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MIT reviews the relationship with Saudi ― Recommending to continue the relationship

MITとサウジアラビアの協働関係について、MITにてレビューがなされました。このレビューは、サウジが人権侵害を行い、イエメンでは数百万人を飢餓の危機に陥れたという懸念があるにもかかわらず、MITがサウジの個人や機関との関係を継続すべきであることを示唆しています。
このレビューは、サウジの反体制派で記者であるジャマル・カショギ氏が在トルコ・サウジアラビア領事館で殺害されたことを受け、MITの国際担当副プロボスト補佐(associate vice provost)によりとりまとめられました。MITがサウジの個人寄付者や政府機関、国家所有企業などとの関係を終結することに否定的な内容でした。

この8頁にわたる初期的報告は、MITとサウジとの関係をまとめています。サウジ政府からの資金提供や、サウジ国家所有企業からのエネルギーや水管理の分野における委託研究、サウジの個人や機関からの寄付などが挙げられています。このレビューにはサウジからの寄付や委託契約の総金額は示されていません。しかし米国連邦政府のデータベースによると、MITが過去6年でサウジから寄付や契約のかたちで7700万ドル以上得ていることが分かります。
「この判断で決め手となったのは、MITがサウジの人々とすでに相当の期間、活動や協働を共にしていたということです。これらサウジの人々は母国の発展に寄与したいという気持ちを持つ善良な人々で、その想いは我々が共に実施する研究プロジェクトや研究協力により実現されています」と国際担当副プロボスト補佐であるRichard K. Lester氏は述べました。
「我々はこれら母国を近代化しようとしている人々とすでに相当期間、場合によっては数十年の付き合いがあります。こうした人々を見捨てないということが、私の判断の基準となりました。彼らの祖国の指導者達が残酷な行為をしても、我々は彼らを見捨ててと逃げ出さないということです」。

MITとサウジの関係は、MITが2018年春にサウジの皇太子ムハンマド・ビン・サルマーンの訪問を受け入れたときから既に、厳しい批判に晒されていました。この訪問に対してデモ運動が行われ、この訪問取り消しを求めるオンライン署名運動には6000名以上のサインが集まりました。
MITの学生新聞「MIT Tech」は、サウジ皇太子の訪問を受け入れ同国との関係強化を図ろうとすることは、同国のムハンマド皇太子のイメージアップ戦略にMIT執行部が協力していることを意味すると指摘しています。「サウジアラビアは、ムハンマド皇太子を同国にとってポジティブな改革の力を及ぼす存在として位置づけ、最終的には彼の人権侵害を見えなくしようとしています。(中略)MITは、MITのグローバルな影響範囲を拡大できるのであれば、戦争犯罪者にとってプラスとなる関係構築にすらオープンであると見られることになります」
MITへの圧力はカショギ氏が殺害されて更に高まりました。この殺害は皇太子の指示によるものであったとCIAが結論づけたからです。ワシントンポストのコラムニストであったカショギ氏の殺害は、MITだけでなく、他の米国大学と同国の関係についても厳しい視線をもたらしました。
MITにとって更に悪かったのは、カショギ氏を殺害したとされる加害者の一人であるMaher Mutreb氏が、ムハンマド皇太子のMIT訪問に同行していたということです。Maher Mutreb氏は、ムハンマド皇太子がL. Rafael Reif学長と手交している写真に写っています。

カショギ氏失踪の二週間後の10/15に出されたReif学長からのリクエストを受け、Lester氏はMITとサウジの関係を再評価すると発表しました。初期的報告は現在MIT内で回覧され、1/15までコメントを受付中です。Lester氏は最終的にはレポートのコピーと、学内等から得たコメントのサマリーをReif学長に提出し、全学としての判断を仰ぎます。
Lester氏によると、MITの学生、教員、職員、同窓生からの意見には大きな幅があるそうです。「一方には、サウジ政府の実に酷い行動に鑑み、サウジ政府を孤立させ、同政府の行動を制する方向でMITは行動すべきと熱心かつ強硬に主張する人々がいました。他方では、我々が協働してきた人々から離れたり、サウジ学生を含む各種の学生の活動を取りやめたりするには、今が最も不適切な時期であるとする人々がいました」。
「結局のところ、私はその中間の結論に至りました」とLester氏は続けました。「最終的には、継続性が重要であるという視点と、我々が協働している人々は学生も含め、母国に善をもたらそうとしている良い人々であり、我々が彼らと共有するその目標を見捨ててはいけないという判断となりました」。
これからの新しいパートナーシップの構築についてLester氏のレポートは、サウジにおいて「多くのMITの人々の物理的存在を必要とする規模の大きい海外活動」は避けた方が良いとしています。しかし「MITで原則実施される活動については、それがMITの規則や原則に反することなく、かつMITでそれをやりたいとする教員がいるかぎりにおいて」、サウジからのスポンサーや寄付者を必要とする新しい機会も視野に入れるべきとしています。

このレポートには多くの異論が寄せられることが予想されます。直近のMIT教員ニューズレター(MIT Faculty Newsletter)に掲載されたMIT3名の教員による論説では、サウジにおけるMITの活動について独立した評価が必要との主張がなされました。「大学執行部により設置された委員会で、大学執行部の活動を評価するのは、明らかに不適切です」。
「これはRichard Lester氏という、一人の見解を示したレポートです」と論説著者の一人であり、生物学の名誉教授であるJonathan King氏は、MITとサウジとの関係を議論するパネルディスカッションの場で述べました。「このレビューはMIT教員の委員会によるものではありません。MITの学内委員会によるものでもありません。Lester氏は多くの人々と話をしたと言っていますが、名前は誰一人として挙げられていません。この問題は、執行部の代表がメンバーには含まれない、独立した委員会で吟味される必要があります」。
「これはプロセスの終了ではありません。始まりです」とKing氏は付け加えました。

MITで国際政治を専攻し、MITがサウジ政府との関係を断ち切るべきと呼びかけた大学院生のNicolas Dumas氏は、このレポートが「信じがたいほど残念」であると言っています。
「このレポートが、MITがサウジと協働し、サウジ政府のPRキャンペーンに実質的寄与しつづけることの意味を真摯に検討するものであると期待していました。MITとの協働はモハンマド皇太子にとって驚異的なPR効果をもたらしていたからです」とDumas氏は言いました。
Dumas氏は、MITとサウジ政府がワクチンの研究などの共通の関心があることを否定しました。「ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が、子ども達にワクチンが行き渡ることに関心があるなどというのは嘘です。MITとサウジの間に共通の関心などありません。また、MITがそのように言及したことは残念です」。
「サウジ政府は明らかに、MITがサウジから得た助成の対価として、サウジ政府の地球上で最もおぞましい人権侵害の一部を見逃してくれると期待していました」とDumas氏は言いました。「そして彼らは正しかったのです。これには心から失望させられました」。

[Inside Higher Ed] (2018.12.7)
MIT Report Recommends Keeping Saudi Relationships

[Chronicle of Higher Education] (2018.12.6)
Saudi Partnerships Are Too Valuable to Give Up, MIT Report Concludes

[MIT News] (2018.12.6)
Report reassesses MIT's relationship with Saudi Arabia

なかなか難しいですね。大学当局が大人の判断をしたということでしょうか。

アメリカとサウジアラビアは持ちつ持たれつというか、基本的には相互依存の関係にあるので、敵対しない程度に緊張感を保ちつつお互いに協力しています。サウジアラビアの原油とアメリカのシェールオイルで原油価格と産出量でお互い綱引きをしながらもバランスを保ち、また一方で米国は、単一国との取引では最大となる1100億ドルの武器売買契約を2017年にサウジと結んでいます。同時に、サウジはイラクとイランと隣接し、さらにシリアとも距離が近く、アメリカの中東における軍事活動や対テロ作戦上極めて重要な位置にあります。アメリカとサウジは、イランと敵対しているという点で、利害が共通しています。
このように、サウジはアメリカの国益にとって極めて重要な国であるため、自由と民主主義の国アメリカからみると、サウジが女性差別や人権侵害、君主制、むち打ちの刑などの相容れない価値観を持っていても、敢えてその点は指摘せずに、お互いの関係を保っていました。これは、サウジ政府が女性の権利を訴える活動家数十名を拘束した際、カナダ政府がこれを公然と批判し、これが二国間の外交問題に発展したのとは対照的です。
しかしサウジとイランの代理戦争の様相を示すイエメン内戦が2015年に始まり、その過程で2018年8月にはスクールバスが空爆され数十人の児童が死傷するなどの人道的問題が起き、さらにはサウジ政府に批判的であったジャーナリストのカショギ氏がムハンマド皇太子の指示により極めて残忍な方法で殺害されたとなると、米国の世論において、米国がサウジに武器輸出を行うなど、これら非人道的な行為を支援するような行動を続けて果たして良いのかということが問われるようになってきます。
それでもトランプ大統領は当初、CIAがカショギ氏殺害におけるムハンマド皇太子の関与に関するレポートを提出してもなお、そのような事実はないと否定し、暗に武器輸出などの軍事援助を維持しようとしていました。しかし最終的には、議会による戦争権限法(War Powers Act)の発動により、サウジのイエメン内戦に関わる軍事援助は中止することとなりました。戦争権限法とは、アメリカのベトナム戦争等のときの反省から立法された、議会が大統領による軍事指揮権に制約を課すことができる法律です。45年前の1973年に立法化されたものの、これまで一度も発動されたことがなかったため、今回の発動は、「軍事介入の憲法上の根拠は米国議会にあり、ホワイトハウスにあるわけではないと米国大統領に対して示した歴史的瞬間」と評されました。

つまり、イエメンの内戦およびカショギ氏殺害により、米国のサウジに対する対応が蜜月から制裁へと転換したわけで、これは報道機関やサウジでビジネスをしていた米国企業、NGO、そして米国政府関係者などに、これまでのサウジとの関係に見直しを求めることとなりました。武器輸出を控えるとなると関係企業にはたちどころに影響が出ます。またNGOや政府機関など、紛争地域における人道支援を行っていた機関も、米国が国としてサウジに制裁措置をとるなか、活動の続行がサウジに利することにならないかの判断が必要となります。米国高等教育機関とサウジとの間にこれまで行われてきた学術交流は、イエメン内戦への軍事援助と直接の関わりはないはずですが、NGOや政府機関等と同様に、サウジに利する側面はないかの見直しが迫られました。

なお今回のMITのレポートに関する記事は、米国の大学によるサウジへの対応に関する初の公式見解であったため話題となりましたが、サウジと関係の深い米国大学はMITだけではありません。
たとえばマサチューセッツ州にあるBabson College(学生3000名規模の私立大学)は、Babson Globalという子会社を通じ、サウジ開発機関やムハンマド・ビン・サルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ財団、そして米・ロッキード・マーチン社とともに、Prince Mohammed bin Salman College of Business and Entrepreneurshipという1400名規模の男女共学の私立大学の設立に協力しています。最低2000万ドルがロッキード・マーチン社の武器輸出に関わるオフセット義務(offset obligations; 大規模な軍事契約の場合に要求されることのある、(軍事とは特に関係のない)付加的な資金提供)により支払われており、Babson Collegeは最終的に5220万ドル得ることとなっています。
ニューヘブン大学は、King Fahd Security Collegeにおいて4年制の国家安全保障に関わるセキュリティ専攻学位プログラムの設立について助言をすると2016年に決定しました。学内教員からの公式の反対声明を受け、またこのプログラム関係者がカショギ氏殺害に関与しているという疑惑が立っても、その疑惑を否定し、引き続き支援することの意義を主張しています。
ハーバード大学は、「これまでサウジ関係の個人の知的貢献により多大なる恩恵を得ている。最近の動きを憂慮しており、既存のプログラムに対する影響の可能性を評価している。サウジからの教員および学生は引き続き歓迎する」とChronicle of Higher Education紙からの取材に対して回答しています。
その他カナダ・オンタリオ州のAlgonquin Collegeもサウジにカレッジ設立支援を約束しましたが、教職員等の反対やその他多様な事情により頓挫し、当初2000万ドルの利益を得る予定が、逆に620万ドルの損失を生みました。

[Chronicle of Higher Education] (2018.10.25)
After the Killing of a Journalist, Colleges Confront Their Saudi Ties

[Chronicle of Higher Education] (2018.4.19)
Why a Saudi Prince's Visit to Harvard and MIT Drew Protests

[Inside Higher Ed] (2015.2.2)
Ethics of Engagement

[CBC] (2017.6.15)
Algonquin College took $6.2M hit on failed Saudi campus

このように大学間の学術交流は、軍事援助とは本来、関わりはないはずであるものの、それぞれのプロジェクトにおいて巨額の金額が動き、多くの場合ムハンマド皇太子との関係のもとで活動が行われているので、アメリカのサウジへの制裁措置を厳密に採るのであれば、相当グレー領域と判断されます。しかしそこはトランプ大統領が当初サウジへの配慮を示した対応をしたのと同様、米国高等教育機関も基本的には、サウジとの関係続行の判断をしています。「学術交流で関係しているのはサウジの善良な学生や研究者である」という理屈が盾にされており、それは無論そうなのでしょうけど、カナダ政府のサウジ批判に対して、サウジ政府がサウジ留学生等の引き上げという形で国として対応するのであれば、米国においても、学術交流取りやめという「国としての判断」も本来はあり得たと思われます。しかし、記事のタイトルの一つに「サウジとの関係は放棄するには大事すぎる(Saudi Partnerships Are Too Valuable to Give Up)」とあるように、MITが得ている金額だけとっても6年間で約80億円規模と考えると、そうそう簡単には協働をやめられません。またムハンマド皇太子などの要人が関わっているだけに、安易な判断は外交的トラブルにつながりかねません。

米国の大学は、海外からだけでなく、国内からも多額の寄付や外部資金の導入をしています。米国高等教育機関に対する2017年度の寄付総額は436億ドルだったそうです。寄付金獲得額トップ3大学は、ハーバード大学(12.8億ドル)、スタンフォード大学(11.3億ドル)、コーネル大学(7.4億ドル)です。寄付者は、同窓生(26%)、同窓生以外の個人(18%)、企業(15%)、財団(30%)、その他(11%)で、同窓生からの寄付が近年伸びているそうです。企業からの寄付は前年度の経済状況や税制免除等の条件に依存し、2017年には前年度から縮小しています。財団からの寄付は全体の3割を占め、しっかり根付いていることが分かります。

[Chronicle of Philanthropy] (2018.2.6)
Giving to Colleges Up 6% in 2017

米国の財団は、日本が財団についてイメージするような慈善行為として寄付をするのではなく、財団の目標達成に最も効果的なように、資金を投入します。それは助成というよりは、投資といった性格のものです。ゲイツ財団を例に見るように、巨大企業創設者が財団を設立している場合が多いため、財団といえども、その投資対効果については極めてシビアなのです。
たとえば、米国高等教育において最も深刻な大学授業料高騰と卒業率の低さ(4年制大学において、6年以内卒業率が6割程度です)という課題については、単に学資援助を提供するという方法ではなく、大学の卒業率を州立大学への運営費交付金の算定基準に組み込むパフォーマンスファンディング(PF)の導入に向けて財団が州政府に対して働きかけ、実際数十の州で導入するに至っています。また、PFの効果を測ったり、州政府間のPFの方法について調整を図るための中間団体(intermediary)を設立したり、関係のNPOを助成したりして、PFの効果を確実に行き渡らせようとします。

船守美穂「米国巨大財団の高等教育政策へのインパクト評価―初期的報告」第20回日本高等教育学会(2017.5.28)

このように財団が高等教育のあり方に関与してくることについては、米国においても賛否両論あります。上記の大学卒業率の向上については、州政府に現在体力がないため、また大学に任せておいても大学卒業率の向上のみをターゲットとした施策を展開するとは思われないため、ステークホルダーである学生やその家族の声を代弁する財団が強制力を働かせるのが良いという考え方があります。もともと米国は清教徒が英国から移住してきた時代、政府がほぼ機能しておらず、社会の課題を篤志家や財団等の団体に集約し、解決を図ってきたという歴史があるため、政府をつぶして財団等で社会を運営していくと良いという声が現在でもあります。
しかし一方で、アカデミアでもない財団がここまで口出しをして良いのか?という疑問の声は米国にもあります。実際、初等中等教育段階においては財団が横連携し、チャータースクールや全米標準テストを強力に推進し、生徒の学力目標を達成しない学校は、(その学校が貧困地域にあるなどの状況を考慮に入れないまま)閉校になるなどの施策を展開したため、恵まれない家庭の子ども達の教育が特に打撃を受けたと言われています。

ダイアン・ラビッチ「偉大なるアメリカ公立学校の死と生―テストと学校選択がいかに教育をだめにしてきたのか」協同出版 (2013/10)

米国の財団による高等教育への助成で近年、特に問題を指摘されているのは、コーク財団(Koch Foundation)です。コーク財団は、市場における自由競争や自由放任の資本主義の推進に特に傾倒している財団として知られています。近年高等教育への助成を急速に伸ばしており、2016年には250の大学に対して4900万ドルの助成をしています。これは2015年から47%の拡大です。
コーク財団との関係で大きく取りざたされているジョージメイソン大学は、2016年時点までに累積5000万ドルを得ているとされます。これらの助成の多くは同大学に付設されたMercatus Centerの経済学や法学の教員の寄付講座に対してなされています。
なおMercatus Center は、自由市場(free market)を研究するためのセン ターで、ジョージメイソン大学のキャンパスにありますが、大学とは独立したNPOとして設置されています。

情報公開請求により2018年5月に公開された、一連の寄付講座の約款において、たとえば教員人事の審査委員会のメンバーを財団が指定することができるなど、コーク財団が教員人事や教員評価に影響を及ぼすことのできる条項があったことが判明しました。財団が「学問の自由」を侵しているのではないかという教員や学生の懸念があながち間違いではなかったことが証明されたわけです。
大学当局は、教員人事等においてコーク財団からの過度な影響はなかったとしています。またこれら寄付講座の約款の多くはすでに契約期間を過ぎており、コーク財団はこれら契約が結ばれた時点では、こうした条項を盛り込むのが一般的であったとしています。しかし、財団の過度の影響を懸念するグループからは、この条項が動かぬ証拠として捉えられています。実際、UnKoch My Campusという活動団体が存在するほど、コーク財団の米国高等教育機関への干渉は強く懸念されています。

[Chronicle of Higher Education] (2018.5.29)
Undeterred by Criticism, Koch Foundation Increases Spending in Higher Education

[Inside Higher Ed] (2018.5.1)
Uncovering Koch Role in Faculty Hires

[TIME] (2015.12.15)
How the Koch Brothers Are Influencing U.S. Colleges

宮田智之「コーク兄弟(Koch Brothers)についての考察」東京財団政策研究所

サウジアラビアにしても、民間財団にしても、大学等に対する資金提供の規模が大きくなると、これら資金提供者が大学の「学問の自由」は尊重していると言ってもやはり、資金提供主体からの縛りは生まれます。高等教育が大衆化しつつある現在、こうしたアカデミア外からの資金提供とその影響はますます大きくなってくることが予想されますが、高等教育機関はどの程度、「学問の自由」といったアカデミアの独立性を維持し続けられるのでしょうか。
またこうした資金提供主体が、以下のサイエンス誌の記事に紹介されているように海外投資を通じて闇の取引を行っていたり、サウジアラビアのように人権侵害や人道上の問題が懸念されたりする場合、高等教育機関はこれら主体との関係においてどのような対応をすることが適切なのでしょうか。自分たちとは関わりのないところで起きていることだから知らぬが存ぜぬと主張し続けられるものか疑問です。

[Science] (2018.12.6)
Private research funders court controversy with billions in secretive investments

社会と大学の境が曖昧となっていく時代において、高等教育の性格が大きく様変わり していく予感がします。

船守美穂