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Swedish ISP fights back by blocking Elsevier.com

そこのあなた、待って下さい!
これは、あなたとelsevier.comの間の「壁」です!

本年10月10日、エルゼビア社は我々とその他6のスウェーデンのISPを告訴しました。我々の提供するインターネットサービスが、同社が著作権を保有するコンテンツの海賊版を提供するウェブサイトへのアクセスに、利用される可能性があるためです。エルゼビア社は海賊版サイトを阻止するのではなく、我々に対して、同サイトへのアクセスをブロックするか、あるいは50万クローネ(625万円相当)の罰金を払うよう、要請しました。

我々バーンホフ社は如何なる検閲に対して反対ですが、エルゼビア社のサイトブロックの要請をかわすことは出来ないようです。このため我々はこの「壁」をエルゼビア社のウェブサイトの前に置き、同社もサイトブロックがどのようなものかを感じられるようにしました。また皆さんに、今アクセスしようとしているサイトとそれを運営する組織がいかなる組織か、お伝えしたいと思いました。

スウェーデンのISP(インターネットサービスプロバイダ)である「バーンホフ社(Bahnhof)」は伝統的にフリースピーチに強く傾倒しており、腐敗していることで悪名高い巨大学術出版であるエルゼビア社がスウェーデンのISPに対して、(学術論文を違法で提供するサイト)Sci-Hubへのオープンアクセス接続を止めるよう要求した際、これに抵抗すべく、裁判を起こしました。

一方、スウェーデンおよび学術にとって残念なことに、「これまでも著作権の行き過ぎた要求に対して反対のアクションを取らなかった」スウェーデンの特許・市場裁判所(SwedishPatent and Market Court)は、エルゼビア社の要請を支持しました。
バーンホフ社は、資産を十分にもたない小さなISPであるため、上訴は見送ることとしました(より規模の大きい資産のあるISPが、同様の上訴で最近敗訴したばかりです)。

その代わりバーンホフ社は、Sci-Hubドメインへのアクセスをブロックするとともに、Elsevier.comへのアクセスをブロックすることとしました。Elsevier.comへアクセスする者は、エルゼビア社の退廃と恐喝(sleaze and bulling)が同社の学術出版の独占につながったこと、公的機関で働くボランティアが選択・査読・編集する「公的資金を得た研究成果」が有料の壁(paywall)のもとに置かれていることを説明するサイトにリダイレクトされます。

この恨みの込められたケーキのデコレーションとして、バーンホフ社は特許・市場裁判所から同社ウェブサイトへのアクセスをブロックすることとしました。裁判所から同社ウェブサイトにアクセスする者は、「特許・市場裁判所がウェブの一部はブロックされるべきであるとの判断をしているため、バーンホフ社は裁判所からのアクセスをブロックする」という説明にリダイレクトされます。

バーンホフ社CEOのJon Karlungは、「これはバーンホフ社にとって、最悪の結果である。裁判所の決定は、インターネットの精神に反する、恐ろしいもの(horrifying)である」と述べています。

[boingboing] (2018.11.3)
Swedish ISP punishes Elsevier for forcing it to block Sci-Hub by also blocking Elsevier

[TorrentFreak] (2018.11.2)
Swedish ISP Protests 'Site Blocking' by Blocking Rightsholders Website Too

なかなかやりますねえ。海賊版サイトへのアクセスブロッキングを要求し、さらにこの要求に応じない場合は罰金の支払いを求めるエルゼビア社もエルゼビア社ですが、それに対して、要求は飲みつつもエルゼビア社そのものへのアクセスをブロックしたり、特許・市場裁判所のバーンホフ社へのアクセスをブロックするバーンホフ社もなかなかのものです。
なお、スウェーデンはエルゼビア社との契約が本年7月以降切れていますから、スウェーデン国内からの海賊版サイトSci-Hubへのアクセスがおそらく集中しており、エルゼビア社はこれを阻止すべく、このような要請をしたのでしょう。また、スウェーデンはエルゼビア社とのナショナルライセンスが切れていることから、特許・市場裁判所としても、エルゼビア社の要請を認めるという判断となったのでしょう。

Sci-Hubは、ロシアの元脳科学者のAlexandra Elbakyanが、読みたい論文にアクセスできないことに業を煮やして立ち上げた、学術論文の海賊版サイトです。違法のため、エルゼビア社から起訴され、昨年6月には米国ニューヨーク地裁がサイトの恒久的な差し止め命令および、著作権侵害に関わる1500万ドルの損害賠償請求の判決を下しています。しかし、Sci-Hubは米国の法の及ぶところにはなく、その後も、サイトのIPを変更しながら、運営を続けています。

Sci-Hubは、使い易いこともあってか、多くの人が利用しており、2016年のScience誌の記事では、世界各国の研究者が利用していると紹介されました。出版社との購読契約がある機関からのアクセスも多数あります。また、Sci-Hubは違法であることは認識しつつも、大手商業出版社の高い購読料への対抗という観点では共感を得ており、私が先日参加した学術情報流通に関わる国際会議FORCE2018でも、"Thanks, Sci-Hub!"といった講演がありました。
[Science] (2016.4.28)
Who's downloading pirated papers? Everyone

海賊版サイトのブロッキングについては、日本においても政府が4月に「漫画村」などの海賊版サイトについて「短期的な緊急処置としてのサイトブロッキング」を要請したことが「通信の秘密の侵害」に当たるとの議論を呼びました。
もともと児童ポルノサイトをブロックする際に用いられた、「差し迫った危険を防ぐためほかに手段がない場合」の違法行為は処罰されない(刑法37条)という理屈が、3200億円の損害(なかには3兆円の損害との試算もあり)を出版業界に対して与えているという漫画の海賊版サイトにも適用されました。児童ポルノは、根本的に人権侵害であること、また対象となった児童がサイトを訴えるといった手段を持たないことから、サイトブロッキングがされることになりましたが、海賊版サイトが児童ポルノサイトほどの理屈を与えるのかどうかについて、疑問の声が上がっています。
今回のような、エルゼビア社によるサイトブロックの要請はどこまで正当なのか、スウェーデンあるいはEUでの法律ではどのような解釈になるのか、知りたいところです。
[Yahoo!Japanニュース] (2018.8.6)
「漫画村」ブロッキング――誰が、どんな経緯で動いたのか

(サイトブロッキングで防ぐかどうかは別として)海賊版サイトやニセモノは、設備投資をして生産活動をする生産者を打撃し、良質な商品が生産されるエコシステムを破壊するので、許されるべきではありません。それは我々研究者が執筆した論文を、誰かがパクって自分の論文として発表されたら憤るということと同じです。(一方で、ニセモノが出回ると、本物も売れるようになると元経産相の方のセミナーで聞いたことがあり、どうやら「ニセモノは本物にプレミアを与える」ものなので、あながち否定ばかりすべきものではないのかもしれませんが)。

Sci-Hubも勿論違法ですが、一方で、生産者である大手出版社の収益率が40%もあり、学術界が購読費を負担不能なまでに価格をつり上げていることことを踏まえると、生産者にばかり正当性があると言えないので、Sci-Hubの肩を持ちたくなります。
同様に、バーンホフ社にもエールを送りたくなりますが、しかし同社がエルゼビア社のサイトへのアクセスをブロックしたことなどは、さすがに違法ではないのでしょうか。ISPが自分の意志で、あちらこちらのサイトをブロックするようになったら、それこそ「インターネットの自由」に反すると思います・・・。

同時に、エルゼビア社との契約が200機関ほど切れているドイツのISPに対しても、エルゼビア社が同様のサイトブロッキングの要請を現在しているのか、気になるところです。まだ200機関であり、全機関ではないので、エルゼビア社ももしかしたらまだ、そこに踏み込むことは出来ていないのかもしれませんが。

船守美穂