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Unconditional offers made to quarter of applicants at UK Universities

英・大学入学サービス(UCAS, Universities and Colleges Admission Service)が行った調査により、イングランド/ウェールズ/北アイルランドの18歳人口の大学入学志願者のうち、少なくとも1つの無条件入学許可(unconditional offer)を得た学生は58,385名、全体の22.9%を占めることが判明しました。英国の大学が2018年に出した入学許可のうち、無条件入学許可は67,915件で、全体の7.1%を占めます。

無条件入学許可を得た学生は、2013年には2,570名で、全体の1.1%のみでした。しかし無条件入学許可を得る学生は年々拡大し、2017年には45,385名(17.5%)、2018年には2017年比で約3割増の58,385名(22.9%)となりました。無条件入学許可を得たコースを第一志望(selected as firm)とする学生も年々拡大し、2018年には42,100名に上りました。これに、無条件入学許可を第二志望(selected as insurance)として選択する学生9,185名が加わります。

イギリスでは2012年に大きな制度改革があり、大学における入学定員の制限が緩められ、また授業料設定の上限も前年までの3千ポンドから3倍の9千ポンドに引き上げられました。大学にとっては、可能な限り多くの学生を入学させるインセンティブが高まりました。一方で、大学入学者の獲得競争が激化し、今回のような無条件入学許可の拡大につながったと見られています。

イギリスの大学に入学するためには、志望する大学が指定する科目において、GCE(General Certificate of Education)のAレベルの試験で合格する必要があります。一方、UCASを通じた大学への出願はこの試験より前になされます。大学側はこのため、出願者の所属する学校が提供する「予測成績」に基づき、入学判定を行います。学生は大学から得た入学判定に基づき、志望大学を2つに絞り込みUCASに登録し、志望する大学の指定する科目のGCE試験を受け、また場合によっては大学がその他要求する面接なども受けます。所定の基準を満たすと、大学に入学できます。第一、第二志望の双方にあぶれた学生は、その後の調整措置があります。
(UCASは、イギリスにおいて大学入学志願者と大学とをつなぐ、大学出願総合窓口のような機関です。学生は最大5件まで出願が可能です。また正確には、入学希望の「大学」を指定するのではなく、大学が提供する「コース」を指定します)。

大学が出す入学判定は、①無条件入学許可、②条件付き許可(conditional offer)、③却下(rejection)のいずれかです。②の条件付き許可が最も一般的で、GCE試験に合格したら入学が許可されます。①無条件入学許可は、a)大学入学レベルの学力に達している成人学生や、b)特別の芸に秀でた学生、c)受験の過度のプレッシャーを和らげてあげる必要があるメンタルに問題のある学生など、限定した学生が想定されていました。

英・大学組合(UCU, University and College Union)は、無条件入学許可の拡大は学生に有害な影響をもたらすため、他国と同様、試験の結果に基づいて入学許可を出す方式へと転換する必要があるとしています。イギリスで社会階層と教育格差の問題を対象としているサットン財団の創設者Sir Peter Lamplは、「試験後の出願」方式が経済的に恵まれない家庭の学生が利する可能性を指摘しています。現行の、高校からの予測成績(grade prediction)に基づく大学入学許可では、経済的に恵まれない学生は成績が振るわず、不利益を被ることが多いそうです。

Sam Gyimah高等教育大臣は、大学が、学生を成長させること以上に、入学定員を埋めることに関心があるようであると指摘しています。学生局(Office for Students)とともに、無条件入学許可の数をモニターし、適切な対応を採るようにしたいとしています。無条件入学許可の乱発は、学生に対して全くもって無責任な対応であり、大学は自ら規制をする必要があるとしています。

これに対してポーツマス大学のGraham Galbraith学長は、同大学で出す無条件入学許可は、学生の大学へのエンゲージメントを入学前から高めるためのプログラムの一環である、と指摘しています。メンタルな問題を持つ学生が拡大し、同時に完璧主義と自己批判も高まっている時代において、無条件入学許可が与える安心は非常に重要な意味を持つとしています。また、無条件入学許可を得て入学した学生の学力が、一般入試による学生に比して低いというUCASの調査結果もあるものの、ポーツマス大学では、無条件入学許可を得て入学した学生が成績予測に到達した際、1000ポンドの奨学金を付与しているとのことです。

英国大学協会(Universities UK)のAlistair Jarvis会長は、無条件入学許可が95万件の入学許可のうちの7%しか占めないことを指摘し、大学側が、卒業の見込みの薄い学生も含めて、誰でも良いから入学させたいと思っているわけではないと反論しています。
高等教育政策研究所のNick Hillman所長は、大学が自身で入学ポリシーを定められないのであれば、「大学の自治(university autonomy)」の意味がないと指摘しています。また、大学入試改革により、試験後出願に転換した場合、入試の点数に過度の重点が置かれ、入学志願者の全人的ポテンシャルを見ることから外れるとも指摘しています。

※ なおスコットランドでは、独自のSQA Highersという成績が付与されてからの出願という方式のため、今回のUCASの分析の対象には含まれていません。

[Guardian] (2018.7.26)
Rise in unconditional offers prompts call for university admissions overhaul

[UCAS] (2018.7.26)
Increase in unconditional offers made to young people in England, Wales, and Northern Ireland

[UCAS] (2018.7.26)
Unconditional offers - an update for 2018

なんというか、日本がいつか通った道という感じですね。イギリスの無条件入学許可は、試験なしで入学を特別に許可される制度ですが、これに類するものとして日本には、推薦入試とAO入試があります。本来、多様な能力を有する学生を入学させるための入試の方式だったはずですが、大学にとっての学生の安易な囲い込みの手段となってしまった側面が色濃く、平成29年度入試では実に、入学者の44%が推薦入試またはAO入試により入学しています(国立15.5%、公立27.0%、私立51.4%)。これら推薦・AO入試により入学した学生の基礎学力が不足していると指摘する調査結果もあったことから、文部科学省では平成33年度大学入学者選抜において、「一般入試」を「一般選抜」、「AO入試」を「総合型選抜」、「推薦入試」を「学校推薦型選抜」へと改め、推薦・AO入試においても、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」が適切に評価される方向で改善の方向を示しています。

大学入試はいたちごっこのようなもので、一定期間を経ると必ず、その裏をかく学生や学校、塾産業などが出てくるので、正解はないのだろうと思いますが、それでも(いつも欧米に学ぶのではなく)日本の経験をイギリスと共有してみるのも良いのかもしれません。

文部科学省「平成29年度国公私立大学入学者選抜実施状況」(2017.12.1)

文部科学省高等教育局「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告について(通知)」(2017.7.13)

船守美穂