日本語

オープンサイエンス概要

オープンサイエンスとは、極めて曖昧で何を指しているのか漠然としていますが、基本的にはデジタル時代に鑑み、これまで以上にオープンで、多様な可能性をもって行うことができるようになった研究活動の諸側面を総称しています。
オープンサイエンスには大きく二つの流れがあると理解されます。一つは、サイエンスはよりオープンであるべきであるという、理念的なものです。もう一つは、主に行政サイドからくる、説明責任や透明性などの観点からくるものです。


オープンサイエンスの理念的側面

デジタル時代でインターネットが普及した現在、人々のコミュニケーションは飛躍的に円滑になりました。これに伴い、研究活動も複数名の研究者からなる共同研究で行われることが多くなり、また国際共同研究も容易となりました。研究に関わる様々なファイル(研究データや付帯情報、論文のドラフト等)がインターネット上で共有され、同時編集されるようになりました。
同時に、共同研究のしやすさから、企業や一般市民とのコラボレーションも多くなり、社会の課題解決や学際領域の研究も拡大しました。全般に研究活動が開かれたものとなっていると理解されます。なお一般市民との研究活動を「市民科学(citizen science)」とも呼びます。

デジタル時代になり、データの規模が急速に拡大し、「データ集中科学(data-intensive science)」という造語も生まれています。各種の実験の計測機器においてもデータが機械的に大量に取られ、またインターネット上の人々の行動を示すライフログも膨大です。いつの間にか研究活動はあらゆる分野において、データ処理が中心的になっています。科学は「経験科学」から「理論科学」、そして「計算科学(シミュレーション)」を経て、現在は「データ集中科学」という〈第四のパラダイム〉に突入したと言われています。

これらデータを、ネット上の様々な解析ツールで解析、ヴィジュアルに表現し、研究発信していくこをe-サイエンスとよび、Science 2.0といった名称を経て、最近はオープンサイエンスとも呼びます。Science 2.0やオープンサイエンスといった名称に移行するに伴い、デジタル時代が可能とする、新しい次元の学術活動を創出しようというニュアンスも含まれるようになりました。当センターで提供するオープンサイエンス基盤も、学術成果の共有や国内外、そしてアカデミアと社会との連携を円滑にする基盤を提供することを通じて、日本におけるオープンサイエンス推進の礎となることを志としています。


オープンサイエンスの行政的側面

一方、行政的な立場からみると、大学等で行われる研究活動の多くは国費により負担され、そこから生じる研究成果は広く国民や社会に還元していくべきと考えられます。ここでいう研究成果は、研究論文や研究活動の過程で取得される実験や観測、調査等による研究データです。

論文は伝統的に、分野ごとの学術雑誌に収録され、大学図書館等で購読契約されることにより研究者間で閲覧可能でありました。しかし購読料が高額であることもあり、これでは一般市民や企業、社会からは閲覧できません。また近年の購読料の高騰により、大学においてさえ、論文が読めない状況が発生しています。これをデジタル時代に鑑み、ネット上でオープンアクセス(OA)とし、無償に閲覧可能としようとするのが、オープンサイエンスに向けての動きの淵源となっています。
なお論文がOAで提供されるようになった場合、学術情報流通(論文の投稿→査読→出版→閲覧)のコストは各大学による購読料では賄えなくなるため、論文著者の論文出版料(APC, article processing charge)で賄われることになります。これを学術情報流通コストの読者負担から著者負担への転換とも言います。現在はこの移行過程にあり、両モデルが混在し、場合によっては出版社による二重取り(double dipping)となっていることが、問題となっています。

研究データについては、取り組みが開始したばかりですが、これについても研究論文と同様、広く公開していくことにより、当該研究領域の深化とともに、学際領域研究や企業における製品開発、イノベーション等に役立てられていくことが期待されています。ただし個人情報等の機微なデータについては、慎重な取り扱いがなされます。またデータを取得した研究者が当該データで論文を執筆するための猶予期間は与えられます。

研究論文および研究データのOAは主に研究助成機関のポリシーを通じて、推進されています。日本学術振興会(JSPS)や科学技術振興機構(JST)の研究助成では、その助成を通じて輩出された研究論文がOAとなって提供されることが推奨されています。それが義務化されている国も一部にはあります。

研究データの公開については、その実施の難しさなどから義務化に踏み切った国はありませんが、その代わりに、データ管理計画(DMP, data management plan)を研究助成の申請書とともに提出することが求められるようになっており、一部の国ではこれがすでに義務化されています。データ管理計画(DMP)とは、研究プロジェクトにおいて、どのような研究データをどのような手法で取得・加工し、データをどこに蓄積し、提供を要望された際にどのように提供するかを記載するものです。
なお研究データの公開については、データを取得した研究者が研究人生を終えた後も当該データが幅広く利活用されること、学術論文の根拠データを示すことで研究の再現性が担保されること、研究不正が抑えられることなども期待されています。


オープンサイエンスの推進

研究活動をより開かれたものとして行っていくという意味でのオープンサイエンスは、それに関心・関係のある研究者により進められています。またデジタル化の進展により研究活動が日常的にネット上に移行するにつれ、オープンサイエンスの理念に沿った研究活動が知らず知らずのうちに進展しつつあるとも言えます。一方で世界的に見ると、オープンサイエンスが研究助成機関の各種のポリシーにより推進されているという側面も見られます。国民への説明責任や研究の透明性が国からは要請されています。

当センターで提供するオープンサイエンス基盤は、インターネット上の研究活動を円滑に進めるための学術基盤を提供することを通じて、日本におけるオープンで多彩な研究活動をサポートするとともに、日本の学術機関が国の要請に応える手段も提供していきます。