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US universities under COVID-19: Rise in application and decline in enrollment at US universities

レポート(6)の続きです)

米国の大学の学部入試ではコロナ下において出願件数が全般に伸びています。しかし大学進学率は、特にマイノリティにおいて、大幅に減少しているようです。

エリート大学への入学志願者急増

コロナ下においては多くの大学において、入学願書における標準テストの点数提示が任意となったため、難関校への進学しやすさへの期待感から、エリート大学への入学志願者が急増しました。

2021年度の早期出願において、ブラウン大学は22%、ペンシルバニア大学は23%、ダートマスカレッジは29%、コロンビア大学では49%も入学志願者数が前年度に比べて伸びました。イエール大学とハーバード大学の条件付き早期出願(restrictive early-action option)は、それぞれ38%と57%も伸びました。

早期出願においては、早い段階で進学先を確定したい学生が数多く出願したとみられています。2020年に開かれたオープンキャンパスのバーチャルイベントは、これまでのオンキャンパスイベントより学生を幅広く集めました。また、これまではエリート大学に出願しなかった、「高校での成績は優秀でも、標準テストにおいて振るわない学生」も今回はチャンスがあると見て、出願したとみられます。

[Wall Street Journal](2020.12.18)
Ivy League Colleges Report Dramatic Growth In Early-Admission Applicant Pools

打撃を受けるマイノリティ

エリート以外の大学においても、出願数は全般に伸びました。全米900校が利用する「共通出願システム(Common Application)」は、昨年度比で15%の出願数の伸びをみました。ユニークな出願者数の伸びは8%でした。

しかし、学生のタイプ別に分析すると、第一世代学生や低所得世帯の学生の伸びが少ないことが分かります。
第一世代学生(first-generation students)とは、世帯から初めて大学に進学する学生のことです。

【2020/21年度大学出願者数】

出願者数 前年度比
第一世代学生 253,441 3.6%
第一世代学生以外 675,257 10.2%
授業料免除学生 388,501 2.1%
授業料免除なしの学生 540,197 13.3%
全出願者(計) 928,698 8.3%

(出典)Common Application

また、連邦政府奨学金への申請(FAFSA, Free Application for Federal Student Aid)をみても、マイノリティの申請数が大幅に減少していることがわかります。
Title I適合学校(Title I-eligible schools)とは、学生の4割以上が低所得世帯の学校を指します。ハイ・マイノリティとは、学生の4割以上がブラックあるいはヒスパニックの学校を指します。

【申請者の学校タイプ別FAFSA申請率の伸び(2021.1.1現在)】

学校タイプ 前年度比
Title I適合学校 -14.7%
Title I非適合学校 -8.7%
ハイ・マイノリティ -17.0%
ロー・マイノリティ -6.8%

(出典)National College Attainment Network

[Higher Ed Dive](2021.1.14)
In a year without admissions tests, elite college applications balloon

大学進学率の大幅縮小

上述のように、大学の出願者数は、マイノリティも含め増加傾向にありますが、「高校卒業直後に大学進学」する学生の比率は、大幅に縮小しています。2324校の高校をサンプル調査したNational Student Clearinghouseの調査結果によると、大学進学率が全体で約22%減少しています。

貧困層や低所得層の学生の多い高校や都市部の高校において減少幅が特に大きく、3割近くの減少が見られます。大学別にみると、これら学生の受け皿となっていたコミュニティカレッジや私立非営利の大学が大きな影響を受けています。

高校卒業直後の大学進学率の前年度からの変化

2019秋 2020秋
4年制州立大学 -4.0% -13.8%
4年制私立大学(非営利) -5.9% -28.6%
コミュニティカレッジ 0.7% -30.3%

(出典)National Student Clearinghouse

パンデミックが始まった直後から米国の大学の多くは戦々恐々とし、感染状況が芳しくないにもかかわらず対面授業による新学期を約束したり、入学決定時期を遅らせたり、ギャップイヤーを許したり、場合によっては、オンライン授業のみにも関わらず、学生寮での居住を許したりしていましたが、その恐れは当たっていたと言えます。

[Higher Ed Dive](2020.12.10)
Far fewer recent high school graduates enrolled in college this fall: report

[National Student Clearinghouse]
High School Benchmarks 2020--With a COVID-19 Special Analysis

所感
――市場原理に晒された大学経営の厳しさ

厳しいですね。マイノリティの学生は現実的な判断をし、大学進学を見送っているのでしょうけれど、大学側にとってこれは授業料収入激減という形で直撃します。サンプル調査ではありますが、マイノリティの学生を多く受け入れていたコミュニティカレッジや非営利の4年生私立大学は3割前後の入学者減少を見ています。

米国の大学はリーマンショックの時の経験があるため、コロナ禍においても入学者、すなわち収入の大幅減を予見し、早い段階から様々な対策を打ってきました。教職員の募集停止や大学執行部を中心とした給料の削減、キャンパス内の工事の見送りなどを次々と決定しています。次号でご紹介しますが、人文社会科学系大学院生の募集停止にも踏み切っています。米国では大学院生に対して奨学金を提供することが一般的であるため、大学院生の存在はコストを意味するのです。

[mihoチャネル](2020.5.27)
コロナ下の米国大学(1):米国の2020年度大学進学者数、2割減か?

[mihoチャネル](2020.7.7)
コロナ下の米国大学(4):大学授業を物理開催しても訴訟の危険性?

リーマンショックの時は非常勤講師も多く雇い止めされました。このため、学部教育における科目の開講数が大幅に縮小し、学生は卒業に必要な必修単位を4年以内に履修登録することすらができず、在学期間が6年間以上になるなど、大きな不利益を見ました。大学授業料の高騰もあり、大学進学離れも起きました。大規模公開オンライン講座(MOOC)は、安価に高等教育を提供する手段として生まれたという側面もあります。

日本の大学についてもコロナの影響を受け、例えば、私学高等教育研究所の調査報告では、「入学者の減少や休学、退学等による財務の悪化」と「感染症対策による支出の増加」が、「新型コロナウイルス感染症による、大学の経営管理または財政への影響(Q23、Q28)」として多く挙がっています。しかし、今後の収入減を見越した大幅な経費削減策が打ち出されているようには、アンケートの選択肢や自由記述からは読み取れません。むしろ、「学費減免措置等の補填」や「オンラインのための機器や通信費等の補助」「感染予防設備の設置・購入補助」を8割の大学が国に対して求めています(Q24)。

○ 日本私立大学協会 私学高等教育研究所「新型コロナウイルス感染症に伴う大学経営管理上の対応に関する調査」(最終報告書)(2020.9)

日本においては、私立大学も含め、高等教育が社会資本の一部であるという認識がまだあるのでしょう。国からの何らかの補助を少しは期待できないでもない空気があります。米国の高等教育は、州立大学を含め、市場競争の中に投げ出されており、連邦政府や州政府があてにならないため、なりふり構わぬ収支の帳尻合わせがおきます。自由競争は良い側面もあるのでしょうけれど、弱者の犠牲の上に成り立つと問題が大きいように感じます。米国の大学では非常勤講師やマイノリティなどの学生、これらを多く受け入れ教育していたコミュニティカレッジなどにコロナ禍の影響が強く出ています。

高等教育は、学生が影響を被るほどには市場競争に委ねられてしまってはいけないと思うのですが、いかがでしょうか。

レポート(8)へ続く)

船守美穂