研究ソフトウェアの持続可能性のための資金調達に関するアムステルダム宣言」を起草することです。
研究ソフトウェアとは、研究のなかで開発された、もしくは、研究のために開発されたソフトウェアであって、ソースコード、アルゴリズム、スクリプト、計算ワークフロー、実行可能ファイルなどを含むと定義されます。
研究ソフトウェアは一般に、個人または小規模なコミュニティによって開発され、研究終了後の維持管理に工数が割かれないことから、再利用性・持続可能性に問題があるという認識が広まっています。しかし、この問題は構造的な問題であって、個々の大学や研究機関の努力では解決できず、政策レベルで対策を考える必要があります。
ワークショップでは、資金提供機関の人たちに加え、ユネスコやOECDといった国際政治レベルの人たちと、NCSA(米国立スーパーコンピュータ応用研究所)やASTRON(オランダ電波天文学研究所)といった研究現場の人たちが一堂に会して、研究ソフトウェアの持続可能性を向上させるために必要なアクションを話し合いました。
多岐にわたる議論の中から、次の3つの論点が整理されました。
- 1) ポリシーとオープンサイエンス。
ソフトウェアの持続可能性が既存のオープンサイエンス政策とどのように関連し、またどのように融合すべきかを明確にすること。 - 2) 投資と資金調達手段。
持続可能な研究ソフトウェアの開発、使用、保守を促進するために、機関や国の垣根を越えて資金調達メカニズムを改善・調整すること。 - 3) 報酬、認識、評価にかかわる文化。
持続可能な研究ソフトウェアの開発に携わる人々の評価をサポートする手段を定義し、確立すること。
これらの論点を盛り込んでアムステルダム宣言を起草する作業が今後、継続されることになりました。
ワークショップのなかで行われた講演のビデオとスライドはこちらで公開されています。
また、アムステルダム宣言の草案はこちらで公開されています。
このワークショップが目指す世界は、論文や研究データと同様に研究ソフトウェアが学術資産として長期的に維持され、関連する人材が学術界で相応の報酬を得られる世界です。エンジニアとしての私は、この理想に全く同意します。
しかし、従来の学術資金のスキームや学術界のキャリアパスはソフトウェアの維持を目的としていませんでした。これは経済学におけるメカニズムデザインの問題であり、全く新しいビジネスモデルを立ち上げるに等しい課題なのです。
ソフトウェアの開発・維持には、技術的側面と社会的側面の両面で独特のノウハウが存在します。オープンソースソフトウェアを支援している財団の中にはこれらのノウハウに精通した人材がいるはずですが、今回のワークショップには招待されていませんでした。政治レベルでものを考える資金提供機関と、実装レベルでものを考える研究開発者が雁首を突き合わせても、両者をうまく繋いで回るメカニズムをデザインするのは難しいことです。
次回のワークショップでは、オープンソースの歴史と支援組織の運営に詳しい人材を招待するべきでしょう。
NIIとしては、ReSAやSoftware Heritageなど国際的な組織の動きを注視しながら、NII RDCにおける研究再現性を高めるための機能開発に取り組んでいきたいと考えています。
(藤原 一毅)
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