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Elsevier willing to pay compensations for editors to stay

プランSの実施が急速に現実味を帯びるなか、一部の大手出版社学術雑誌の編集委員会では、読者が出版コストを負担する講読モデルから、論文著者が費用負担をするOAモデルに転換することを検討しています。エディターがこのように〔OA誌へと〕逃げ出すのを防ぐため、エルゼビア社は相当の額を毎年払う用意があるようです。
2018年も終わりに近づき、大手出版社はOAを求めるプランSにどのように対応するかを判断しなくてはいけなくなっています。エルゼビア社は学術雑誌のOAのクローンを急ぎ作ったものの、今度はエディターが、学術雑誌の完全OAへの転換を希望し、出版社を去ると言い出しているため、再び対応を迫られています。
エディターのこうした動きを防ぐため、エルゼビア社はなんでもする用意があるようです。ScienceGuideでは確かな情報筋から、この出版の大御所がエディター慰留のため、数万ユーロを毎年払う用意があるという情報を入手しました。

プランSの予想外の展開

少し前に、OA転換の方法を示した、プランS実施のためのガイドラインがCoalition Sにより発表されました。これに誘発され過去数ヶ月、一連の名の通った学術雑誌が、この新しい方式に適合するためにクローンの雑誌を創設しました。先駆的だったのはWater Researchという学術雑誌で、一晩でオリジナルに対応するOA雑誌Water Research Xを創設しました。編集委員会はオリジナルとクローンで完全に同一で、またIF(impact factor)も両誌同一とされています。こうしたハイブリッドな対応がプランSに適合するかは現在議論されているところですが、出版社が生き延びるためにあらゆる策を弄していることは確かです。
一方でエディターは、一般的には無償で行われる自分達の労働をこれまでの出版モデルに提供するのが良いのか、それとも自分達が監修する学術雑誌を完全にOA雑誌へと転換した方が良いのかを思案しています。つまり、読者が出版コストを負担する「購読費ベースの出版モデル」ではなく、他の出版社の提供する「著者負担の論文投稿料(APC)ベースの出版モデル」に移行するか、もしくは「出版社を全く介在させないで出版」を行うかです。実際、これはLinguaという学術雑誌―それに加えて3つの他の雑誌―の編集委員会がしたことです。Linguaは2016年にGlossaという、新しいOA学術雑誌に移行しました。

報酬は例外であり原則ではない

学術雑誌の権威とインパクトは、論文著者と読者が寄せる、編集委員会への信頼に依存します。編集委員会は、当該学術雑誌が外の世界に意味あることを証明するための、信頼を与える立役者達です。こうした仕事と引き替えに、エディターは一定のポジションと権威を得ることになります。
学術雑誌のエディターが、給与はおろか、謝金すらも滅多に得ないということは、アカデミア外の人々をこれまでずっと驚かせてきました。エディターであると、国際会議に無償で参加できたり、豪華な施設で素敵なディナーやミーティングに参加できるという特権が時にありますが、エディターとしての仕事について報酬を得ることは稀です。
ScienceGuideは確かな情報筋から、エルゼビア社がエディターの心を揺さぶるために、毎年数万ユーロを支払うと聞きました。現在複数の学術雑誌の編集委員会が、自身の学術雑誌を購読ベースのモデルから完全OAモデルへと転換しようと動き始めています。

エルゼビア社にとっての大変な一週間

エルセビア社がこれほどの報酬を支払う用意があるというのは、編集委員会のレピュテーションを彼らが重視している、ということ以上のことを意味しています。どういうことかと言うと、エルゼビア社が、他の大手出版社と同様、それを支払うだけの余裕があるということを意味します。2017年にエルゼビア社は10億ユーロ以上の利益が36.8%の利益率であり、これはつまり同社が、同社2500誌の8万名のエディターの報酬を負担できるということです。
2018年の幕引きを前に、エルゼビア社は2019年が厳しい見通しとなるニュースに次々と見舞われました。カリフォルニア大学は12月12日に、同社との契約を2018年末限りで失効してもよいと発表しました。さらに、マックスプランクディジタルライブラリーは2019年からの契約更新をしないと発表しました。ハンガリーEISZコンソーシアムは、2019年契約に向けてのエルゼビア社との交渉をやめたと発表しました。

[ScienceGuide] (2018.12.20)
Elsevier willing to compensate editors to prevent them from 'flipping'

学術雑誌がOA誌に転換しないようにエディターに報酬を支払うというのは、なんとも姑息ですねえ。。。エディターの仕事が報酬を伴うか否かと、学術雑誌がOAであるか否かは、全く別の問題ではないですか!学術雑誌がOAであろうとなかろうと、エディターは無償で仕事をしていても良いはずです。報償をもらうことによって学術雑誌がOAに転換しないことを約束するというのは、エディターが袖の下をもらってそのような忖度するのと同じことかと思います。しかし、そう思われる可能性があってもなお、出版社としてはOA誌になることを阻止したいと思っているのでしょうね。

学術雑誌の編集委員会は、プランSの動きを受けて、購読誌からOA誌への転換を検討しているようです。個人的予測としては、プランSが発効する2020年を過ぎてから、研究者の投稿の動向(つまり、購読誌ではなくOA誌により投稿するようになるなど)を見定めて、学術雑誌としての検討と判断がなされるのかと思っていましたが、意外と早い対応です。まあエディターの立場になってみれば、自分がプランS該当の国の研究者であった場合に、自分や自分の所属する研究グループが投稿できない学術雑誌のエディターを務めているというのは、なんとも不毛な話です。普通は、自分が関わりあるコミュニティでエディターを続けたいと思うでしょう。その意味でプランSは、欧州・中国vs.米国・その他諸国の分断を論文投稿においてもたらすだけでなく、編集委員会レベルでもその分断を巻き起こされる可能性があります。つまり、学術の価値基準(=論文の採択基準)が、欧州・中国のものと、米国・その他諸国のものと、二つの軸を持つことになりそうです。

とはいえ、本当にそのような分断が起こるのか?カリフォルニア大学やMITも、欧州と同じPublish and Readモデルの契約を求めているようなので、そこに至る前になんらかの融和等の動きがあるのかもしれません。
なお今回紹介した記事におけるカリフォルニア大学の情報は、2018.12.13付けの以下の記事に基づいており、ここでは、「カリフォルニア大学はエルゼビア社に対してPublish and Readモデルに類する契約の交渉をしており、同社からそれに準ずる提案がない場合はキャンセルの用意がある」という表現をしており、この段階ではまだキャンセルには至っていません。また、2019.1.7現在で両者の交渉がどのように決着したかのプレスリリースはなされていないようなので、どのようになったのかは分かりません。
ちなみにUCLAは、交渉が「明確に生産的な方向で動き出すまで」、エルゼビア社の出版する学術雑誌の査読は引き受けないように、また可能な限り論文投稿もどこか別の出版社のOA誌を検討するように、同大学の教員に対してレターで呼びかけています。教員を盾に、エルゼビア社と交渉をする構えです。このように教員を盾とした交渉をすること、また大学当局が教員に対して論文の投稿や査読について指示するレターを出すことは、米国的な常識でも異例です。
なおUCSFは、大学図書館と教育・研究評議会(Academic Senate)が共同で、エルゼビア社との交渉の背景と成り行き、交渉決裂した場合の影響、このような交渉をする意義について文書で示し、またタウンホールミーティングの開催通知を出しています。日本でいつか同じような状況になったときに参考となる文面です。

[Inside Higher Ed] (2018.12.13)
Heavyweight Showdown Over Research Access

[Chronicle of Higher Education] (2018.12.12)
In Talks With Elsevier, UCLA Reaches for a Novel Bargaining Chip: Its Faculty

[UCSF] (2018.12.7)
Possible Impact of the UC Journal Negotiations with Elsevier

2019年は学術雑誌のオープンアクセス関係で色々な動きが出てきそうです。

船守美穂