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China to pledge support for immediate OA of research publications

助成した研究から生み出される学術論文の即座OA義務化を2020年以降求めるという、欧州研究助成機関の「プランS」の具体的なガイドラインが発表されたことを先日、報じたばかりですが、こうした学術雑誌の2020年までのOAへの転換(OA2020)を各国代表で議論していた第14回ベルリンOA会議において、中国の代表がプランSの考えに賛同した(pledge support)というニュースが舞い込んできました。中国の図書館と研究助成機関関係者が、公的資金を得た研究成果について即座OAにするという意思表明をしたそうです。

中国がいつ即座OAに向けて対応をとるのか、またプランSの詳細項目の全てを採用するのかは未だ不明です。しかしプランSを起草したRobert-Jan Smits氏は、中国の意思表明はプランSの強力な支持につながるとしています。「これはOA運動が世界に拡がる上で、極めて重要なステップです」とSmits氏は述べています。「中国がわれわれのプランを賛同する方向で検討していることは知っていました。しかしこんなに早く、そしてこんなに一致して(unambiguously)賛同したというのは、大きな驚きです」。

中国科学院文献情报中心(National Science Library, NSL)、国家科技图书文献中心(National S&T Library, NSTL)、そして国家自然科学基金(National Science Foundation of China, NSFC)3機関のポジションペーパーにはどれにも、「我々はOA2020イニシアティブのリクエストとプランSの要求をサポートする。つまり、公的資金を得たプロジェクトから輩出された学術論文を可及的に速やかに出版後即座OAに転換することことを目標とし、その目標達成に向けて幅広い、柔軟かつ包括的な措置を採る」とあったそうです。
また、「学術雑誌を購読料ベースからOA出版に転換するにあたり、出版費用が上がらないことを出版社に要求する」とあったそうです。

中国政府は今後、中国の研究助成機関、研究機関、学術系図書館に、公的資金を得た研究成果を可能な限り早く共有・アクセス可能とすることを要請する、と中華人民共和国科学技術部内にあるNSTL戦略企画委員会の座長であるXiaolin Zhang氏は述べました。Zhang氏は、NSFC、NSTL、NSLの3機関とも、研究成果を出版後即座にOAとするという政府からの要請を支持しており、この政策実施も速やかになされる予定であると述べました。

それとともにZhang氏は、中国がOAにあまり関心がないという見方は誤っていると独・マックスプランクが主催するOA2020会議の場で述べました。中国の研究助成機関および研究機関は2014年からすでに、研究者が研究論文をOAで出版し、著者最終稿をオンラインでオープンにすることを推奨かつ助成していました。

しかしそれでも中国からの研究成果の多くは、購読誌のもつ有料の壁(paywall)の後ろに閉ざされています。「NSFCは中国が国際学術誌に出版する論文の約7割を助成しています。しかしこれらを中国は高値で買い戻さなければいけません」と彼は言葉を継ぎました。「これは純粋に間違っています。経済的にも政治的にも」。

Zhang氏は会議の席で出版社に対し、即座OAへの移行契約に向けての交渉を中国の図書館コンソーシアムとすぐに開始するよう呼びかけました。いくつかの欧州諸国の図書館コンソーシアムが結んでいる「read and publish agreements」は、購読料の一部を負担するとともに、著者の論文投稿料を負担することで、契約をした機関の研究者が自身の研究成果をOAで出版することを求めます。

中国の動きに対する周りの反応

購読料負担型の学術出版をやめるという中国のコミットメントは、会場にいた出版社を驚かせました。「中国がこの件について意思表示をしたのは、私の知る限りこれが初めてである」と、シュプリンガー・ネイチャー社のCEOであるDaniel Ropers氏は述べました。「中国においてOA問題は欧州や米国ほど緊急の問題ではないという認識でした。今回の意思表示が本当なら、われわれは前向きに中国と検討したいと思います」。

Roper氏によると、シュプリンガー・ネイチャー社はすでに多くの多様なOA雑誌を出版しており、これを科学のあらゆる分野に拡大したい考えです。しかしネイチャー誌を含め、極めて権威の高い購読誌(highly selective subscription journals)をプランSに適合させるには、実行可能な解決策を見いだす必要がまだあります。

プランSは現状では2020年以降、研究者が購読誌など有料の壁の向こうに論文を出版することを禁じます。著者最終稿を自由な出版ライセンス(liberal publishing license)で出版直後にOAにすることができれば、それは引き続き可能ですが、このようなライセンスを付与する購読誌はほとんどありません。多くの購読誌はOAオプションを提供するハイブリッド雑誌ですが、プランSではこれら雑誌が一定の条件を満たさないかぎり、ここに出版することは許されません。これは2023年にレビューされる予定です。

近々、2つの欧州外の国がプランSに加わる予定であるとSmits氏は述べました。Smits氏はまた、米国の研究助成機関にも参加を呼びかけています。現在米国でプランSに署名しているのは、健康医療系の民間財団であるゲイツ財団のみです。

会議に参加していた研究者の一部は、このような変化が研究評価と自身のキャリアにどのような影響を及ぼすのか心配であると述べました。「我々はオープンサイエンスをとても好ましいと思っています。しかし高品質の学術雑誌に出版することは、我々のキャリアにおいて極めて重要(crucial)です。ネイチャー誌やサイエンス誌への出版を禁じられたら、学術における価値基準が大きく揺らぎます(totally change the equation)」。

[Nature] (2018.12.5)
China backs bold plan to tear down journal paywalls

[Nature] (2014.5.20)
Chinese agencies announce open-access policies

中国が動いたか!という感じですね。日本からOA2020の会議に参加された方によると、会議はこの話題で持ちきりだったそうです。中国は論文数においては米国を抜き世界一(2016年実績)と今年1月に報じられたばかりですから、中国がプランSに類する政策を実施すると、大きな影響があるはずです。プランSは基本的には完全OA雑誌への投稿に誘導するものですから、現在は全体の15%程度であるOA雑誌に投稿が集中し、その後、論文出版数が減少した雑誌がOA雑誌に転換するという動きが起こると思われます。英仏を含む欧州十数国のみではなく中国が加わったことで、この動きは大きく加速するでしょう。
前回のレポートにおいても指摘したように、日本は論文投稿料を機関補助する仕組みがないので、数十万円する論文投稿料を必要とするOA雑誌が世界の主流となった場合、研究者が論文投稿料を負担しきれず、論文生産数が減少する危険性があります。早急に手を打つ必要があります。

論文投稿料を機関補助する仕組みとしては、1)プランSのように、研究助成機関が補助する仕組みと、2)大学内で補助する方法とがあります。
英国ではすでに2013年から研究助成機関が論文投稿料を、研究の直接経費とは別枠で、補助する仕組みがあります。2016/17年度実績で約1万本に対して20~30億円が負担されています。これはある試算によると、日本で現在必要とされる額と概ね同程度です。現在日本の論文でOAなのは約3割なので、これが100%OAとなったとしても100億円程度あれば良いということでしょうか。
大学内で補助する場合、理想的なのは、OAになり不要となった学術雑誌購読料を論文投稿料に振り替える方法です。多くの大学はこれで賄えるはずですが、一部の論文生産量の大きい大学については、必要となる論文投稿料の方が、現在負担している購読料の規模より大きくなってしまいます。また、理想的には学術雑誌がOAになるにつれ購読料が減っていくことですが、そのようにスムースな移行契約が実施初年度から可能かは微妙なところです。初めのうちだけ、移行契約を可能とするための呼び水的経費があっても良いと思われます。大規模大学の足が出る分と、移行期に必要となる呼び水的な経費だけでも研究助成機関やその他財源から負担されると、日本の研究力を維持できる可能性があるような気がします。

なおこの記事の最後に、プランSに対する研究者の懸念が述べられています。プランSが発表されて以来、多くの研究者が、プランSがOA雑誌への投稿を強制し、旧来から権威あるハイブリッド雑誌への投稿を明示的に禁じるため、該当する国の研究者の多くがプランSを「学問の自由を侵すものである」と批判してきました。
一方、こうした「プランS」反対の声を諫める記事が、中国の動きが報道される前日、ネイチャー誌に出ました。「研究者たちが、有料の壁を終了させるためのプランSを支持する声明(petition)に署名」という記事です。
この声明では、「学術は、世界の万人からアクセス可能になって初めて、その真価を発揮する」ことを確認した上で、研究助成機関が学術論文をOAに転換することを可能とするユニークな立場にあること、研究助成機関によるこのような強制力が一時的には研究者の論文投稿先を制限するものの、最終的には研究者が真に大事にしているもの、つまり、「我々の学術とその価値を、研究コミュニティと社会に広く届けること」につながるとしています。
ちなみにこの声明を起草したのはUCバークレーのMichael Eisen教授(計算生物学)です。以前からOAを強く求め、世界初のOA雑誌PLOSを創刊したメンバーの一人です。現在、この声明にはすでに1700以上の署名が集まっています(2018.12.7現在)。

[Nature] (2018.12.4)
Researchers sign petition backing plans to end paywalls

Open Letter in Support of Funder Open Publishing Mandates

何はともあれ、世の中は急速に学術論文がOAとなった世界に向けて動いています。学術は広く共有された方が良く、インターネットによりそれが可能となったのだから、その可能性を追求するに越したことはありません。これは高い購読料により学術論文へのアクセスを阻まれることへの対策にもなります。学術雑誌がOAになると、購読料の代わりに論文投稿料を研究者が負担することになりますが、冊子体の時代のレイアウト・印刷・流通・販売・在庫管理の負担が極小化されているはずなので、学術出版をトータルでみたら、コストダウンになると言われています。
世界がデジタル時代に適合した学術出版システムの構築に向けて共同歩調を取ろうとしているようです。

船守美穂