2nd FAIR Convergence Symposium及び1st International Conference on FAIR Digital Objects参加報告
2022年10月24日~28日にかけて、FAIR原則に関する2つの国際シンポジウムが開催されました。会議はオランダ・ライデン市での開催となり、RCOSからは大波・南山の2名が現地参加しました。以下、シンポジウム別に報告します。
■ 2nd International FAIR Convergence Symposium
この会議では、欧州の各分野におけるFIPsとFERと呼ばれる概念のパイロットスタディによって、分野間の学際研究をどのように推進するべきかが議論されました。
Findable、Accessible、Interoperable、Reusableの頭文字を取って構成されるFAIR原則は、欧州や世界の学術分野のデータ共有の基準として広く知られています。現在欧州では、FAIR原則のさらなる実装を推進するため、WorldFAIRと呼ばれるプロジェクトで分野ごとのケーススタディを実施しています。
WorldFAIRは、FAIR Implementation Profiles (FIPs)と呼ばれる方法で、各分野の研究データが十分にFAIRであるかを診断するプロセスを推進しています。
FIPsでは、初めに分野ごとに以下のようなFIP mini-questionnaireに回答し、FER(FAIR Enabling Resource)と呼ばれる利用可能なメタデータスキーマやリポジトリにどのようなものがあるかを洗い出します。
そして次に分野内のプロジェクトがFERに合致するかどうか、FAIRの項目ごとにスコアリングし、以下のようなフィンガープリントを作成します。
出来上がったフィンガープリントを、分野内のプロジェクト間で比較し、FAIR原則の浸透度を判断する他、似たパターンのプロジェクトには、同じような対策が立てられることが予想されています。
今回の会議では、12の学術分野がフィンガープリント作成まで実施し、これから結果を使った評価プロセスに入るとのことでした。欧州ではこのFIPsの方法とFERの情報を整備し、分野ごとに大きく異なる研究データの扱いやオープン化の考え方をすり合わせて、全領域的な学術情報のConvergence(収束)を成し遂げようとしています。我々RCOSでも引き続きこの動向に注力し、日本国内でもこのような方法論が学術研究の現場に効果を発揮できるのか、判断して参ります。
(大波 純一)
■ 1st International conference on FAIR Digital Objects
本会議は、「FAIRデジタルオブジェクトに関するライデン宣言(Leiden Declaration on FAIR Digital Objects)」の表明を主たる目的として開催されました。
セレモニーの様子
同宣言は大きく「認識の共有」「主張」「コミット」の3部で構成され、人間と機械の相互作用を実現する「ハイブリッド・インテリジェンス」とデータ駆動型社会の実現に向けて、現状の認識、必要な事項の提案、実現に向けた関係者による宣言を記した文書となっています。上述したページでは宣言に賛同したメンバーの名前と所属が公開されており、2022年11月現在、EU圏の研究者・技術者・政策関係者を中心に150名以上の署名が集まっているようです。
著者が本会議に参加した目的は、大きく以下の2つになります。
- ・ 研究データの品質評価基準の一つとなり得るFAIR Digital Objectsの現状を理解すること
- ・ 関連して、RCOSで開発中のデータキュレーション機能に役立つ情報を収集すること
FAIR原則は、方々で言及されているように抽象度が高く、何らかの基準として用いるには曖昧という課題があります。これをどのように実装レベルまで落とし込むのか、という点が参加前の問題意識にあったのですが、果たして本会議でも試行錯誤の最中であることが見て取れました。まさに会議の最中である10/27にFAIR Digital Objectsのフレームワークを記述する文書のドラフトが公開されており、本フレームワークの妥当性、各分野への働きかけなどが盛んに議論されていました。
一方で、連続イベントであるCODATA Convergence Symposiumでも感じたことですが、やはり各分野(あるいはプロジェクト)における取り組みが先にあり、取り組みをFAIR原則に照らして再評価している、というのが実情のようです。とはいえ、FAIR原則を旗印とした政策的なアピールという観点では、EU圏の各分野の方々が一体感を持って活動を展開されている点、見習うべきことは多いと感じました。
これから分野横断的な活動の輪を広げていくにあたり、こういった海外動向も随時参照しながら進めたいと思います。
(南山 泰之)
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