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Massive Open Online Courses under the Pandemic

世界の学習者に高等教育を無償で届けるという「大規模公開オンライン講座(MOOC)」は2012年、ハーバード大学やMIT、スタンフォード大学などといったエリート大学により開始され、一世を風靡しました。しかしその後、世の中に定着すると、高等教育ニュースなどで報じられることが少なくなりました。新型コロナウイルス感染症拡大のパンデミック下でも、MOOCに関するニュースを目にすることはあまりありませんでした。

2021年6月末、オンライン教育プログラムを提供する教育テクノロジー企業「2U」が、MOOCプラットフォームである「edX」を買収したというニュースが駆け巡りました。「edX」は、MITとハーバード大学が開始したMOOCプラットフォームで、スタンフォード大学教員2名が開始した「Coursera」と並び、MOOCの一大ブームを作った老舗のプラットフォームです。営利団体として設置された「Coursera」に対して、「edX」は非営利団体として設置され、「教育の民主化」という公共の利益を追求していることに特色を有していました。

今回はこの事件を紹介しながら、MOOCのその後を紹介していきたいと思います。

2U、edXを買収

オンライン教育企業2Uは2021年6月29日、ハーバード大学とMITが創設したオンライン学習プラットフォームedXを8億ドルで買収の予定と発表しました。両者の統合により、統合後のプラットフォームは、世界5000万人の学習者と230超の大学等パートナー、3500以上の教育プログラムの規模となる予定です。

この発表によると2Uは、あらゆる学習者に高品質な教育を提供するというedXの使命を踏襲することになっています。2UはedXをpublic benefit entity(公益法人)として運営の予定です。Public benefit entityは、特定の公益性のある目標を追求する営利団体のことで、これら団体は公益性のある目標と株主の利益をバランスさせながら事業を推進します。「公共の利益に尽くすというedXの理念(commitment)は、新事業体の設置趣意書にも刻まれます。edXは、その理念を踏襲する新事業体のガイドラインの下、運営されます」とMITのFAQにあります。

2Uは、以下に挙げる施策などを通じて、その使命を全うするとしています。

  • - 講座を聴講するための無償トラックを継続することを通じて、教育の負担可能性(affordability)を保証する。
  • - MOOCの講座を提供する教員や大学の知的財産を保護する。
  • - これまでedXに参加していたパートナー大学のedXとの協定が継続できるようにする。
  • - edX上の学習者の個人情報が保護されるようにする。
  • - オープンソースであるOpen edX platformの継続的な開発に貢献する。

今回の買収についてFAQには、パンデミック下の遠隔学習需要の拡大による、営利のオンライン学習市場における競争の激化が主要要因として挙げられています。「現在の資金供給体制においてedXは、急速に展開しつつある営利のオンライン学習市場において競争するだけのリソースがありません。ここ数年、オンライン学習は民間企業の投資の対象となり、その資金注入を得て成長していました。パンデミックはその傾向をさらに加速し、投資を得た企業はオンライン学習プラットフォームを機能拡張し、学習者や大学へのマーケティングに力を入れてきました」とFAQにはあります。

MITのRafael Reif学長は、MITコミュニティへのレターにて、この認識を繰り返しています。ハーバード大学のプロボストAlan Garber氏は、ハーバード新聞のインタビューに対して、「edXは10年近く、よくやってきており、我々はこれを誇りに思っています。しかし、この市場において営利のプレイヤー達は、学習サービスや技術プラットフォームへの投資を絶え間なく拡大してきており、edXは後塵に拝する危機にさらされています。2Uは、edXが非営利団体として出来なかった、新プラットフォー ムやマーケティングに投資するリソースを有しています。これは、2UがedXを新しく革新的な方法で、より多くの学習者を獲得できる場に発展させる能力を有してることを意味します」と述べています。

MIT教授でedXのCEOのAnant Agarwal氏は、「世界の人々の学びの転換と次世代の学習者にポジティブな影響を与えるべく、我々は大学のパートナー達とともに、教育を再構築していきます」と述べています。

この合併によりedXは、ハーバード大学とMITにより運営される非営利団体(名称未定)の下に置かれることになります。また、オープンソースプラットフォームであるOpen edX platformもこの非営利団体により維持されます。

この買収は、秋に成立の予定です。

[Campus Technology] (2021.6.29)
2U to Acquire edX, Pledges to Continue the edX Mission

[Inside Higher Ed] (2021.6.29)
2U, edX to Combine to Create Online Learning Giant

プレスリリース (2021.6.29)
2U, Inc. and edX to Join Together in Industry-Redefining Combination

2UがedXを買収したことへの反響

むむ。edXが2Uに買収ですか。edXはオンライン学習の非営利の砦だったのに。。。一応、非営利の活動として継続するとプレスリリースでは発表していますが、運営会社が営利企業となったら、そういう訳にもいかないでしょう。そもそも、非営利であることの限界を営利企業の力を借りて乗り越えるわけですから、営利企業らしい運営をしなければ、資金繰りも焦げ付くはずです。

このニュースは全般に、複雑な気持ちで受け止められているようです。「この買収がどのような影響を与えるかわからない。しかし、edXが営利企業の傘下に入ることは・・・」「プレスリリースでは、edXの使命を継承すると言っているが・・・」といったコメントを多く目にします。

踏み込んだ記事の中には、学術雑誌が第二次世界大戦以降、商業出版社に買収され、現在のジャーナル問題にまで発展したことに触れ、オンライン学習も同様の局面に立たされていると指摘するものもあります。論文や査読、そして教材を、大学や教員は一般に無償で制作しているため、これらコンテンツを収集し配布するビジネスは、利益率が極めて高いと説明されています。この記事には、「MITとハーバード大学、高等教育の未来を売る―edXを民間企業に明け渡すのは明らかな裏切り行為である」というタイトルが付いています。ちなみに、この記事が掲載されているChronicle of Higher Education紙は、米国高等教育界において定評のある新聞で、過激な記事を載せるような新聞ではありません。

[Chronicle of Higher Education] (2021.7.6)
MIT and Harvard Have Sold Higher Education's Future--Handing over edX to a private company is a gross betrayal.

edXにMOOCを公開してきたパートナー大学に不義理を働いているのではないか、という指摘もあります。今回の買収をedXがパートナー大学に相談した形跡はありません。また、edXは非営利であったため、パートナー大学から会費を得て運営されていました。edXはこれまで1.7 億ドルの負担金等(contributions)を得ており、そのうち0.8 億ドルはMIT とハーバード大学の負担、0.4 億ドルはパートナー大学からの会費、0.5億ドルはその他からの寄付などです。今回の買収により8億ドルが MIT とハーバード大学に転がり込んだわけですが、その収益をパートナー大学と折半するという話は報道されていません。無論、今回の2Uとの合併は、オンライン学習市場の競争激化を受けてedXの足腰をより強くするために行なったものなので、この収入はedXをより発展させるために利用されるのかもしれませんが、edXはパートナー大学と共に運営されてきただけに、収入の利用に関する透明性がないことには問題があります。

[Class Central] (2021.7.5)
2U + edX Analysis: Win for 2U, Risk for edX, Opportunity for Coursera--2U is acquiring edX for $800M, and edX will no longer be a nonprofit.

営利企業体に組み込まれるedX

いずれにしても、今回の買収は2Uには大いに有利に働いているようです。

2Uはこれまで、主に米国のマーケットを中心に、学部や大学院レベルのオンライン学位プログラムを提供してきていました。その学位プログラムの受講料は2.5〜7万ドルで、物理的キャンパスの授業料に匹敵するため、学習者の多くは学生ローン等を組んで受講しています。2Uの2020年の収入の38%は、学生が得た連邦政府奨学金(学生ローン)に依るものでした。2Uはこれら学習者を獲得するために、2020年には3.9億ドルをマーケティングに費やしています。学習者1人当たり獲得するのに3.9万ドルをかけている計算ですが、その10倍もの受講料収入を得ているので、それでも元が取れる計算となっています。ちなみに、2Uは学位プログラム以外に、受講料1万ドル程度の集中講座(bootcamp)と、受講料700〜4000ドルの単発のコースを運営しています。これらもそれぞれ、Trilogy社とGetSmarter社の買収により提供しています。

これら営利プログラムに対して、edXは非営利のオンライン学習プラットフォームとして運営され、学位プログラムというよりは、講座単位で学習コンテンツが提供されています。MITとハーバード大学が開始したことから、世界の多くの有力大学がedX上にMOOCを提供し、米国以外も含む世界各国から学習者が集まっています。簡単に言えば、オンライン上で両エリート大学が築いた高等教育のブランドが形成されているため、2Uはこのブランドとともに、パートナー大学と学習者を一挙に手にすることがで きるわけです。また、このブランド力でedXにアクセスした学習者に対してマーケティングを展開することが可能となるため、学習者一人当たりのマーケティングコストが大きく引き下げられることとなります。

今回の買収に関わる2Uの株主向けプレゼンテーションには、以下5点が主要ポイントとして挙げられ、非常にギラギラしています。

  1. 2UはedXにより、ブランド、ウェブサイト、マーケットプレイスを含む資産を8億ドルで獲得
  2. 世界5000万人の学習者、1200超の事業クライアント、230超の大学・企業パートナー、3500以上の教育プログラムとなることを通じて、獲得可能な最大市場規模(TAM)を拡大
  3. 1.2億以上のトラフィックを有すトップ5の教育ウェブサイトを通じて、大規模なグローバルオーディエンスと強い消費者ブランドを獲得
  4. マーケティングの効率性向上により投資資本利益率(ROIC)改善の期待
  5. 〔オンライン学習市場における〕リーディングポジションに近づき、高品質なデジタル教育へのアクセス向上と持続可能な価値創造をサポート

[2U|edX] (2021.6.29)
2U and edX: An Industry Redefining Combination

Courseraの動静

さて、edXにはCourseraという競争相手がいました。両者ともMOOC元年の2012年にスタートし、世界のMOOCブームの火付け役となりました。edXがMITとハーバード大学により始められたのに対し、Courseraはスタンフォード大学の教員2名が開始し、営利のベンチャー企業として事業を展開しました。当初は話題性もあり、ベンチャーキャピタルから多額の投資を得ていましたが、無償のMOOCからの事業の収益化が難しく、創設から10年近く経った今になっても、未だ黒字に転じたことありません。

しかし、Courseraは営利企業ということもあり、収益化の努力はとてもしており、講座の認定証だけでなく、学位プログラムの開発も進め、また、「Coursera for Campus」や「Coursera for Government」では、登録した大学や政府機関がCourseraの講座を自機関の学生や職員の人材育成に利用することができます。ベーシックプランは無償ですが、1学習者当たりの年間受講可能講座数やその他の付加的サービスが加わると有償となります。

Courseraはパンデミック下において、新規の学習者を大幅に獲得しました。2019年の新規登録者数は800万名であったのに対し、2020年には3100万名が新規登録をし、登録者は総計7600万名となりました。edXも新規登録者を伸ばしましたが、2019年の500万人に対して、2020年の新規登録者数は1000万名、登録者の総計は3500万名です。学習者の拡大に伴い収益も伸び、Courseraの収益は2019年の1.84億ドルから2020年には2.94億ドルとなりました。それでも赤字は続いており、2019年の純損益0.47億ドルに対して、2020年の純損益は0.67億ドルでした。

パンデミック下におけるCourseraの大幅な学習者獲得は、同社の努力の賜です。パンデミックとなり、急に余暇の増えた世界の人々の学習需要と意欲に応えて、2019年から2020年にかけて開講講座を3800から5540講座、Specializationsと呼ばれるまとまりのある教育プログラムを400から570プログラム、学位プログラムを16から25プログラムへと大幅に規模拡大しました。

一方で、パンデミック下に鑑み、Courseraは多くの講座を無償提供しました。115の認定講座やCOVID-19に関連する講座を無償提供し、「Coursera for Campus」では大学が5000名の学生に対してCoursera上の1800の講座と400のSpecializationsを無償で利用できるようにしました。1万以上の大学や学科、専攻がこのサービスを利用し、170万名の学習者がCourseraの講座に学びました。Courseraの2020年インパクトレポートによると、3700の大学が「Coursera for Campus」を利用し、240万名が学習をしています。「Coursera for Government」においても同様のサービスが提供され、70カ国110万名の学習者がこれにより加わりました。Courseraの2020年インパクトレポートによると、325の政府機関等72.5万名の学習者が「Coursera for Government」を利用しています。

Courseraのこれらマーケティング努力は、edXにはできなかったことであり、edXが今回の買収に期待するところでもあります。

なお、Courseraはパンデミック下の伸びに勢いを得て、2021年3月31日に株式公開しました。5.19億ドルの資金調達をし、初日から株価を33ドルから45ドルへと上げました。株式公開日第1四半期の収入は8840万ドルで、1年前の5380万ドルから大きな伸びを示しました。

[Campus Technology] (2020.6.1)
Coursera Makes Certificate Programs Free to College Students During Pandemic

[Campus Technology] (2020.10.14)
Coursera for Campus Extends Free Plans, Adds Enhancements

[Class Central] (2020.12.7)
Coursera's 2020: Year in Review

[Class Central] (2021.3.31)
Coursera Goes Public: Raises $519 Million, Stock up by 36% on Day 1

パンデミック下におけるMOOCの変容

パンデミック下においてMOOCの学習者は大幅に伸びました。急に生じた「お家時間」でやると良いことリストに「MOOC学習」が選択肢の1つとして挙げられていたことが大きかったようです。edXやCoursera以外のMOOCプラットフォームにおいても学習者が伸び、(カウントが難しい中国を除いても)1.86億名の学習者、950の大学がMOOCプラットフォーム上の1.63万講座、1180のMicrocredential、67の学位プログラムを利用しています。MOOCは2012年に誕生して以来、継続して伸びてきていましたが、新規学習者の獲得という観点ではパンデミック以前は頭打ちとなっており、2019年の新規学習者は2018年とほぼ同レベルでした。パンデミックがこの壁を乗り越えることに寄与しました。学習者が大幅に伸びたことから、2020年を「第2のMOOC元年」と称することもあります。

人気の講座も、新たな学習者の層を反映して、これまでと異なる傾向を示すようになっています。パンデミック以前の人気のMOOCベスト3は「コンピューター科学」「プログラミング」「ビジネス」でした。パンデミック後は「自己開発」「ビジネス」「アートとデザイン」がベスト3となっています。「アートとデザイン」はこれまでベスト10にすら入ったことがありませんでしたが、今回ベスト3に急上昇しました。これに対して不動の地位を保っていた「コンピューター科学」は6位に順位を下げました。さらに、MOOCはこれまで高いドロップアウト率が課題となっていましたが、パンデミック下の学習者はこれに対して、より根気強く学習をするようです。全般に、お家時間を利用した、自己研鑽のための学習が拡大していると想定されます。

なお、2020年に新たに開設されたMOOCの内、人気トップ100の1/5は「COVID-19」に関する講座でした。

[Campus Technology] (2021.1.5)
MOOC Enrollment Explodes in 2020

[Class Central] (2020.12.14)
The Second Year of The MOOC: A Review of MOOC Stats and Trends in 2020

パンデミック下で利用の進む教育IT

大学で利用される教育テクノロジー(教育IT)も全般に伸びを見せました。以下の記事には、米国の大学において利用されている教育ITツール別の伸びに関する棒グラフがありますが、容易に想像できるように、「ビデオ会議」ツールが最も大きな伸びを見せています。2019年には51%の大学が利用していたのに対して、2020年には33%の大学が新たに利用開始しています。そのほか、「ビデオ録画配信」(44%+13%)、「成績評価の公正性」(29%+16%)、「バーチャルラボ」(11%+12%)が大きな伸びを見せています。ちなみに、2021年に大きな投資を得ると見込まれているのは「OER」(15%+3%+7%)、「学生支援」(32%+5%+6%)、「教科書・教材」(33%+2%+5%)です。

教育ITの利用率順(2021年の投資予定を含む)は以下の通りで、「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」が96%と最も多くの大学に利用されていますが、LMSは2019年段階で既に93%の大学に利用されていたことを考えると、それほど大きな伸びはみせていません。

大学における教育ITツール利用順(2021.6現在)

  • ・ LMS(96%)
  • ・ ビデオ会議(87%)
  • ・ ビデオ録画配信(60%)
  • ・ アクセシビリティ(51%)
  • ・ 教科書・教材(40%)
  • ・ 学生支援(43%)
  • ・ 成績評価の公正性(49%)
  • ・ OER(25%)
  • ・ バーチャルラボ(28%)
  • ・ 第三者による講座(8%)

(出典)Quality Matters and Eduventures Research, "The Changing Landscape of Online Education (CHLOE), 2021," (2021)

なお、出典のCHLOEはchief online officerを対象として、米国高等教育機関におけるオンライン学習の構造や組織に関するアンケート調査を行なっており、2021報告書は422の米国大学から回答を得ています。

[Campus Technology] (2021.6.8)
How the Pandemic Boosted Ed Tech Adoption

デジタル時代の大学教育は何処へ

オンライン学習について全般に大きな地殻変動が生じているように思います。大学キャンパスにおける講義のほとんどがオンラインもしくはハイブリッドとなったのは勿論のことですが、オンライン教育が一段とビジネスとして確立してきたように感じます。また、サービス提供側の事業規模拡大と体制の組織化だけでなく、学習者が世界規模で物理的な教育学習プログラムから離れ、良質なオンライン教育を求めるようになったことが大きいように思います。

パンデミック以前、オンライン教育は大学にとって完全に別世界のものでした。MOOCが2012年に登場し、世界の有力大学を皮切りに、オンライン講座の提供がより多くの大学に身近なものとなりましたが、キャンパスの外で流通するオンライン講座を自大学の学生の教育教材として積極的に利用するという発想をもつ大学は僅少でした。「Coursera for Campus」はこれを積極的に進めようとするプログラムでしたが、パンデミック以前はあまり普及しませんでした。しかしこの記事に紹介したように、パンデミックを通じて、オンライン教育を自大学の学生に急に提供しなくてはいけなくなった大学が、お試しでこのサービスを利用し、利用が拡大しているようです。

我々大学関係者が手作りのオンライン講義で奮闘している間に、教育IT企業は利便性の高い教育プラットフォームの開発・増強や、良質の教育コンテンツの獲得を通じて着々と収益化可能なサービスの開発を進め、ユーザーとしての学習者と大学パートナーの囲い込みに着手しているように見えます。

気がついたら大学は、これら教育IT企業の提供するプラットフォームなしでは効率的にオンライン教育を提供できなくなる時代が来るのではないでしょうか。講義提供の面、そして学習者獲得の面において、多くの学習者と大学の行動履歴を利用する巨大プラットフォームのマーケティングツールは無敵なものとなります。

更に、こうしたオンライン学習プラットフォームは多くの大学からの講座を一カ所に集め、学習者は所属大学の提供する講義に縛られずに、自分の好みの講座を選択的に学ぶことが可能となるので、「高等教育のアンバンドリング」が目前に近づいていることを意味します。MOOC誕生時もそのような言説はありましたが、当時は、MOOCの単位化やMOOCによる学位取得が進まず、そこには至りませんでした。しかし、過去10年弱の間に、MOOCを利用した大学の単位や学位取得プログラムが開発され、少しずつでも利用されるようになり、パンデミックによる学習者の世界的拡大がそのポテンシャルを高めています。

高等教育のアンバンドリングは、パンデミック以前は夢物語でしかありませんでしたが、パンデミックを通じて急速に現実に近づいているようです。そのようになってしまってから慌てるのではなく、そのような世界観においてどのようにすれば大学として発展的に生き延びられるのか、今からいろいろなシナリオを検討しておいた方が良いように感じます。卓越した論文の生産性が大学の評価軸となってきたのと同様、より多くの学習者に選択される「良質な教育コンテンツ」を提供できる大学あるいは教員が、勝ち残るのではないでしょうか?

船守美穂