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Surge of student informants in China

中国の大学では、教授が習近平国家主席あるいは中国共産党に不誠実でないか、学生の通報者(student informers)が見張っているとニューヨークタイムズ紙が報じました。習近平主席のもと、こうした学生の通報者の数は拡大しました。数百もの大学がこうした学生を活用しています。

学生の通報により教授職を追われるか、制裁を受けたという事件は、昨年から数えて最低でも十数件あります。たとえば、中国中部にある大学の教授は、習近平主席の任期制限が撤廃されたことを批判したことで、解雇となりました。北京に在する数学の教授は、日本の学生の方が中国の学生より勉強熱心であると指摘したことで、停職となりました。

これら学生の通報者は教室に緊張感をもたらす(creating a climate of fear)と教授達は言っています。

[Inside Higher Ed] (2019.11.4)
In China, Surge in Students Informing on Professors

[New York Times] (2019.11.1)
Professors, Beware. In China, Student Spies Might Be Watching.

[Newsweek] (2018.9.12) 中国の大学ではびこる密告制度

怖いですねえ・・・。教室でうっかりしたことも言えません。
ニューヨークタイムズ紙の記事には、そのほかにも複数の事例が挙げられています。たとえば、重慶師範大学のある教授は、習近平氏がよく口にしている「腕まくりして、頑張ろう!」という口癖が「品がない(coarse)」と指摘し、教育職から外されて、図書館勤務となりました。廈門大学の経済学教授You氏は、習近平氏のスローガンである「中国ドリーム(Chinese dream)」という表現について、夢というのは「幻想とファンタジーである」と指摘し、解雇されました。清華大学のマルキシズムに関する教授Lü Jia氏は、中国と社会主義について批判していたと学生に通報され、大学により調査されました。Lü Jia氏は、「世界では西欧文明が引き続き主流で、その一方で中国文明は衰退傾向にある」と指摘したそうです。

ニューヨークタイムズ紙の記事によると、こうした学生の通報者は、大学が公募し、雇用しているそうです。こうした通報者になるためには、中国共産党員であるか、「正しい政治観( "correct" political views)」を持っていることが条件とされます。学生は通報をすることにより、奨学金や良い成績(higher grades)、共産党における昇進を約束されるのだそうです。 習近平政権のもと、一教室に一学生通報者を確保しようとする大学が拡大し、学生通報者の数が増えました。教室にビデオカメラが設置されていることもめずらしくなく、上述のYou氏によると、このビデオを証拠として利用する可能性を、大学執行部に匂わされたそうです。
こうした学生通報者の存在は、教室におけるディスカッションに制約を生むと想像されるのですが、四川大学の学生通報者Peng氏は、そのようなことはないと否定しています。これまで中国の大学は、学生の意見を十分に聞いていなかった。「教員は学生の関心事に耳を傾けなければいけないのです!」と述べています。
学生は、大学の教室内における教授の言動のみを監視しているだけではありません。一部の学生は、教授の本や映画の趣味などを含む私生活も、監視の対象としているそうです。通報者間で定期的に情報交換をし、教授の性格や価値観、愛国心などについて、認識を共有するそうです。

学生通報者は、毛沢東の文化大革命(1966〜1977)時期から活用されており、近年、再び強化されていると言われています。 中国の大学は、日本の大学のように「教育部局(学部・研究科)」と「事務局」のみから構成されているのではなく、「共産党委員会」が各大学の組織にしっかりと位置づけられています。以下のScience Portal Chinaの情報によると、学内の共産党委員会の役割は、共産党の政策を大学に伝達し、学長の重要な決定を補佐することのようですが、実際には学長より学内において主導的立場にあり、対外的な広報もすることから、大学の方針を握っているようです。
中国の大学における学生通報者は、こうした中国大学の組織構造のもとに生み出されています。

[SciencePortal China] (2016.6.7)
【16-02】中国の大学の構造について ― 当事者に聴く中国教育事情

学生通報者を利用した大学や教授の言動の監視は、中国本土に留まりません。
最近、オーストラリアに逃亡した中国のスパイWang "William" Liqiang氏によると、香港大学の各種学生団体に中国本土の学生を侵入させ、急進派のフリをさせて、本物の急進派の学生の個人情報や両親、親戚の情報を引き出していたそうです。こうした学生のリクルートにおいては、学生の愛国心に働きかけながら、奨学金、旅費、同窓会組織や教育財団などで学生を釣っていたそうです。

[Inside Higher Ed] (2019.11.25)
Chinese Spy Details Operations at Hong Kong Universities

[The Age] (2019.11.23)
Defecting Chinese spy offers information trove to Australian government

中国共産党の検閲の目は、中国の外にも拡がっています。
昨年、ケンブリッジ大学出版は、中国研究のリーディング雑誌であるChina Quarterlyという雑誌から、300以上の論文を同社の中国のサイトから撤去しました。撤去された論文には、中国の一党支配や1989年の天安門事件、毛沢東の文化大革命、香港の民主化に向けての戦い、新疆とチベットにおける多民族問題など、政治的に機微な記事が多数含まれていました。ケンブリッジ大学出版は北京からの要請を受け、「これら以外の教育研究資源が、中国の研究者と教育者に利用可能であり続けられるように」、これら論文をブロックしたと発表しています。
この論文の撤去は数日後に、(大学出版会ではなく)ケンブリッジ大学当局側の「学問の自由を守る」という判断と要請により、復帰されましたが、一時期にせよ、アカデミックコミュニティでは査読を通じて是とした論文が、外部からの圧力により撤去されるというのは恐ろしいことです。

[The Guardian] (2018.8.19)
Cambridge University Press accused of 'selling its soul' over Chinese censorship

[The Guardian] (2019.8.21)
Cambridge University Press backs down over China censorship

米国については先週上院がレポートを発表し、中国の海外ハイレベル人材招致「千人計画」を通して、米国の最先端の研究が中国に流出していると警鐘を鳴らしました。
「千人計画」は2008年に開始した、海外で活躍する中国系の研究者を母国に呼び戻すことを中心とした200程度のプログラム群です。これらプログラムの中には、中国研究者を母国に呼び戻すだけでなく、海外大学に在籍した状態で、各種の研究委託等をするものもあります。
上院のレポートで示されたサンプルの契約では、研究委託を受託した研究者が、中国の法を遵守すること、契約の存在を秘密にすること、ポスドクをリクルートし、全ての知的財産をスポンサーとなる中国の機関に譲渡することが記されているそうです。このような契約により、米国の教育研究機関内の研究室のミラー研究室が、中国の機関に形成され、中国の機関は世界の誰よりも早く、米国内における研究の最先端の動きが把握可能となるそうです。
このレポートでは、このようなミラー研究室のことを、「シャドー研究室(shadow labs)」とも呼んでいます。

[Nature] (2019.11.20)
Chinese infiltration of US labs caught science agencies off guard

[SciencePortal China]
海外ハイレベル人材招致「千人計画」

近年、欧米の大学がHuawei社からの寄付や共同研究を取りやめるというニュースや、Huawei所属研究者がIEEEの査読等に携わることの一時制限のニュース、教育面では、中国の言語や文化を伝達する孔子学院を閉鎖するようなニュースが報じられており、個人的にはこれらを紹介しつつも、「何もそこまでしなくても・・・。過剰反応なのでは」と内心思っていたのですが、これだけ組織的な検閲や通報の実態を知ると、(たとえそれが仮にごく局所的に起こっていることだとしても)、考えを改めなければいけないのかも・・・、という気になってきます。

[mihoチャネル] (2019.2.27)
オックスフォード大学、Huawei社からの新たな寄付等の受入れを取りやめ

[GIGAZINE] (2019.6.4)
Huawei関係者による論文査読の制限をIEEEが解除

[Inside Higher Ed] (2019.1.9)
Closing Confucius Institutes

船守美穂