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Stanford drops home equity from student aid calculations

スタンフォード大学は、住宅資産を外す方向で、学資援助の計算方法を変えます。住宅は所有(house rich)していても現金は少なく(cash poor)、大学進学は手に届かないとみなす家庭がいることに配慮してです。
スタンフォード大学が、ハーバード大学やMITと共にするこの動きは、土地価格の高い地域に住む家庭にとって朗報です。米国の全ての大学が住宅資産を学資援助の計算に入れているわけではありませんが、これを入れている大学においては、学生が得る学資援助パッケージが劇的に変わることがあります。シリコンバレーやシアトル、デンバー、ダラスでは10年前の住宅ブームから、住宅価格のメジアンが30%から70%に上昇しました。つまり、控えめな所得の家庭でも、学資援助の適用外となるような家に住んでいる可能性があるということです。

スタンフォード大学は、学生獲得のために特別のオファーをちらつかせる必要はない大学です。現一年生でも、志望者の4.4%しか入学できていないのです。しかし大学当局は、授業料の値段で学生に大学進学を断念させることはしたくないと言っています。スタンフォード大学は今年から、進学者数等の数字を公表しないと言っています。
これまでスタンフォード大学は、15万ドル以上の所得を持つ家庭について、住宅資産がある場合は所得を1.2倍に見積もっていました。たとえば100万ドルの資産価値がある住宅に住み、25万ドルの所得がある家庭は、30万ドルの所得があるとみなされます。

住宅資産の約2~12%を大学費用に充てることを大学は概ね期待している、と学資援助の専門家は言います。5%が一般的な数字ですが、30万ドルの住宅資産があるとみなされる家庭は、年間1.5万ドル負担することを計算に入れなければいけません。「高い土地価格の地域に住む10~15万ドルの所得の家庭は特に苦しいです」と、大学からの学資援助の予測計算をする大学比較ウェブサイトEdmitの共創設者であるNick Ducoff氏はいいます。これだけの所得のある家庭は、学資援助を提供するNPOの奨学金の対象外です。このためこの所得帯の家庭に5万ドルの授業料は、負担不能と感じられます。
スタンフォード大学は、年収6.5万ドル以下の家庭に対しては既に、何の負担も求めません。年収12.5万ドル以下の家庭に対しては、授業料を免除しています。ハーバード大学やその他の一握りのエリート大学も同様の基準を有しています。

連邦政府学資援助への申請(FAFSA; Free Application for Federal Student Aid)では、学資援助パッケージを計算する際に、居住している住居資産は計算に入れません。また多くの大学は、この連邦政府の計算方式のみを利用しています。なおこの申請書では、他者への賃貸物件および別荘の情報は要求します。
米国における254の大学は、大学からの学資援助額を決めるために、学資援助申請者にカレッジボードのCSS Profileを埋めることを要求します。CSS Profileには、居住住居資産に関する質問項目があります。

MITは10万ドル以下の所得の家庭についてはもう長年、住宅資産を計算に入れていませんでした。2014年にはその基準を15万ドルに引き上げ、2016年には計算から完全に外しました。ハーバード大学も居住住宅資産については計算に入れません。イェール大学は〔学資援助を得るには〕住宅資産評価額が世帯の総所得の3倍以内でなければいけないとしており、ブラウン大学も住宅資産を計算に入れています。ニューヨーク州トロイにあるRensselaer Polytechnic Instituteなど一部の大学は学部生からの申請において住宅資産を100%計算に入れます。
ロスアンジェルスのOccidental Collegeは、所得が12.5~18万ドルのカリフォルニア州の家庭について、最大100万ドルまでの住宅資産を計算から外すパイロットプログラムの3年目にあります。「この問題は、学資援助の適用対象にはならないが、授業料の定価は負担できないミドルクラスの家庭において、毎回指摘されていました」と学資援助ダイレクターのGina Becerrilはいいます。

[The Wall Street Journal] (2018.12.8)
Stanford Drops Home Equity From Financial-Aid Calculations

[Inside Higher Ed] (2018.12.17)
Should Colleges Consider Home Equity?

なるほど。たまたま土地が安い時代に持ち家を所有することになり、一方で土地価格が自然に上昇してしまい、中間所得の家庭では大学が手に届かない存在となってしまっていたということですね。
まあ住宅資産を所得計算に組み込まないことによって、エリート大学が少しは手に届くようになるのかもしれませんが、スタンフォード大学は大学授業料も下宿代もそもそもが高いわけですから、余裕が少しできたと言っても、そこまで無理してスタンフォード大学に行くでしょうか?アメリカには優れた大学が他にもたくさんありますし、アメリカは親元から通うというよりは寮や下宿して大学に通うのが一般的ですから、所得の面でぎりぎり無理してスタンフォード大学に入るより、学資援助面でより条件の良い同水準の大学を選ぶでしょう。このような施策が発表されても、大学側が中低所得層の家庭にも配慮しているというポーズを採っているようにしか見えません。

米国は大学授業料が高いため、学資援助をもらいながら大学に進学するのが当たり前になっています。学資援助は、一カ所からもらうのではなく、連邦政府、州政府、大学、その他団体(企業、財団、NPO等)など複数からかき集めるのが一般的です。しかもそれぞれから奨学金あるいはローンとしてもらい、一つの機関から、一部は奨学金として、一部はローンとして得ることもあります。無論、返済の必要のない奨学金の比率を最大限高めるべく努力しますが、足りない分はローンとなります。そしてこの学資援助の組み合わせは、自分の大学における学年により変わることもよくあります。たとえば途中からアルバイトをし、ローンは減らしたり、成績が良いため大学からの奨学金の比率が多くなったりなどです。
以下の留学サイトに、米国学生や留学生が大学進学費用をどのような学資援助の組み合わせで賄っているかの事例が挙げられていますが、これほど多くの種類の学資援助を組み合わせていたら、どこまで何を返済したのか分からなくなることは、想像に難くありません。

栄 陽子留学研究所ウェブサイト
「返済不要!留学生が知っておくべき奨学金あれこれ」

米国の連邦政府奨学金の申請書(FAFSA)は複雑で分かりにくいことで悪評高く、これを簡素化する圧力が社会や財団、NPO、議会など色々なところからかかっています。実際にこの申請書を見ると、学資援助をもらいたくなくなるほどたくさんの、細かい事項と数字を要求されます。結婚/再婚の有無とその年月日、出身州、犯罪歴の有無、親の学歴、自分の学歴、奨学金受給時に進学予定の学年、当該年度に取得可能性のある学位、ワークスタディに該当するか。そして家計の状況については、収入や受給している各種の手当てに加え、貯金残高、保険、投資などの保有資産、その他得ている学資援助や社会福祉活動による収入、世帯における軍関係者の収入などを、1ドルの単位まで聞かれます。各種手当てには、児童手当や扶養手当、年金まで入っており、奨学金を受給する学生があらゆるライフステージにあることが想定されていることが理解されます。
米国は、(所謂高卒18歳入学ではない)ノントラディショナル学生が学部生の7割以上を占めると言われているので、その分項目が複雑となるのでしょう。親が子の進学をサポートする場合も、同じだけの項目を聞かれます。確定申告をする以上に大変な作業です。紹介した記事に言及のあるカレッジボードのCSS Profileは、FAFSAより更に細かい事項を聞くとのことですから、本当に大変です。
なお日本学生支援機構の奨学金申請書は、ここまで大変ではなく、家計の状況についても主として家計を支えている人と従の人について、収入と各種手当てについて聞いている程度です。日本は世帯や学生のあり方が米国ほどには多様化していないこと、州ごとの制度の違いがないこと、社会奉仕活動等に関わる減免制度がないこと、保有資産については問わないことなどが背景にあると考えられます。

米国の連邦政府奨学金の申請書(FAFSA; Free Application for Federal Student Aid)

日本学生支援機構
「平成31年度大学等奨学生予約採用 申込関係(様式集)」

一人の学生が多数の学資援助を受給すること、制度がそれぞれに複雑なこと、そして卒業後も十分な収入の職に就けない場合もあることから、米国では学資援助を返済できず、デフォルトすることも多いようです。特に二年制のコミュニティカレッジではその可能性が増します。
現在、大学授業料高騰対策としてコミュニティカレッジ無償化を推進する州が拡大しており、カリフォルニア州では2019年度から就任予定の州知事ニューサム氏が「ゆりかごからキャリアまでの教育支援」を掲げ、更に最近では、コミュニティカレッジの無償化の期間を1年から2年にすると発表したばかりです。しかしこの無償化施策に連邦政府学生ローン制度への参加が義務づけられていたことから、学生のデフォルトを恐れ、施策に参加しないとする加州コミュニティカレッジが続出しています。曰く、学生が連邦政府の学生ローンでデフォルトになる割合が30%以上になることにより、連邦政府の〔返済義務のない〕奨学金の受給資格をコミュニティカレッジが失うことを防ぐためとのことです。
この施策を推進する立場にあるカリフォルニア州コムニティカレッジの機構は、コミュニティカレッジが連邦政府学生ローン制度に参加しないことにより、学生は高金利の民間金融からローンを借り入れなければいけなくなること、デフォルトを恐れると言っても、学生に返済の必要性をきめ細かく連絡することで、デフォルト率は大きく下げられるという実績があることなどを主張していますが、学生を預かるコミュニティカレッジ側の意志は固いようです。

[Inside Higher Ed] (2019.1.3)
Skipping Free College and Federal Loans

[Inside Higher Ed] (2019.1.7)
Push to Expand Free Community College in California

[The Institute for College Access & Success, TICAS] (2016.6)
States of Denial Where Community College Students Lack Access to Federal Student Loans

先日、ある地方都市の高校関係者と話をしたところ、以前は何が何でも学資援助をもらって大学進学をした方が良いと高校生に勧めていたものの、近年、卒業生がデフォルトする割合が極めて高いことが認識され、大学進学を勧める前に、学生の将来のヴィジョンを十分に確認するようになったそうです。実際、日本学生支援機構の奨学金受給率(大学+短大)は、H10年度の10%から急成長したものの、H25年度の39%をピークに継続的に微減するようになり、H28年度には38%ぐらいになっているようです。

日本学生支援機構
「日本学生支援機構について(平成30年3月)」P10

大学進学率が6割近い57.9%(2018年度)となり、2.6人に1人が学資援助を得る現在、これを返納できない層が一部でてきてもおかしくないです。また、国の施策としては大学進学率拡大があったとしても、個人の選択としては、「自分に大学が負担可能か」「無理をしてでも大学に行った方が、より良い未来が開けるか」の判断に意味ある層が生まれてもおかしくない時代になったと思われます。

船守美穂