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データライブラリアンの輪を拡げよう

今、オープンサイエンス推進の流れや研究公正の確保を背景として、研究データ管理(RDM: Research Data Management)が注目を集めています。RDMとは、ある研究プロジェクトにおいて使用された、あるいは生成されたデータの組織化、構造化、保存、共有、公開、再利用に関する一連の作業を指す言葉です。

ところで、データ管理の当事者である研究者は、どのような意識を持っているのでしょうか。データをきちんと管理、保存し、可能な限り共有や公開を進めたいという意識を持ってはいるものの、時間や予算などの制約により、なかなか適切な管理は進んでいません。

こうした研究者を助けるために、欧米の研究大学では、データライブラリアンと呼ばれる図書館員が中心となり、学内の関連スタッフと協力しながら、データのライフサイクルに沿って、さまざまな支援サービスを提供しています。

日本でも、文部科学省の学術情報委員会による『学術情報のオープン化の推進について(審議まとめ)』のなかで、大学等に期待される役割のひとつとして、「技術職員、URA及び大学図書館職員等を中心としたデータ管理体制を構築し、研究者への支援に資する」ことが挙げられています。

しかしながら、図書館員をはじめとして、国内大学の研究支援スタッフは、データを管理するための知識や経験を持ち合わせておらず、外部からの期待は高まるものの、それに応えることができないという状況が続いていました。

こうした状況を何とか打開しようと、オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)の下に置かれた研究データタスクフォースは、海外のさまざまな教材をスキャンし、それらを参考にして、RDMの基礎を学ぶための教材「RDMトレーニングツール」を開発し、2017年6月にJPCOARのサイトから公開しました。
さらに、NIIは研究データTFの協力を得つつ、この教材を再編し、2017年11月から2018年1月にかけてJMOOCのgaccoというプラットフォームからオンライン講座「オープンサイエンス時代の研究データ管理」として開講しました。幸いにして、この講座は好評を博し、2,000名以上が受講し、修了率も25%に達し、gaccoの平均を大きく上回るという結果を得ました(2018.05.22付けのRCOS日記)。

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一方、受講者との意見交換会の中から、いくつかの課題も浮かび上がってきました。
例えば、研究者自身が行うべきことと研究者を支援するスタッフが行うべきことが混然一体となり区別できない、という指摘がありました。また、開講時間が短い、オンデマンドでいつでも学習できるようにしてほしい、という要望も頂きました。

こうした意見や要望を踏まえ、研究データTFとNIIは新教材の作成に取り掛かり、研究者を支援するスタッフ向けに、研究者の研究プロセスに沿って、それぞれのプロセスで求められるRDMサービスを設計し、それを実践するすべを学ぶための教材を開発しました。
この教材「研究データ管理サービスの設計と実践」は、RCOSで開発中の学習管理システムに搭載して提供する予定ですが、まず、いくつかの機関の図書館員や研究支援スタッフに試用してもらい、そこからフィードバックを得て、教材コンテンツ、システム、運用方式などを見直したうえで、広く公開したいと考えています。この試用プロジェクトは、全国の16の大学や研究機関に参加していただき、8月下旬から始まります。

また、毎年恒例の図書館総合展でも、10月31日に「拡げよう、データライブラリアンの輪」というフォーラムを開催いたします。そこで、新教材について紹介し、試用プロジェクトの成果についても報告します。乞うご期待。

米国では、データライブラリアン(米国ではデータキュレーターという名称の方が一般的ですが)たちによるネットワークが既にできており、それぞれが得意とする主題の知識やRDMの経験を活かしながら、互助的な組織を作りつつあります。日本でも、RDMについて学ぶための教材作りやその利活用の活動をきっかけとして、データライブラリアンのコミュニティが育っていくことを期待しています。
RCOSはこれからも、コミュニティの結節点としてネットワーク作りのお手伝いをしていきます。全国の図書館員の皆さん、特に、目のキラキラした若手の図書館員の皆さん、データライブラリアンの輪に加わりませんか。

(尾城 孝一)